決意の刻印/蝕まれる身体
「よぉナルっ」
いつものように軽い挨拶。
しかし、ベッドの上にいる鳴海のはだけた肩が見えて、詩の表情は一変する。
鳴海ははっとし、すぐに服を直す。
でも、見えてしまった。
腐食が、ここまですすんでいるとは....
もう、肩のところにきていた。
「入るときは声かけるかノックぐらいしろよ。
何回言ったらわかるんだお前は」
あきれ顔の鳴海。
「なんだよ~
見舞いにきてやってんのにそんな言い方ねーだろ」
詩は、そういいながら近くの椅子に腰掛ける。
「どう?最近の体の調子は?」
詩は、そっと切り出す。
「ん...まあまあ、かな」
ナルが視線を逸らし、言う。
「別に
岬せんせーにいろいろ言われたと思うから俺は何も言わねーけどさ、
てか、最初から何も言わないつもりだったけど。
ナルの決心とかいろいろあってのことだしさ.....
でもやっぱ、こんな体になってんの知ってて、何も言わないわけにはいかないよ」
鳴海は黙って詩を見つめる。
「死ぬなよ」
たった一言だったけど、その言葉は部屋に重く響いた。
「....死なないよ」
鳴海はそんな空気を打ち消すかのように、ふっと笑いながら言う。
「詩も、そうでしょ?」
逆に問いかけられ、詩は頷く。
さっきの言葉は自分自身にも言ってるのかもしれない。
あの時を、同じ時間を生きた俺たちは、きっと同じ決意を心にもってる。
だから少し、鳴海の言葉に安心できた。
俺だって、自分がアリスのタイプで死ぬなんて1ミクロも思っていない。
ナルもきっとそう。
まさか、自分が死ぬなんてこと.....あるわけない。
死んでたまるか。
詩はふっと笑って、首にかけたネックレス状のアリスストーンを外す。
「ほい」
詩はそれを、鳴海に向かって投げる。
「これ....治癒のアリスストーン?」
鳴海はまじまじと見る。
「今井君の?」
「そーだけど、お前に貸してやる」
詩は、ニカっといつもの調子で笑った。
相変わらず、長い前髪でよく表情は見て取れなかったが。
「え...それはダメだよ。
詩も」
「いーから いーから。
俺がこんなことすんの珍しいんだからな。
ありがたく受け取っとけよ」
「ったく、
詩に借りができるなんて」
ナルはそう言いながらも、嬉しそうだった。
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