アリス紛失事件/特力の教室
「そっか....蜜柑て棗のパートナー....」
ふいに考え込むように、殿が言った。
「てことは、お手つきかあ.....」
殿の残念そうな声が本気にもとれて、皆が白い目を向けているが、別段本人は気にしていない様子。
「あいつ手ぇ早そうだし、やられちゃってるよなー」
その言葉に殴りかかろうとするのは翼だ。
美咲は、蜜柑が汚れないようにと、避難させている。
そうやって大事にされている蜜柑をみるのは、なんだか微笑ましく、懐かしいような気がした詩だった。
蜜柑のほうは、先ほどの詩の言葉が気になっていた。
「―そういや棗ってば.....
あいつ、体だいじょうぶなの?」
「え....体?」
気の抜けた返事をする蜜柑。
「最近病院通いしてるってきいたからさー.....」
その詩の言葉に、蜜柑はどこか引っかかる。
「え.....ウチ何も知らん....」
―棗が病院通い......?
もしかして、また過労.....?
―命を縮めるアリス......
なぜか、要先輩の顔が浮かんできた。
―まさか、ね......棗に限ってなー....
そう、言い聞かせている自分がいた____
「そーいや殿先輩、詩先輩、〝アリス紛失事件〟の話何か知ってる?」
蜜柑は話題を変えようと話をふる。
この話題には皆、かなり興味があるようだ。
「ああそれ....俺もそのせいで急きょ仕事キャンセルさせられたんだよなー」
「同じく俺も」
殿の言葉に、詩も同調する。
「....中等部に紛失者が出たって噂は本当?」
この噂は、詩も耳にしていた。
けれど、翼たちがこんなに元気であれば、聞く必要などないと思っていた。
しかし___
のだっちが詩と殿だけに見えるように、口止めを示すジェスチャーをしている_____
それはつまり......
「.....んなわけねーじゃん」
殿は自分の言葉を取り繕う。
その途端、皆は安堵の表情に戻るのだった。
「じゃあこの事件、学園内は安全ってことか?」
翼がたずねる。
「んーまあ、俺も殿もこの件に関してはそこまで事情知ってるワケじゃねーからなー」
知ってる事は多少あれど、変な事を口走らないために言っておく。
その後、のだっちのウイルスの線は薄いという話を聞き流しながら、詩自身もこの〝アリス紛失事件〟について考えていた。
蜜柑が現れたこのタイミングで.....
胸騒ぎがして、一瞬にしてあの頃の記憶が走馬灯として駆け巡った。
向き合う時が、来たのかもしれない。
俺たちも、“あなた”も....
「まあ、事件が落ち着くまではしばらく学園にいるよ」
詩のその一言に、みんなの表情はゆるむのだった。
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