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高等部の“穴”



「よっ!ナルっ

どうしたの?そんな怖い顔しちゃって」

詩は、先ほどムチ豆を切った〝式神〟を手中に呼び寄せながら明るく言う。

この時殿は、詩のハートの強さを改めて尊敬した。





「あ、殿。先に本部の会議行ってて」

ここは詩の助け船にのったほうがよさそうだ。

「おう。じゃあ」

そう言って殿は、まんまとその場を逃げる事ができた。

「助かった」

と小声で詩に言うのを忘れずに。







廊下には詩とナルの2人だけになった。

その瞬間、空気は一変。







「いつまでたってもクソガキのままだね」

鳴海は、いつも皆に見せるカマ口調とは違って、低く冷たい口調で言った。

「何のことですか。鳴海先生」

しらを切る詩のようすに、鳴海のイライラはつのる。

詩はというと、久しぶりに見る鳴海の本性を前に、少しだけ楽しんでいた。

「とぼけるのも、大概にしなよ......

蜜柑ちゃん達が捜しに行ったっていう〝高等部の穴〟について、一体何なのか説明してもらおうか」

フェロモンを警戒して、距離をとっていたが、鳴海は徐々にこちらに接近してくる。

「アリス使わないでよ、ナル」

詩はさすがにまずいかも、と苦笑いしながら後ずさりする。

「別に、説明してくれれば何もしないよ」

鳴海の瞳は酷く静かだった。

「それは困ったな。

俺にも事情があるからなあ」

笑顔は崩さず、詩の周囲に式神が舞い始め、応戦態勢となった。

鳴海は徐々に詩との距離を詰める。

「.....もしかして、俺が柚香さんと会ったからって、妬いてる?」

空気を緩めようと悪戯っぽく笑う詩。

「...かもね」

鳴海は動じている様子がない。

うん、冗談も通じてないから鳴海は本気だ。

...お楽しみもここまでか。






―ぶわっ....


―シャッ.....






2人がアリスを使ったのは、同時だった。

鳴海のフェロモンが詩の大量の式神に降り注ぐ。

それは、ちょうどよく鳴海の視界をさえぎった。

式神がフェロモンによりはらはらと力なく床に落ちたころには、詩は廊下の向こうにかけていっていた。

軽く手をあげ、曲がり角を曲がるその姿を、鳴海は蒸発するように消える式神を足元に見送った。

ここは本部。

これ以上強いアリスを使っての追跡はできない。

今日のところは、あきらめざるを得なかった。






「もう、あの頃のガキじゃないんだね」

鳴海はそう、つぶやくのだった_____






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