傍観者(鳴海side)
―シャッ....
「う゛あ゛あぁぁぁぁ!!」
「なんだこのガキ!」
「気持ちわりぃ!化け物!」
詩と別れてからすぐ、後ろからそんな悲鳴に近い声が聞こえた。
さっき、櫻野と今井につきまとっていた奴らの声だった。
「おーやってるやってる、容赦ないなアイツ」
レオは後ろを振り向き言う。
「やっぱりガキだよ、アイツは。
そんなことしたって、毎回自分が罰則受けるだけなのに」
俺はまた冷め切った声で言う。
「そうっすよね、
最近やけに任務にも積極的って聞くけど
何がしたいんすかね、アイツ」
「ああ....」
―この頃の俺は、何もかも本当にどうでもよかった。
でも俺とは対照的に、詩はしっかり前をみて何かを変えようと、あんなに小さい頃から自分の身を削っていた。
それさえも俺は、見てみぬふりをしていた.......
そんなちっぽけな力で、何が変わるかと、半分馬鹿にしたような態度だった。
しかしアイツは、本当に変えていったんだ。
小さかったあいつはいつの間にか、くすぶっていた俺なんかを追い越して、着実に着実に、本当の強さを手に入れていった。
あの時、詩と一緒に変えようと行動を起こしていれば、今のひとり突っ走る詩をとめることができただろうか。
ひとりで無茶する詩を、隣で支えることができただろうか。
同じように、無茶ができただろうか。
一つ言えることは、あの時の自分にそんな勇気がなかったということ。
大きすぎる流れに、逆らうことができなかった。
そんな言い訳を並べても、今の俺に詩の決意をとめる権利はない。
詩、今でもお前のことは馬鹿なやつだと思ってるよ。
でも先輩らしいことをひとつもできない俺は、もっと馬鹿だ。
詩が先に行ってしまっても、今度こそ食らいついていくよ。
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