禁域/暴走
「何、詩がもう戻ってきただと?
...問題はない。
体力など残っていないはずだ」
少し誤算だったが、任務成功にほくそ笑む初校長。
このあとの詩の行動など、知る由もなかった。
制服こそ元のままだが、顔や手、トレードマークのミルクティー色の髪には、乾いて変色した赤茶色の血がついたままだった。
短時間ではあるが、そのぶん多くの式神を使った。
組織ひとつを一人で相手にし、最後に犬型の式神まで使った。
そのおかげで、体はとてつもない疲労感に襲われていた。
命を削るアリスのタイプの影響もあって、体はボロボロだった。
なぜこんなにも、自分を犠牲にするのか。
詩には何にも代えられない理由があった。
それは、幼いころの恩師の存在が大きい。
彼に出会っていなかったら、今でも自分のアリスを呪って生きていたかもしれない。
闇の中を一人さまよっていたかもしれない。
彼は、たくさんの人と人をつなげ、かげがえのない絆を結んでくれた。
アリスでよかったと、生きていてよかったと思わせてくれる仲間と居場所を教えてくれた。
そんな家族のような仲間が、同じ闇に落ちていくのを黙ってみていられるわけがない。
同じことを決して繰り返してはならない。
先生が命を懸けてまで守りたかったもの、変えたかったもの。
俺はその意志を継ぐんだ。
未来を、運命さえも変えてみせる。
早急に身体を休めなければならない状況にあったが、詩のふらつく足の向かう先は、寮でも病院でもなかった。
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