代償
―カシャンっ カシャンっ
………ドサッ――
拘束されていた手錠がはずされたと同時に、詩はその場に崩れ落ちるように倒れ、そこで記憶は途絶えた。
黒ずくめの男達は、そんな詩をかかえ、処置室へ連れて行った_____
―翌朝
「うっぐ....」
窓から差し込む朝日の眩しさと、全身の痛みで、詩は目が覚めた。
ここは、罰則が終わった後連れてこられる処置室。
古くきしむベッドしかない、殺風景な部屋。
「っぐ....」
体に力を入れても、起き上がることができない。
「くそっ...」
詩は拳を握り締め、歯を食いしばった。
無力だった。
こんな風に、何もできないやりきれなさを感じるのは、久しぶりだった。
しばらく、じっとしてることしかできなかった______
目を瞑るとなぜだかよみがえる。
あの頃の、無力な僕らが……
「おーい秀に昴ー!お前らまた罰則かー?
ゲロ掃除なんてよくやるよなー」
―何時間やってるんだよ……
なかなかゴミ箱を捕まえられない2人に、じれったくなって声をかけてみた。
「なっ!……詩っ……いつのまにっ」
思った通り、2人は俺の登場に驚いた。
「ずっといたよ。お前らが来る前から。おかげでうるさくて寝れないよ」
嫌味ったらしく、大きな欠伸をしてすっと木から飛び降りる。
「ずっと見てたのかよ」
昴が仏頂面で聞いてくる。
「ああ。てかゴミ箱1つも捕まえらんないのかよ」
そう言って、どこからともなく現れた式神を指先で操り、ゴミ箱を捕まえる。
約5秒。
ゴミ箱ゲロ掃除は終わった。
「いいかー貸しだぞー」
そういい残して、俺は次の寝床を探しに立ち去る、
ハズだったのに………
秀一と昴は悪戯っぽい笑みを浮かべたかと思うと、顔を見合わせ、
「せーんせーいっここで詩くんがサボってますよーっ」
「せーんせーっここに東雲詩くんがいますよー」
と、叫びやがった。
「おおお、おいおいおいっ!やめろっやめろってば!
じんじんでも来たらどーすんだよっ」
「フンっ詩に貸しなんてごめんだ!」
「そーだそーだ!これで貸し借りなしだっ」
ちきしょーっまじムカつく!
「わかったよ!俺がサボってたこと誰にも言うんじゃねーぞっ」
仕方なくそう言って、今度こそ立ち去ろうと2人に背を向ける。
「詩」
秀一がいやに静かな声で俺を呼んだ。
さっきとは、空気が違う。
すーっと、風が通り抜けた。
詩は、背を向けたまま立ち止まった。
「お前はっ……お前は悔しくないのかよ。
……先生の事を、みんなデタラメ言って。
俺達は、嘘なんかついていないのにどうして、どうしてこんなこと………」
「櫻野……」
小さな昴の声が響く。
「お前もっ!お前も先生に助けてもらったんだろ!
なんでお前はそんな平気な顔していられんだよ!」
最近の詩の様子が気に入らなかった。
もう、あんなによくしてくれた先生のことを忘れたかのように学園生活を送っていた。
でも、それは違った。
「俺だって、悔しいよ。
悔しくないわけないだろ。
―だから俺は、決めたんだ。
俺が先生の代わりに、この学園を変えるんだ。
俺は俺のやり方で動く。
お前らは、お前らのやり方で動けばいい」
「アイツ……」
「ま、待てよ詩っ!お前のやり方って……」
詩は振り返る事なく、次第にその影も2人の前からなくなった。
―今はまだ、こんな小さい俺が動いたって、何も変わらないかもしれない。
でもいつか絶対、変えるんだ。
この学園を_____
俺は、先生の意志を受け継ぐ。
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