危険能力系の代表
「いつも面倒かけてわりぃな」
そう、言葉ではいうも全然悪びれていない相手にむっとする。
お詫びといっておごってくれた缶ジュースを、黙ってぐびぐびと飲んだ。
そんな子どもじみた反応でも、何も気にしていない様子で笑うのは彼らしい。
アリス祭の全日程が終わり、後夜祭のラストダンスが終わって寮へ戻るころに、さっきまで一緒にいたかのように現れた詩。
「詩にもみてほしかった、今回の特力の出し物」
そう、不貞腐れて言った。
「ああ!それ!」
ぱっと顔を輝かせたのと同時に、ミルクティー色の髪がふわっとゆれた。
「きいたよ!!特力が特別賞とったって!!
おめでとう!!やったな!!」
わしゃわしゃと頭をなでてきて、自分のことのように喜ぶ彼の方が、やっぱり子どもに見えた。
「俺も、特力がみんなに認められるのうれしいけど、雪でも降るんじゃねーか?」
カラカラと笑う彼に悪気はない。
「それ、みんなに言われ飽きたよ。
つーか“あの”とか余計。
....まあ、今回は蜜柑のおかげなんだけど」
ぼそっと言ったその一言に、詩は反応した。
「蜜柑...」
「あ、新入りの初等部のこでさ、」
「棗のパートナー」
翼の言葉を遮って先を言った。
「そうだけど、もう知ってるんだ?」
「まーな」
得意げなその様子に、相変わらず情報が早いな、と思った。
“任務”で学園内外、本部を行き来する詩、そしてそのもつアリスの性質上、そういう情報を知るのは早かった。
「なおさら行きたかったなーアリス祭。その蜜柑ってこがいるならさ」
詩は蜜柑に興味をもつのは、あの、毛利レオが絡んだ誘拐事件があったからだろうか....
それとも何か....
「蜜柑なら特力くればいつでも会えるよ。
明日にでも特力くる?
蜜柑を紹介するよ」
そうだ、と翼は提案する。
ここ最近、詩と遊んでいなくてつまらなかった。
「あー...ごめんっ
明日からまた別件の任務なんだ」
「また?」
また不貞腐れた顔をする翼。
わりーわりーと、笑う詩はこちらの気も知ってか知らずか。
「落ち着いたらまた遊ぼうな」
ふわっと笑って立ち上がると同時に、詩は翼の頭をいつもどおりがしがしとなでた。
「うわっ
それやめろってば」
「いいだろーこのくらいのスキンシップ」
むっとして睨むけど、彼にはなんら効果もない。
逆にそんな反応さえ楽しんでいるようにみえる。
夜でも明るいミルクティー色の髪。
明日から任務ってことは....そんな合間にわざわざ会いに来てくれたのか....
そう解釈すると、憎めないものだ。
「あっ」
突然、何か思い出したような詩。
「何?」
帰りかけたと思ったのに、わざわざ近寄ってきて耳元で声を落とす。
「そういえば美咲とはどこまでいったの?」
「ばっ!!!か!!
何言ってんだよ、美咲とは付き合ってねーし」
不意打ちに、自分でも顔が赤くなるのがわかった。
「必死になっちゃってかわいーねー」
悪戯っぽく笑う詩は、するっと翼の肩から離れた。
ああ、また行ってしまう....
いつもは素っ気なく返すけど、なんだか今日は寂しくて。
街頭の下、背を向ける彼の長く伸びた影をふんだ。
「わっ」
と声をあげつんのめる詩。
影あやつりで動きを制御したために、詩はその場にとどまるしかなかった。
間抜けなその姿につい笑ってしまう。
「翼てめー離せよこらっ」
怒るその姿は、先輩というよりは同い年の友だちという感覚。
でも、追いつけないその背中は、兄がいたらこんな感じなんだろうなと思わせる。
「さっきの仕返し!」
子どもみたいな言葉しか出ないけど、せめてもの抵抗。
「もーそんなんで怒んなよ。
ガキじゃねーんだから....」
呆れてるような詩は、にやっと笑う。
「いっちょ前にラストダンスはしたみたいだしな.....」
はっと気づいた時には遅く、詩の式神が腕に張り付いていた。
これが意味することは、心を読まれたと同然。
やっぱりかなわないな、と素直にその影から足を離した。
片手をあげ、「じゃーな」と去っていく後ろ姿。
ー気をつけろよ....
その背中を見送ったとき、はらりと式神が落ちた。
詩の分身のようにその人型の紙も翼に手を振り、夜の闇に消えていくのだった。
詩に、届いただろうか_____
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