聖なる夜
〝何か〟を感じ、フロアに下りてきた詩。
それが何なのかはわからないが、嫌な予感がさっきからとまらない。
あてもなく、闇雲に人のあいだをかけぬけた。
直感だけが頼りだった。
その最中、人だかりになっている場所を見つけた。
何となく気になって、近寄った。
―人だかりの中心には、派手に転んだと見られる、棗と蜜柑。
しかも転んだその格好が、問題だった。
蜜柑が棗におおいかぶさるかたちで、お互いの唇が触れていた。
よくいう、〝キス〟というやつだ。
ま、この場を見れば、好意はなく事故といった感じ。
「のけ」
棗の不機嫌な声が響くのだった。
そして、その後の蜜柑をなぐさめるのも一苦労。
騒ぎを聞きつけた皆で、怒り心頭、恥ずかしさ満載の蜜柑を慰めるのだった。
「蜜柑、気にすることないぜー」
詩もその中に入る。
「そうだそうだ。もっと大きくなったらそんなのしょっちゅ....」
―バコンっ
殿の言葉を途中でやめさせる詩。
「いったーっ」
「それは女たらしのお前だけだ」
詩は最後にそう言うのだった。
と。
みんなの輪の中から1人抜けて行く棗の姿が見えた。
「ったく....」
詩はそう一言呟いてその後を追った。
棗と詩は、巨大ツリーの上にいた。
「何でついてくる....」
棗がウザそうに言う。
「何でって....棗を慰めるために?」
深い理由もないので語尾が疑問系になってしまう。
「意味わかんね...」
相変わらず可愛くないお言葉。
「好きなんだろー?」
「....」
詩の問いかけに黙り込む棗。
「もっと大事にしろよな。
まぁまだ、そーゆうのわかんねぇか」
詩はいつものようにからかい笑った。
「.....そーゆうお前はどーなんだよ?」
まさかの棗の反撃。
「俺にはそんな相手いねーよ」
ハハっと笑う詩。
「.....」
そう言った詩を黙っていぶかしげに見つめる棗。
「いても...どうにもならない時があるんだよ。
ガキにはまだわかんねーと思うけどな!」
少しむきになる詩に、そういえばそうゆう話をきいたことがなかったな、と棗は思い返していた。
そんな会話をしていたからか、棗のいる木から離れると、“彼女”のことを思い出していた。
彼女とは付き合っていた。
一緒にいると楽しくて、幸せな気持ちになった。
クリスマスはもちろん、一緒にダンスを踊った。
その頃の思い出は、彼女がいたからか色鮮やかに思い出せる。
しかし、詩の人気から彼女を妬む嫌がらせがあったことに、詩は気づいていなかった。
詩の任務も忙しかったこともあり、彼女もまたそんな詩を気遣って、いうことはなかった。
そんなことが続き、気づいたらお互いすれ違い、別れることになった。
たまに、彼女を見かけると目で追ってしまう。
傷ついた彼女を守れなかった自分を、詩はずっと悔いていた。
あれから、誰とも付き合ってはいない。
任務と危力総代表の忙しさもあり、詩は目の前のことに必死な日々を過ごしていた。
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