危力系集結
「今日も詩ちゃん来ないかと思ったー」
ルイが頬杖をつき、何か含みをもたせて言う。
ちょっとほっときすぎたか....
ここ最近任務で忙しく、危力には関われていなかった。
「まあー今回の件、学園内でなかなかにおおごとだし。
俺も一応、危力の代表だからな」
「代表ねぇ」
じっとりとしたルイの目に、少しの冷汗。
ルイの態度も無理はない。
最近は危力の代表業務をルイに押し付けてばかりだったがゆえに、ばつが悪い。
「押し付けてわるかったって。
八雲もっ。
信頼できるのお前らだけだし。
ほんと感謝してるんだ」
その言葉にも、ルイは納得いってなさそうだった。
目線は窓際の棗。
どうやら棗に不満をもっていたのは颯だけじゃないらしい。
「まあとにかく、
しばらくは学園にいるからっ
ルイたちに負担はかけないようにする」
そういうこと言ってるんじゃなくて....
とルイ。
「でも、任務だったんでしょ?さっき」
探るようなルイの瞳。
今回の件、情報を少なからずもっていることはバレているようだ。
「てか颯も言ってたけど、何でそのこと知ってんだよ」
先ほどの任務は、学園でも一部しか知らないはずだった。
「まあ本部うろついてれば詩ちゃんの情報、嫌でも聞こえてくるもんね。
詩ちゃん、有名人だから」
嫌味とも嫉妬ともとれるルイの言い方に詩は苦笑い。
「嫌でもってなんだよ」
しかしながら、ルイの言っていることは間違っていない。
詩は学園生徒だけではなく、アリス研究本部の名をもつこの区画...いや、日本のアリスの中でも有名人。
彼の存在は希少であり、その力を欲する組織は公にも、非公式にもたくさんあるのが事実。
どんなに秘匿な存在の詩でも、本部にいればその情報の端くれくらいは耳にできる。
「それとその傷....まだ新しい」
口数の少ない八雲が、詩の手に巻かれた包帯を指差す。
「あ....」
隠していたが、颯とじゃれていてすっかりそのことを忘れていた。
「ははっ....2人ともすげーな、かなわねーよ」
困ったように笑う詩。
「何年こーやって話してんのよ。
学園一の人気者の裏の顔くらい、知ってるわよ」
ルイはそう言って詩と距離をするするとつめ、詩の顎先に指を添えた。
それを呆然と見つめているのは颯。
一瞬にして、年頃男児の脳内はアダルトな解釈で埋め尽くされる。
詩兄とルイってやっぱり....
「おい颯!
今絶対変な想像しただろ!!
ルイも離れろ、
変な誤解を産む!!」
「あら、アタシはいつだって現実になる準備はできてるのよ」
まんざらでもないルイに、ひきつる詩の顔。
「それだけはマジ勘弁っ!!
ないない!まじでナイっ!!」
「ちょっとそれ言い過ぎじゃなーい!?
ほんと詩ちゃんて失礼!」
そう言ったルイの後ろから負の気が出ているのは気のせいだろうか......
自分の身の安全のためにも八雲に助けを求めるが、彼はこういう時、ちっともこちらと目を合わせてくれない。
部屋の隅でその様子を見守る、危力系唯一の女子、のばらはそんなやり取りを微笑ましく思っていた。
危険能力系という物騒な呼び名のおかげで、何かと偏見をもたれる学園生活。
それでも、詩がいるだけでその場が和むのは不思議。
のばらもまた、詩を先輩として尊敬するひとりだった。
―会議後.....
「おっと、棗。どこ行くんだー?」
ペルソナが去った会議室から、棗も出て行こうとしたので、詩が呼び止める。
「会議後も俺ら待機って言われてるけど?」
一応、代表として声をかける。
「トイレ....」
棗はそう一言だけ言って、扉に手をかけた。
「逃げたらしょーちしねーぞガキっ」
颯のそんなセリフを後ろに聞き、棗は会議室から出て行った。
詩は、棗のあとを追わなかった。
棗の決めたことだ。
後悔のないようにやればいい。
多少無茶でも、それを自分と重ねると、詩にとめることはできなかった。
ほんとに俺たちって、似てるんだな.....
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