このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

紅い式神/乱舞/任務



目の前にいたのは、











―獣








この世のものとは思えないほどの威圧感。

白く大きな巨体の、大きな牙の間からよだれをたらす。

詩の身長にも並ぶほど大きな姿は、犬とも狼ともとれる。

「ガウッ....ガルルルル....」

低くうめき声をあげる獣。

その迫力に後ずさりする、幹部。







「ガァァァァアッッ」

家具が震えるほど吠えると、獣は飢えた真っ黒の瞳で詩をみた。




「やれ」

低く冷たい声で命じた。





その瞬間、この部屋は殺戮の場となった。

獣のうなる声が響き、血の生臭い匂いが部屋中に漂った。

肉が引きちぎられ、血が飛び散る。

そんな光景を目の当たりにしても、詩は静か過ぎるくらいにたたずんでいた。








すべての者の息が絶えても、獣は今もなお、人間の肉に歯を立てている。





―ザザッジー...




耳の中で、イヤホンが反応した。

「詩、もういい」

東堂の無機質な声がした。

しかし詩は、獣へやめさせる指示を送らない。

というか、東堂の声が聞こえてはいないかのように無反応だ。

「詩、きいているのか。

もういいと言っている!

戻れ」

再度、東堂が言う。

それでも詩は、ぴくりとも動かなかった。

「詩、やめろと言ってるんだ!!」

いくら東堂でも、見るに堪えない光景が広がっており、感情的になった声。

魂が抜けたようにたたずんだままの詩。







「詩!命令が聞けないのか!

目の前をみろ!!

終わったんだ!!」

叫ぶように東堂が言った。

モニターには、あまりにも悲惨な状況が映し出されていた。

東堂の大声がやっと届いたのかはっとする詩。

細かに左手を動かす。

すると、強い風が一吹きし、部屋から獣の姿が消え、代わりに紅く染まった犬型の式神が転がっていた。

詩はそれをしまったと同時に、目の前の状況を直視しなければならなかった。










手が、震えた。

自分のことが怖くなった。

夢であってほしいと思うが、息をするたびに嗅覚を血生臭さが刺激し、現実が襲ってきた。










.
8/9ページ
スキ