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高等部の“穴”



蜜柑、棗、流架、翼、殿は、なんとか高等部に潜入し、新聞部での情報をもとにして、生徒会室へたどりついていた。

殿にとってはこんな無茶は久々だった。





「―蛍を助けたいんです」

生徒会室に、蜜柑の声が響く。





「Zから特効薬を.....委員長のアリスを取り返して......

だからあいつらがここに入ってきた穴の場所が知りたいんです」

目の前には、学園総代表の櫻野秀一。

しかし蜜柑は怯むことなく、必死に説得し続ける。

「おねがいです、穴の場所知ってるなら教えてください!」





「おねがいです」




しかし.....

「....君は、何か勘違いをしている」

蜜柑の必死な訴えにも、櫻野は動じなかった。




「....何でなん...」

蜜柑は俯き、必死で涙をこらえる。

―蛍のほうが、何倍も何十倍も辛いんだ。

ここで泣くわけにはいかない......

蜜柑は自分を奮い立たせ、顔をあげる。

「何で穴を....Zの奴らをかばうの!?あんたらがZの仲間やから!?」

「蛍のお兄さんのくせに....あんな苦しそうな蛍を、ずっと間近でみてたくせにっ

....なのに何で.....

ウチは、お兄さんがホンマは蛍のこと心配してるんやって、そう思いたかったから.....

蛍だって.....なのに.....こんなん......」

蜜柑の瞳には、涙が溜まっていた。

それでも、櫻野と蛍の兄昴は表情を変えずに佇むだけ。

と、そのときだった。





「穴はあるよ」





皆、聞いたことのある声。

その声のした扉のほうを向く。

そこにはいつからいたのか、見覚えのある姿があった。

「詩....!」

殿が言った。

詩は、扉に寄りかかり腕組みしていた。

「なぜここに....」

櫻野が呟く。

昴も、驚いた様子の顔。

「蜜柑いるかと思って特力行ったらいなくてさ。

それどころか翼も殿もいないから.....美咲ちゃんに聞いたよ、いろいろと。

それに、高等部で騒がしいなーなんて感じ取ってたからここに来てみたらドンピシャ」

詩はいつものように、いたずらっぽく笑う。

「お前、会議は?」

殿が心配そうに言う。

「多少いなくても大丈夫。

心配には及ばないよ。

て、やっぱり棗もいたか」

棗は連れ戻されると思いこちらを警戒している。

「....詩先輩っさっき言ってたこと!」

そんな時間さえも惜しいと、蜜柑が詩のもとへ駆け寄る。

蜜柑の気持ちは痛いほどわかる。

「そうだよ、〝穴がある〟って....」

翼も言う。

「詩、何を言ってる」

櫻野が冷静に言う。

「いいじゃん。行かせてやりなよ、秀。

後悔だけはしてほしくない」

仲間として詩の言いたいこともわかるが、総代表としての葛藤もあった。

やはり、血筋か....

運命には逆らえないのか.....

「.....」

櫻野は黙り込む。

「こいつら、聞き分けいい訳がないだろ?

どうせないって言ったって、こいつらは絶対穴を探す。

下手に動かれたらこっちも困るんじゃねーの?」

詩は櫻野の正面に立ち、対峙した。

長い前髪越しに瞳の強さがうかがえた。

わかっている。

詩は自分の立場もわかって背中を押してくれているのだ。

「昴....大切なものを見失う自分にはならないって、誓ったよな?」

詩は今度は昴に向き直る。

「それと蜜柑....これだけはわかってくれ。

家族の事を心配じゃない奴なんていないんだ。

だから昴を責めないでやってくれ」

最後に詩は、蜜柑と目線を合わせて言った。

その時の詩の顔は、前髪が邪魔でよくわからなかったが、なぜか悲しげに見えた。

気のせいだろうか。






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