高等部の“穴”
「殿内君」
廊下に響く、何とも嫌な予感のする声。
はっとした時には遅かった。
そしてその声を無視することができず、というか許されない雰囲気を感じ取りゆっくりと振り向く殿内。
そこには、やはりナルの姿。
つくられた笑顔に恐怖を感じる。
事態がまずい方向にしか進んでいないことを悟り、自然と強張る顔。
強硬手段しかないと思い、逃げようと試みるも相手がそれを許してくれるはずがない。
「あれー?何で僕の顔見て逃げるのかなー?
しかも用意周到に〝フェロモンガード〟飲んじゃってー」
ナルは、岬の温室から盗んできたらしい〝ムチ豆〟とやらで殿内の体を締め上げ、身動きをとれなくする。
「すいません...俺、急いでるんで....」
そんなきつい言い訳では、逃れる口実にはならなかった。
―Zを追うため、蜜柑らが学園を出た翌日の昼さがり。
本部の廊下で、殿内は危機的な状況にいた。
「君んとこの美咲ちゃんだっけ?吐いたよ」
ナルは核心へ迫ろうとする。
「何のこと言って.....」
無駄だとわかっていつつも、ここはシラを切り続けるしかない。
「それはこっちのセリフだよー」
明るい声色とは反対に、徐々にムチ豆が強く締め上げていく。
―くそ、詩にも言われて警戒していたのにこいつ.....
―あ、ナルには気をつけろよ。気づかれたみたいだ。
舌をだして悪戯っぽく笑った詩は、それだけ言ってどこかへ行ってしまった。
―おい、ちょっ...待てよ!
そんな重要なことをさらっと.....
そんな会話を思い出し、どうにかこの場を切り抜ける手段を考えていた時だった。
―シャッ.....
急に、締め上げられていたムチが緩む。
それはあまりにも突然なもので、殿内はつんのめって転びかける。
「わっ」
転ぶ!と思ったが、誰かに支えられた。
その正体に驚く。
「う...詩?」
突然の登場に、殿内は驚き、鳴海は冷たい瞳を向けていた。
ナル先生って、こんな怖い顔する人だっけ...
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