紅い式神/乱舞/任務
「―詩、緊急の任務が入った」
早朝にもかかわらず呼び出された詩は、初校長からそう告げられた。
緊急任務は今までにもまれにあり、イラつきながらも従っていた。
しかし、今日は違う。
「―今日、花姫殿地下で懲罰部隊の任務があるみたいですけど、何をお考えですか?」
詩の初校長に向ける目はいつものことながら冷たい。
「そのことは極秘のはずだが.....詩、特に君にはね」
初校長は眉をひそめる。
「質問に答えてくれますか」
詩は事務的な淡々とした口調。
「たとえ君が危力系の総代表だとしても、教える必要はない。
それは君が一番よくわかっているものだと思っていたが」
詩のアリスと、結界のアリスの相性についてのことを言っているのだろう。
踏み込むことは許さないといった、頑なな姿勢がうかがえる。
「では、今日の緊急任務は偶然、ということですか?
それとも、俺が学園にいると何か不都合なことでも?」
詩は挑戦的な口調で言う。
「偶然さ」
初校長は薄ら笑いを浮かべる。
「君が何を想像して、こちらにこじつけをしているのかは知らないが、これ以上花姫殿について触れると立場が危うくなるのは君の方だ」
初校長は声を一層低くして続ける。
「調子にのるな。
君は望んで僕の手中に入ったんだ。
それがどういうことか知っているのに、愚かなことはよせ。
僕の駒は黙ってその通りに動けばいい。
期待以上の働きをしてくれれば、君の周りが自由になる。
君は自分の自由と引き換えにそれを選んだのだろう?
何が最善で利口か、たくさんの犠牲をみてきた君なら知っている」
そう、逆らうことは許されない。
何かを引き合いにして、脅すのは彼のいつものやり口だ。
そして詩には到底敵わない大きな力をもっているのは、まぎれもない、ゆるがない事実。
「さあ、詩。任務だ、行きなさい」
詩は唇を噛みしめる。
言う通りにするしかない自分が、無力で悔しかった。
いつか、いつかその頂の椅子から引きずりおろしてやるんだ。
そう強く強く思うことでしか、あふれだしそうな今の気持ちを抑え込む方法はなかった。
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