プール開き
....ガチャ
更衣室のドアを開け、中に入る。
そこにはもう、誰も残っていないと思っていたので、昴はその姿に少し驚く。
「詩....」
詩は中央のベンチに制服姿で座っていた。
「おう、昴」
詩はすっと顔をあげ、答える。
「まだいたのか....」
昴は自分の着替えを置いたロッカーに向かいながら言う。
「ああ」
詩の声のトーンが心なしか低い。
「妹との....見ていたか」
昴が静かに言う。
「....ごめん、聞こえちゃって」
少し間をおいて、詩は言った。
「別に....聞かれて困るようなことじゃない」
昴はいつものようにクールに言う。
「うん、なんかよかったなって思って。
蛍ちゃん、少しでも昴のことわかってくれたみたいじゃん」
「....そうだろうか」
昴にしては不安げな声だった。
「昴が家族を思わなかったことなんてない」
「ああ」
静かに昴は頷いた。
「だから俺、昴には話したほうがいいと思って....」
バタン....
ロッカーが閉まった。
昴は着替え終え、詩に向き直る。
「なんだ?」
昴が真剣な表情で言う。
「蛍ちゃんのことで....」
「蛍が....どうかしたのか?」
昴は何かを察してか、眉を寄せる。
「蛍ちゃんの、外国行きが決まった」
昴は目を見開き、驚いた表情をした。
「Z追跡、花姫殿、その他もろもろの蜜柑に関することを踏まえての、初校長の決定だ」
信じたくはないが、初校長の近くで危力の総代表をやっていて、本部にも顔が利く詩の言っていることだ。
その情報は確実だろう。
「この件に関して、俺は何もできない。
ごめん___」
「詩が謝ることじゃない。
教えてくれてありがとう」
「うん...」
更衣室は少し蒸し暑かった。
プールで泳いですっきりしたはずなのに、心にはもやが残る________
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