プール開き
「わりーわりー、秀」
詩は水を滴らせながら櫻野たちのもとへ向かう。
この姿は、いつもの詩だ。
でも、久しぶりに見た気がする。
詩の顔を。
いつもの隠れた表情はどこかへいってしまった感じだ。
「集合時間間違えたらしくてさ、待ちきれなくて泳いじゃった」
詩は、悪びれる様子も無く子どものように笑った。
「まったく、詩らしいな」
昴は呆れた口調で言うが、微笑んでいた。
「ははっ
つーかみんな待たせちゃったみたいだな。
よっし、プールの授業はじまりだァーーーッ!!!」
詩の威勢のいい声に、みんな笑顔になっていた。
詩は相変わらず、人気者。
教育実習生という立場を見事に忘れ、小・中等部生と一緒にプール遊んでいた。
今は初等部B組のみんなとバレーで遊んでいた。
そんな中、ふと蜜柑の姿が見当たらないな、と思う。
昴の妹蛍ちゃんは、まさかのカナヅチで特別特訓を兄直々にやってるから、一緒にいることはないとして......
じゃ、アイツか。
詩が目を向けたほうには翼と美咲。
やっぱり。
そこに蜜柑はいた。
2人に遊んでもらって楽しそうだ。
しかし、そろそろ中等部生の泳力テストなはず。
「なあ、るかぴょん」
「え?」
急に呼びかけられて少し驚く流架。
「蜜柑のこと呼んでこいよ」
にやっといたずらっぽく笑う詩。
「な、なんで僕が....」
「いいじゃんかー、蜜柑のこと....」
腕を流架の首にかけて言おうとすると、
「わ、わかったよ」
流架は顔を赤くしてそちらへ向かっていった。
みんながいるところで、それ以上言われたくなかったから、従ったのだった。
だけど、もう1人.....
詩はそう思いながらあたりを見渡す。
ベンチに目を留める。
そこには棗がいた。
「俺はあっちに行くか....」
そう1人小さくつぶやき、この場にそぐわないつまらなそーな顔をしている奴のもとに向かった。
「詩せんぱーい、どこ行くのー?」
行ってほしくないといいたげに、1人が言った。
「ちょっと休憩!
すぐ戻るよー」
詩はそう言って、その場をあとにしたのだった。
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