余興/新年の宴
先ほど静音から聞かされたことが頭から離れないながらも、詩は談話室に戻った。
そしてすぐに向かったのは、にぎやかな皆の輪の中でもなく、秀一や昴のもとでもなかった。
部屋の片隅、皆の輪からはわざと離れているようなその場所。
周りのみんなも、そこを視界に入れることはなかった。
八雲とルイ。
2人の姿があった。
「よ、あけおめ!」
詩は2人の目の前にあるおせちをつまみながら、いつもの調子で言う。
「あ、詩ちゃん」
.....ルイにしては素っ気無い応答。
それに八雲はこちらと目を合わせようとしない。
気のせいか?
そう思いながらも続ける。
「はぁーっやっとゆっくり休めるよ~
さすがに正月に任務は入ってないしっ」
詩は笑顔で話す。
詩の笑顔とは対照的に曇っていくルイの顔。
―やっぱり何か........
「はぁ..」
詩の口から深い溜息が漏れる。
いきなりの詩の溜息に、どうしたものかとルイが顔を上げる。
八雲もこちらを見つめる。
詩は、長い前髪に隠れた表情で言う。
「2人とも隠すなよ.....
任務なんだろ、明日」
ルイと八雲がはっとした顔をする。
「どうして、それを......」
ルイは驚いている様子。
「俺の情報網なめんじゃねっつの」
詩は苦笑い。
「ハハっ....やっぱ詩ちゃんには何も隠せないねーー」
ルイも苦笑い。
「....ペルソナは.....あそこで何をするつもりなんだ?」
1番聞きたかったこと。
その問いに、2人は目をそらす。
「詩ちゃんは関わっちゃだめだよ」
ルイの言葉に賛同するように八雲も頷く。
「やっぱ、俺にはあそこの任務は話せないよな」
きっと、初校長やペルソナから口止めされているのだろう。
そうでなくとも、学園が詩を異常なまでに花姫殿に近づけないところから、
花姫殿の任務を知るだけでも罰則にはなりかねない。
それを危惧してルイと八雲は言わないのだ。
「ごめん、詩ちゃん。私、そろそろ部屋戻るね」
ルイは立ち上がり、それから一度も目を合わせることなく談話室を去った。
その後を追うように、八雲も立ち上がる。
「詩....いくらお前でもあそこでの任務はあまり詮索しないほうがいい....詩のためにも」
それだけ言って、八雲は談話室を去っていった。
取り残された詩の胸は、複雑な気持ちでいっぱいだった______
.