高等部の“穴”
月明かりが差し込んでいるおかげで、ライトがなくても明るい廊下。
そこを、数人の影が通り過ぎる。
「とめないのかよ」
棗が言った。
「とめてほしいのかよ」
いつもの調子の詩。
こういうのをみると、なぜ詩が代表なのか疑問がわく。
「ま、代表としては失格かもしれないけど、一先輩として、俺はとめないよ。
棗の考えていること全部はわからないけど、俺はお前や蜜柑を信頼してるから行かせる。
こういうことに関して、俺は一番とめる権利はないと思ってるから」
棗は黙り、それ以上は何も言わなかった。
「なあ詩、穴はどこに通じてる?」
詩の隣を歩く殿が問う。
「んー?まあ、どこにでも」
詩はそう、曖昧に返した。
「アバウトだな....」
殿はその答えに納得できていない。
そんな詩にかわって、櫻野は話し始めた。
―通る者の頭に、ある程度具体的に実在の行き先のイメージがあればどこにでも。
―穴は、1つ前に通った人間の出た場所くらいなら記憶しているから、
君達の追っている人間の出た場所も、おのずと分かるだろう.......
しばらくして、目的地に到着した。
使われていない、音楽室_______
皆、穴の正体が鍵穴だということに少々驚いているようだった。
櫻野が、鍵穴に鍵をさしこみ、逆に回す。
―ゴゴ.....ゴゴゴ.....
穴が、開いた。
戸惑う皆の中でただ1人、棗はためらうことなく穴に近づきそこに吸い込まれていった。
続くのはルカ。
そして、翼と蜜柑も次々と吸い込まれていった。
見送りはあっという間だった。
一緒に行ってやれない心配もあるが、蜜柑や棗たちが留守中の間、学園側にそのことがバレないようにするのも重要な役目。
それに加えて詩と殿は本部のプロジェクトの中心メンバーであり、残る決断をせざるを得なかった。
せめてもの気持ちで、式神のアリスを穴に滑り込ませた。
これである程度の動向がわかる。
殿は直前に、あの趣味の悪い形のアリスストーンを蜜柑へ渡しているのが見えた。
お願いだから、無事で帰ってきてくれ......
柚香さんがいる。
彼女ならきっと、蜜柑を無事に返してくれるはず________
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