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希望/要がみる世界



「要先輩の容態が悪いの!?」

蜜柑は、今聞かされたそれに、驚きを隠せなかった。

ベアを踏んでしまった蜜柑は、B組のみんなと共に、翼に助けを求めていた。

そのさなか、ベアが倒れていた場所を聞いた翼が、言いにくそうに要について話してくれた。






「まあ....去年の冬あたりからずっと、調子はよくなかったみたいで......

この梅雨の間に風邪こじらせて.....

今は最悪の状態からは脱したらしいけど、相変わらず状況は厳しいみたいで。

医者が言うには今年の冬、越せるかどうか.....

難しいとこだって。

ベアもその事気がついて、いてもたってもいられないんだろうけど.....」













―ベアは、乾かしてもらった後、すぐに外へ出て行ってしまった。

蜜柑たちも後を追う。

病院の前につくと、皆、はっとする。

傘もささずに、そこに詩が立っていた。

隣には、ベアもいた。

翼がいち早く動いた。

「おい!詩までこんなとこで何やってんだよ」

翼は呆れながら、自分の傘に詩を入れる。





「え....ああ、翼か」

詩は少し驚いた様子を見せた後、いつになく気の抜けた返事で返す。

詩のトレードマークのミルクティー色の髪からは、雫が滴り落ち、制服もかなり濡れていた。

翼に続いて、蜜柑たちも駆け寄る。

「どうしちゃったんだよ、詩」

「わり、

.....ぼーっとしてたっ」

詩はさっきと打って変わって、濡れた頭をかきながらいつものようにニカっと笑ってみせる。

そんな姿に、翼は余計に心配になる。

「よっしベア、帰るぞ」

詩はそう言ってしゃがみこみ、ベアの頭にぽんと手をのせる。

しかしベアは、それにまったく動じない。

見かねた翼が言う。

「ベア、ここにどんだけお前がいたってムダに要を心配させるだけだろ」

みんなが声をかけても、ベアはそこを動かなかった。

「どうしたの?心読み君」

「....ベアはここで、雨に打たれて自分が弱るのを待ってるんだって」

「え...」

「弱ってもし、このまま自分が動かなくなったら、その魂は要先輩のところに返るかもしんないから.....

もしそうなったら、要先輩、少しでも元気になるかもしれないって....

そのために、ここを離れたくないって.....」

それをきいて、詩の顔が歪んだ。

みんなには見えていないが、ぎりっと唇をかみ締めた。





―ボカンッ





鈍い音が皆に聞こえた。

「ったく、バカいってんじゃねーよ」

詩はベアを摘み上げる。

「生きるために病室で闘ってる要に対して、それはないんじゃねーの?」

詩はそういうと、ひょいっと翼の腕の中にベアをおく。

「詩....」

翼はそうつぶやくと、ぎゅっとベアを離さないよう、抱いた。

「要のこと思ってんなら、そんなことしたって要が喜ばないことくらい、わかってんだろ」

詩はそう言うと、傘もささずにその場を去ろうとした。

「おっおい、詩!

濡れんだろーがよ!」

翼があとを追おうと走るが、詩は足を止めずに、何も言わずに手をあげ翼を制した。

翼はぐっと、押し黙った。

雨が降りしきる中、詩の背中は小さくなり、やがて見えなくなった。










―なんだか、今日の詩は変だった。









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