代償
正門前には、極秘のはずが、かなりの人数。
棗の妹、葵の見送りだ。
それを詩は遠目から見守る。
初校長のところまで向かう前の寄り道だ。
堂々と出ては、学園関係者も傍にいることだし、捕まるのは目に見えてる。
詩の視線の先には、元気そうな蜜柑の姿。
自分が寝ていたときの出来事やこれからのことなど、情報は秀一と昴からすべてきいた。
勿論、蜜柑の〝盗みのアリス〟の件も。
あとは、陽一も第2のアリスが発動したこと。
そして、棗が学園に残ると決断したこと。
そんな事を思っていると、正門前に車が1台停まった。
中からは、棗の父親と流架の母親。
皆が、ふっと静かになる。
すぐに葵は駆け寄り、正門をでる。
そして、父親に抱きついた。
父親も、娘を愛しそうに抱きしめる。
正門は閉められたが、父親は鉄策の間から手を伸ばし、棗の頭に手をのせる。
そして、涙を流した。
棗も、ぎゅっと鉄柵を力を込めて握る。
そこには、家族だけの時間が流れていた。
皆、そっと見守る。
そして一方で、流架も母親のもとにいた。
こちらでも、久しぶりの再会で、母親は流架の頭を抱き寄せ泣いていた。
棗の父親も、流架の母親も、2人の息子、そして葵ちゃんのことを思わなかった日はなかっただろう。
それも、別れがあんな別れ方だっただけに、誰よりも強い思いだったのだろう。
しかし、久しぶりの家族の時間は、あまりにも短いものだった。
「面会は終了です―」
「お引取りを」
そう、学園の者が言い、棗と流架を親のもとから引き離す。
学園での時間に、引き戻される______
たったわずかな時間でも、詩は正直羨ましかった。
―家族って、やっぱりいいよな....
帰る場所があることが、すごく羨ましかった。
自分の父親と母親の顔なんて、思い出すことさえできない。
唯一覚えているのが、母親の冷たい声と、父親の冷たい瞳。
「何がアリスよ!!
何が式神よ!!」
「こんな気持ち悪い能力もった子なんて、うちに置いとけないわよ!」
「こっちを見ないで!
近づかないで!」
「何で!?
何で普通の子に生まれてくれなかったの?」
「こんな子なら、産まなきゃよかった!」
母親から跳ね除けられ、助けを求めようと父親をみつめても、顔を背けられた。
これが、詩の両親とのたった1つの記憶。
こんな記憶なら、忘れたほうがマシだった_______
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