代償



―棗、よかったな。

ほんとは、近くに行って声をかけてやりたいけど、それはまた今度にしよう。





詩は、そっとその場を離れた。

正門に背を向けた瞬間、詩は冷たい表情になる。

それまで、棗たちをみていた穏やかな表情とは違い、冷め切ったもう1人の詩の表情。

振り返ることなく、にぎわう正門から離れていった。





その姿が、ふいに目に入った棗。

はっとして、もう一度その場を見るが、詩の姿はなかった。




―気の、せいか......?




















「驚いたよ、君が自らここにやってくるなんて。

自分から出向いたにしては遅すぎると思うが、1週間どこにいたんだ」

初校長の久遠寺からは、静かな怒りが読み取れる。

「学園にいたよ」

詩も、強い瞳を久遠寺に向けた。

「質問の意図がわかってないようならはっきり言おう。

君をかばい、かくまった協力者は誰かときいている」

昼だというのに、カーテンの閉め切られた暗い部屋は、嫌な緊張感があった。

「1週間、ひとりで過ごしていた。

誰もかかわっていない。

個人的に花姫殿に侵入したことに関しては、規則を破ったものとして罰を受けて当然と思っている」

詩はそう、貫き通す。

「言う気はなさそうだな。

愚か者が....

まあいい、これから受ける罰則で気が変わって言う気になるかもしれない」

吐き捨てるように久遠寺は言う。

「罰は受けるが、話すことは何もない。

この件に関して深堀されて困るのはむしろあんたのほうじゃないのか」

詩も、ひるむことなく返す。

「詩、言葉には気をつけるといい。

そうやって私を追い込んだと勘違いするな。

最近のお前といい黒猫といい、お前たちの行動は目にあまる。

せいぜい今のうちに学園生活をたのしんでおくんだな」







それから、詩への罰則を命じた。

詩が部屋から去っても、久遠寺の怒りは収まらない。





「飼い犬ごときが私に歯向かうなど、許さない.....」

苦々しげに久遠寺は言った。








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