紅い式神/乱舞/任務
「―ついたらすぐ、任務にかかる」
「いつになく、やる気がありますね。
こちらとしてはその気概は助かりますが、ここは慎重に行うのが常套手段です」
東堂は、いつも任務に口出しをしない詩を珍しく思う。
「ビルの広さと設計、敵の数、主な使用武器、全部目を通した。
すぐ終わらせる」
「ずいぶんと今日は殺気立ってますね。
人一人殺すことを躊躇うあなたに果たしてそんなことができるとは思えないのですが」
東堂がそういうのも無理はない。
確かに、詩は今まで例え犯罪者だとしても、なるべく流れる血が少なくなるように作戦を組んでもらっていた。
しかし、今日はそんなことは言ってられない。
クリスマスパーティーから募っていた嫌な予感。
花姫殿を訪れたペルソナ。
蜜柑や棗に対する学園側の不穏な動き。
そして、わざわざ詩を任務という口実で学園から遠ざけたことで、予感は確信に変わった。
一刻も早く、学園に戻らなければならない。
「そうだよ。
俺は人を殺したくない。
でも、今日の相手は不幸だ。
俺の勝手な理由で、命乞いをする暇さえない。
久遠寺の思い通りにはさせない」
静かな車内に冷たい詩の声が響く。
「いつもその調子でやってもらいたいですね。
まあ私は学園なんかに興味はありません。
あなたの、その美しいアリスさえ見れればね」
東堂は気味の悪い笑みを浮かべる。
詩は、そのアリスの能力の高さと珍しさから、今日本で注目されているアリスとして名高い。
東堂も、詩のアリスに目をつけている人物の1人だった。
東堂の趣味はアリスの鑑賞。
いつもアリスをみて光悦している姿が悪趣味で、詩は不快に思っていた。
しかし、今回はそれが功を奏した。
東堂はその自分の趣味さえ満足できればよく、学園の内情については甚だ興味がない。
詩を足止めするということが命じられていても、東堂にとっては関係ない。
―あなたのアリスは、世界で最も美しい。
生きていても容易には出会えない代物。
さあ、今日も私を楽しませるのです。
東堂は楽しみで仕方がないといった様子で、笑みが抑えきれていない。
そんな変態ともいえる東堂のことは、やっぱり苦手だ。
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