代償
―ドンドンドンッ
「櫻野秀一、部屋の見回りにきた。
扉を開けなさい」
秀一と昴ははっとする。
「すいません、今着替え中で.....」
「ならば早く済ませなさい」
「はい、わかりました」
勿論、着替え中というのは嘘。
急いでベッドに向かう。
1週間ほど、詩は櫻野の部屋で過ごしていた。
詩は部屋に戻ると言ったが、体調を心配した櫻野がとどまらせたのだ。
昴も治癒のアリスを施すため、櫻野の部屋に来ていた。
「....ありがとな、秀、昴」
そういうと詩は、ベッドを出て窓に手をかける。
「詩、あそこにいくのか?」
昴は神妙な顔つきだ。
「ああ。規則を破ったことは事実だから。
それに、このままだと2人にも迷惑をかける」
詩は苦笑いで答える。
「そんなのたいしたことじゃ」
「たいしたことだよ。
俺たちは別々で動いたほうがいいんだ。
お互いのやり方がある」
詩の言っていることは確かだ。
初校長の側近で危力系の詩にしかできないこともあれば、学園の顔として表側にいる櫻野と昴にしかできないこともある。
足を引っ張らないこと、お互いの領域を任せることは、いつしか暗黙の了解となっていた。
「櫻野ー、まだかー?
まさかとは思うが、東雲詩をかくまってるんじゃないだろうな?」
見回りの声だ。
あれから、姿の見えない詩をとうとう探し始めているらしい。
ここで自分が、この部屋にいるのを見られては、学園代表と副代表の2人がどんな処分を受けるかわからない。
「十分2人にはよくしてもらったよ。
じゃあまた」
詩はいたずらっぽく余裕をみせて笑った。
それが二人を安心させるものだとわかっていても、嬉しかった。
「本当、詩にはかなわないよ」
詩がいなくなった部屋で、櫻野はぽつりとつぶやいた。
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