このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

高等部の“穴”



「よく、帰ってきたな...頑張ったな」

殿は、蜜柑にそう言って頭をなでる。

蜜柑はいろいろと思い出したのか涙ぐむ。

今度は詩が、感心する番だった。

あのアリスストーンといい、2人の相性がいいのだな、と思った。





そして、昴に蛍の薬を渡す蜜柑。

受け取った昴は、薬をじっと見つめその手のひらで強く握り締めた。

俯く昴は、安堵の表情だった。

それを詩と櫻野は静かに見守るのだった。






「後の事は心配しなくていい、といいたい所だが、この件について何か勘付いているらしい教師が若干でてきている」

一通り落ち着いてきたところで、そう櫻野が話し始める。

「君達は今すぐ、寮の部屋に戻って、何事もなかったかのように元の学園生活に戻るんだ」

みんな、静かに頷いた。






「....殿」

「.....ん?」

静かな夜、翼と殿は寮へ向かっていた。

「総代表が言ってた〝勘付いてる教師〟って......」

「ああ...あれか」

殿は、昨日の昼間のことを思い出す。

「あれってやっぱりさあ.....あの人?」

「ああ。

でもそっちは詩が引き受けてくれたからなんとかなるんじゃん?

今んとここっちに探り入れてくる気配はねーな」

殿は空を仰ぎながら答える。

「とにかく俺らは静観する他ねーよ。

相変わらず訳分かんねーつーか掴めねーっつーか何なんだろな、あの人.....」



―ナル先生....



「詩も、そのことに関してははぐらかすし、穴の件もあれ以上語ろうとしねーし.....」

殿はふうっと溜息をつくのだった......

詩はもっと知っていることがありそうだったが、今は聞くときじゃないと、なんとなく思った。





「....秀、今回は無理言ったのにありがとな」

こちらも寮に向かう詩と櫻野。

昴は1人、妹のいる病院へ薬を届けに行っていた。

「....思い出したよ、あの頃の僕たちを」

ふいに櫻野は、小さくそう呟いた。

「ハハ...そうだな。俺もだ」

詩は懐かしそうに微笑む。

「あの頃は、蜜柑たちみたいに必死だったよな」

「それに加えて、何も考えてなかった」

秀一も懐かしんでいるようだ。

「でももう、あの頃の俺達じゃないんだよな....」

詩は寂しそうに呟く。

「ああ....変わってしまった.....」

そう呟かれた櫻野の言葉は、暗い夜空に吸い込まれるように行き場もなく消えた______








.
7/8ページ
スキ