仕舞われた思い出
「おい詩ーーー少しくらいは手伝えよなーー」
特力の教室にある、年季の入った椅子でくつろぐ詩に殿が言った。
「人聞きわるいなぁ。
まるで俺がサボってるみたいな言い方すんなよ」
殿はその言葉に盛大にため息をつくも、そこらへんで式神がちらちら見えるのだから、それ以上言うことはなかった。
特力の教室では、年末の大掃除が進められていた。
詩のように、違うクラスにもかかわらずこの場にいるのは流架、蛍、岬先生。
特力の自由でゆるい雰囲気は居心地がよいようだ。
そんな中、蜜柑が壁に落書きを見つけたようす。
それが恋愛関係のものだったから、皆が興味を示し、掃除そっちのけで集まっていた。
詩もどれどれ...と椅子へと立ち上がった。
「.....っ」
その落書きをみたとたん、詩の息がつまる。
〝柚香〟〝先生〟と書かれた相合傘。
瞬間的に脳内を駆け巡るあの時の記憶と、あふれるさまざまな感情。
―こんなところに......
詩は懐かしいような、寂しいような、そんな感覚に陥った。
皆は、先生との禁断の恋という点で、興味津々の様子。
皆があれこれ妄想を掻き立てる中、ひときわ大きな声が響いた。
「メガネおもしろいもの発見しました!!」
すぐにみんなの注意はそちらへ。
「アルバムだこれーーー!!」
「結構あるなー古いのまで」
そう言って皆がアルバムに群がる中、詩だけはじっとその落書きをながめていた。
そこへのだっちもやってくる。
「懐かしいですね」
そう、隣で微笑んでいた。
「うん、すごく...」
詩も微笑むが、うまく笑顔をつくれなかった。
あの時代は、幼い自分にとって忘れられない出来事の連続だった。
全部の感情が、初めてだったあのころ.......
久しぶりにそれらを思い出して感傷に浸っていると、自分を呼ぶ声が響いた。
「おーい!詩もこいよー」
殿の声だ。
詩は明るく返事すると、気持ちを切り替え、皆の輪の中に入った_____
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