高等部の“穴”
「よく、帰ってきたな...頑張ったな」
殿は、蜜柑にそう言って頭をなでる。
蜜柑はいろいろと思い出したのか涙ぐむ。
今度は詩が、感心する番だった。
あのアリスストーンといい、2人の相性がいいのだな、と思った。
そして、昴に蛍の薬を渡す蜜柑。
受け取った昴は、薬をじっと見つめその手のひらで強く握り締めた。
俯く昴は、安堵の表情だった。
それを詩と櫻野は静かに見守るのだった。
「後の事は心配しなくていい、といいたい所だが、この件について何か勘付いているらしい教師が若干でてきている」
一通り落ち着いてきたところで、そう櫻野が話し始める。
「君達は今すぐ、寮の部屋に戻って、何事もなかったかのように元の学園生活に戻るんだ」
みんな、静かに頷いた。
「....殿」
「.....ん?」
静かな夜、翼と殿は寮へ向かっていた。
「総代表が言ってた〝勘付いてる教師〟って......」
「ああ...あれか」
殿は、昨日の昼間のことを思い出す。
「あれってやっぱりさあ.....あの人?」
「ああ。
でもそっちは詩が引き受けてくれたからなんとかなるんじゃん?
今んとここっちに探り入れてくる気配はねーな」
殿は空を仰ぎながら答える。
「とにかく俺らは静観する他ねーよ。
相変わらず訳分かんねーつーか掴めねーっつーか何なんだろな、あの人.....」
―ナル先生....
「詩も、そのことに関してははぐらかすし、穴の件もあれ以上語ろうとしねーし.....」
殿はふうっと溜息をつくのだった......
詩はもっと知っていることがありそうだったが、今は聞くときじゃないと、なんとなく思った。
「....秀、今回は無理言ったのにありがとな」
こちらも寮に向かう詩と櫻野。
昴は1人、妹のいる病院へ薬を届けに行っていた。
「....思い出したよ、あの頃の僕たちを」
ふいに櫻野は、小さくそう呟いた。
「ハハ...そうだな。俺もだ」
詩は懐かしそうに微笑む。
「あの頃は、蜜柑たちみたいに必死だったよな」
「それに加えて、何も考えてなかった」
秀一も懐かしんでいるようだ。
「でももう、あの頃の俺達じゃないんだよな....」
詩は寂しそうに呟く。
「ああ....変わってしまった.....」
そう呟かれた櫻野の言葉は、暗い夜空に吸い込まれるように行き場もなく消えた______
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