希望/要がみる世界
「先輩、僕のところにもう、無理して来なくていいですよ」
ドキリと、心臓が波打った。
要は相変わらず優しく微笑んでいた。
「何言ってんだよ、無理なんかしてねーよ。
忙しくても病院にはいやでもこなくちゃなんないからな」
いつもの調子で返す詩。
しかし、今度こそ、要の目は笑っていなかった。
「わかってますよ、先輩。
先輩が僕のところに本当は来たくないってことくらい」
「だから何言って」
笑ってはぐらかそうとする詩に、要は遠慮せずに言う。
「重なっちゃうんですよね?
先輩と、僕のこの姿が」
「....」
詩は黙ってしまう。
要の直球にうろたえる。
「僕と話すときの先輩の目の奥、いつも何かに怯えている感じがします。
それは、自分もいつかこんな僕みたいになるって思ってるから。
......怖いから。
責任感の強い、みんなを守る位置にいる先輩だからこそ.....ですよね」
最後に要は力なく笑った。
詩は俯いた。
少し驚いていた。
要がこんなにものをはっきり言うなんて。
「珍しいですか?
こんな僕」
要には、すべて思っていることが見透かされていた。
「なんでですかね、先輩の思ってること全部わかっちゃう気がします」
要はまた、ははっと笑う。
「まじ、要には敵わねーな。
でも、俺は要のとこに来るよ、これからも」
いつものように、詩はニカっと笑った。
要は目をまるくする。
「.....確かに、俺は怖かった。
動けなくなって、いつか蜜柑や、みんなを守れなくなることが。
先生から受け継いだものを、途中であきらめなければいけない日がくることが。
でも、お前みてたらそんな弱気じゃいられないなって、
こんなに胸張って強い目して生きてる要みて、俺の方が勇気もらってる。
現実から目を背けてるわけじゃない。
でも、俺と要なら絶対生きるよ、これからも。
みんなが悲しい顔するようなこと、俺たちできるわけがねえもん。
運命に抗って、最後の最後までかっこわるくたってもがいてみせるよ」
詩は、なんだか吹っ切れた様子だった。
ふわっと、長い前髪の間から一瞬見えた詩の目は、とても強かった。
「ハハッ詩先輩らしい」
要は安心したように言った。
そして、こぼれそうな笑みを浮かべていた。
―要、お前も眩しいよ。
お前はいつでも輝いてる。
それは、お前が与えた希望たちが、今もどこかで輝いてるから、だよな。
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