紅い式神/乱舞/任務
「ぁああ゛ー!!」
―ガンっ
詩は廊下を歩きながら、無力な自分にイラつき壁を殴る。
「...くそ」
小さく呟き、殴った拳を見つめる。
うっすら血がにじんでいた。
かなりの力で殴ったようだが、自分に痛みは感じない。
詩は拳を握り締めまた歩みを進める______
正門へ向かう詩を、冷たい風が包み込む。
自然と体も縮こまる。
ふと、視線を足元から正面に向けると、ある人影が視界に入った。
正門前に停めてある任務用の車の中。
助手席にそいつはいた。
キレ長の目にメガネ。
確か名前は東堂といったっけ。
ペルソナの不在時に代わりを務める任務監督だ。
そんなに一緒になったことはないが、詩は東堂のことが苦手だった。
「新年早々あなたも気の毒ですね」
車に乗り込んですぐ、メガネをあげながら東堂が言った。
「....」
詩は言葉を返す気分でもなかったので無視し、流れる風景に目をやる。
「さすが久遠寺校長、手柄には貪欲だ」
そうつぶやいてから、手元の資料を詩に差し出した。
「今回の任務内容だ」
詩は無言でそれを手に取る。
―場所は、ここから車で数時間の郊外にあるビル。
そこで、密輸組織の顔合わせも兼ねた新年会があるとのこと。
幹部とその他部下大勢が集い、派手な宴会になるようだ。
その情報はある筋から手に入れた確実なものらしい。
この密輸組織は初校長にとってかつてから邪魔なもので、一気にたたけるこの機会は願ってもないチャンスというわけだ。
組織ひとつを半壊させるには多くの人員と綿密な打ち合わせの時間が必要である。
しかし、詩にかかればそのようなものは皆無だった。
詩の本当の力は、初校長により見出され、今や最強の兵器といっても過言ではないくらいの成長をみせていた。
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