バレンタイン
「ひとつわがまま言っていい?」
チョコを食べ終わった詩が切り出した。
「なに?」
「ここらへんに結界はってくれないかな。
今日のイベントが落ち着くまで」
ダメもとで聞いたのに、##NAME1##は快く了承してくれた。
詩自身には、アリスが暴走したらいけないのでかけずに、周囲にだけ結界のアリスを使った。
##NAME1##の結界は学園生徒の中で一番だということも詩は知っていたし、別れた今でも信頼していた。
あの時、気づいていれば.....
ふとそんな気持ちが詩によぎった。
中等部に入り、詩と##NAME1##は付き合った。
お互い気が合ったし、一緒にいて楽しかった。
しかし任務が忙しくなると、詩と##NAME1##の一緒にいる時間が減っていた。
詩と##NAME1##が一緒にいるところを見かけなくなると、周囲は2人が別れたことを噂した。
その頃、ちょうど花姫殿関連の罰則がピークの時期でもあった。
それもあって、花姫殿に出入りしていた##NAME1##は、別れた腹いせに詩を陥れていると、周りの女子からあらぬ疑いをかけられ、嫌がらせを受けていた。
本当は別れてもいないし、##NAME1##が詩を陥れるなんてことはありえない。
##NAME1##がつらい立場にありながら、詩は任務に必死だったのと続く罰則で、それに気づけなかった。
徐々に2人はすれ違い、気か付くと関係は終わっていた。
お互いが、2人のすれ違いに気づいたのはそれからあとのことだったが、元の関係に戻ろうとはしなかった。
詩は、自分のことで精いっぱいだったことが情けなく、##NAME1##もまた、詩を遠くの存在のように感じていた。
##NAME1##もそのことを思い出しているのか、2人の間にぎこちない空気が流れる。
そんな空気に耐えかねて詩はいう。
「俺たちさ、あの時みたいに戻れるかな」
「え...」
##NAME1##はまさか詩からそう切り出してくるとは思わず驚いている様子。
いつになく真剣な詩。
「やっぱり俺は____」
―カシャっ
詩が言いかけたとき、乾いたシャッター音がきこえた。
「ばっか!はぇーよ!
もっといい雰囲気になってからだろが!」
「わっわりー手がすべった」
軽快な音の正体は、カメラのシャッターを切る音。
そしてその音がしたところには、2名の生徒。
「とっとりあえず行くぞ!」
「この場所知ってるだけでみんな食いついてくるからなっ」
そんな言葉を交わし、2人は行ってしまった。
残された詩と##NAME1##はポカンとしていて、何がおきたかを把握するのに時間がかかる。
そして、詩は我に返る。
「##NAME1##、ここを離れるぞ!」
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