禁域/暴走
花姫殿の地下の一角。
ここでは、ルイと颯、翼と陽一の姿があった。
両者譲らない攻防だった。
「っくそ....影あやつりが全然きかねぇ....」
でも、そんなことを呟いてる暇もなかった。
すぐに次の攻撃がかかってくる。
―ヒュッ
「ぅっわ」
翼はそれを間一髪で避ける。
「ちょっと、アンタどこ狙ってんのよ」
「しょーがねーだろっこっちも影踏まれてんだからっ」
そうこうしている2人に、悪霊が襲い掛かる。
「あっぶねぇ!アイツっ」
「....3歳児が.....」
一瞬、ルイの声が低くなった。
「こっちの本気も、見せてあげようじゃないの」
そう言ったルイからは、ただならぬ負の気が出ていた。
怯む陽一。
そこへ、容赦なく降りかかる、呪い。
「陽一っ!」
翼がそう叫んだとき、シャッと、白いものが皆の視界を遮った。
ぎりぎりのところで、呪いも途切れた。
皆、目を丸くする。
「詩っ!?」
「詩ちゃん...?」
「詩兄!?」
「にーたん....」
そこには、詩の姿があった。
しかし、4人の目に映る詩は異様だった。
体中から撒き散らすように式神を出し、頬や髪、手には、べっとりと乾いた血がついていた。
皆、目を見開く。
一瞬にして皆の脳裏によぎった、
―任務
という言葉。
そんな詩の表情は、やはり前髪で見えなかった。
その場で固まっている、4人の反応をどう思ったかはわからないが、詩は厳しい口調で言う。
「ルイ...棗のところに案内してくれ」
その言葉にはっとするルイ。
「詩ちゃん何言って....早くここから出ないと詩ちゃんが.....」
「その俺がここへ来るほどの理由があるんだ。
一刻を争う、お前が一番知ってるだろ」
静かな口調で言う。
「何言ってんのよ、そんなこと、私には関係ない.....私はただ、詩ちゃんのために!」
珍しく口調を荒げるルイ。
ルイの言いたいこともわかる。
初校長かペルソナに、棗を幽閉することで詩の任務が減るなどうまいことを言われたのだろう。
「詩ちゃん、私たちはもう、詩ちゃんがひとり犠牲になるのを見てられない」
ルイの悲痛な声は確かに、詩の心に刺さっていた。
「う...詩兄...血っ血っ....」
颯は完全にパニック状態だ。
「もう一度言う.....棗の居場所を教えてくれ」
それでも詩は、静かな少し冷たい口調で言う。
「....詩ちゃん」
ルイの顔が、今にも泣きだしそうに歪む。
「詩っ....確か詩ってここにきちゃいけないんだよな?.....早く、ここからでろよ!」
翼もようやくことの重大さがわかってきたようだ。
「詩ちゃんっお願いだから!ここから出て!見つかったら詩ちゃんがどうなるか.....」
再びルイが訴えかける。
「ごめんルイ....。
お前の気持ちも、俺自身の立場もよくわかってる。
それでも、俺はここへ来てるんだ。
聞き分けわるくて、心配ばかりかけてごめん。
そして、今ゆっくりお前たちを説得してる暇もないんだ。
これからすること、許してくれ」
そう言うと、詩は周りを飛び回っている式神の中から1つ捕まえ、人さし指と中指の間にはさむ。
―シュッ
式神が、ルイめがけて飛んでいった_____
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