高等部の“穴”
月明かりが差し込む、高等部の使われていない音楽室へと続く廊下。
ちょうど2日前の夜と同じだった。
そこを、4人の影が慌しく通り過ぎる。
「詩、今帰ってくるってほんとか!?」
走りながら殿が問う。
「ああ。さっき式神を通して見えた」
「負傷者は?」
次に櫻野が問う。
「2人....棗と翼だ....すぐに処置が必要だ、昴」
「わかった.....」
皆に緊張が走る。
この2日間、蜜柑たちを気にかけない事などなかった。
詩は式神を通して、何度冷や冷やしたことか。
それでも、事の成り行きをうかがうしかなかった。
自分も行けばよかったと、何度後悔したことか.......
音楽室の前に来たとき、ちょうど穴が開く。
―ゴゴ...ゴゴ....
そんな音をたててしばらくし、皆が現れた。
棗は一度石にされた左腕をおさえて、翼は瓦礫が直撃した肩を痛そうに抑えながら現れた。
蜜柑と流架は穴を通った衝撃で気絶しているようだった。
「昴、頼む」
そう言って、ふらふらしながらも何とか立っている棗を支える。
そして、わしゃわしゃと頭をなでた。
「.....まだガキのくせによく頑張ったな」
詩の表情は、やはり前髪のせいで見えなかった。
しかし、その様子からしてものすごく心配してくれていたのだとわかった。
ずっとZ追跡の様子をうかがっていたぶん、それも大きいのだ。
棗は黙って、支えてくれている詩に身を預ける。
殿は、その様子に感心する。
いつも気を張り詰めていて、見ているこっちの気も休まらないような日向棗が、詩の前だとこうも気を緩められるものなのか......と。
さすが詩だなと思う。
殿と櫻野は、気絶した蜜柑と流架を抱え、昴と詩は翼と棗を支えながら、場所をかえる。
そこで、昴によって治療が行われた。
しばらくして、蜜柑と流架が目を覚ました。
皆、あまりにも目を覚ますのが遅く、心配しているところだった。
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