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何でも屋のおはなしまとめ

ペアーとフルーリのおはなし1
(アス主要素あり)

 幼少期から多くの人々に言われてきた事は「感情が無いのか」という疑問に満ちた言葉だった。アピオンはグランゼドーラに代々仕える騎士の家系に生まれ、幼少期から多くの人々と関りを持ってきた。そんな彼らは表情を一切変えず、固い口を開けば抑揚のない淡々とした声音で言葉を紡ぐ彼に疑問を覚えるのだ。
 アピオンからすれば感情が無いわけではない。ただ喜怒哀楽を表に出す事が幼少期から出来ずにいた。何かしらの体験が彼をそうさせた、などではなく、単純にアピオン自身が感情を表に出せないだけだ。これに関しては自身も何故なのかが分からない為、他人に問われても何も返す事が出来ない。
 であるからして、アピオンからすれば喜怒哀楽をこれでもかという程に表に出すフルーリには一種の尊敬と羨望を抱いていた。どうしたらそこまで感情を表に出せるのか。冒険者として旅をしているある日、とある依頼で偶然フルーリと出会ったアピオンは彼女の人柄に興味を抱いた。そして偽りの姿である「ペアー」となって彼女へと接触を試みた。
 「ペアー」として振る舞う時のアピオンは感情をこれでもかという程に表へと出す。物語を書く際に登場人物を演じる様に、ペアーというプクリポの小説家をアピオンは現実世界で演じるのだ。ペアーという人物はアピオンとは違って表立って喜怒哀楽が激しく、そしてアピオンと同じく多くの感情を持つ人々が織り成す恋愛の世界が大好き――ペアーという偽りの姿を演じている時のアピオンは清々しさを感じる時がある。アピオンでもこのように感情を表に出す事が出来れば、煩わしい出来事も少なくなるのではないだろうかと思わずにはいられない。
「あっ、ペアー君いらっしゃい!今日も小説のネタ探し?」
 旅の合間に何でも屋へと立ち寄るのはペアーの恒例だ。この店へとやってくる人々は酒場で出会う人々よりも個性豊かであり、ペアーへと多くの刺激を与えてくれる。執筆の際に参考になるのではないかと、つい赴いてしまうのだ。
 カウンターに置かれた、接客用の椅子にと座りながら人形作りに勤しんでいたフルーリはペアーが現れると微笑んだ。そんな少女へとペアーはにっと笑みを向けた。
「こんにちは、フルーリちゃん!その通り、今日も探してるよ!」
 ペアーは言うと懐からペンとメモ帳を取り出す。するとフルーリはころころと笑い声を上げた。
「今日はこの後、二件来客予定があるよ~依頼の内容は聞かせられないけどね」
「そこは分かってるさ♪お客さんがどういう顔をしてやってきて、どういう顔で帰っていくのか!それだけ分かれば十分だよ!まあ後はフルーリちゃんの恋バナも聞きたいんだけどね♪」
「えっ、わ、私の?」
「そうだよ!ほらほら、アスバルさんとはどこまでいったの~俺に教えてよ?ね?ねっ?」
 驚くフルーリへとずいずいっと近寄ったペアーの瞳と表情は星々の様に輝きを放っている。勢いよく来客用の椅子へと飛び乗ると、さっと周囲を見回す。今日は姿が見えないが、この少女は魔界にある国を治める魔王と恋仲の関係なのだ。普段は魔王アスバルから話を聞いているのだが、今日はフルーリから聞こうとペアーは身を乗り出す。店内にはフルーリしかいない今がチャンスだ。
「う、うぅん……話すって言っても何を話せば良いのかなぁ?えへへ、なんだか恥ずかしいよぉ」
「うんうん、その表情いいねえ!まさに恋する女の子って感じ☆なんでもいいさ、アスバルさんとどういう風に過ごしたかだけでも良いんだよ♪」
「そ、そぉ?じゃあ、ちょっとだけお話しちゃおうかな」
 ペアーに促されたフルーリは作りかけの人形をカウンターへと置く。作りかけの人形は見慣れた姿だ。何せこれからフルーリが話す人物を模した人形に違いないから。
「先日アスバルと一緒にお出掛けをしたんだよ。行った場所は――」
 記憶を辿りながらフルーリは語り出す。少女の紡ぐ物語をペアーはにこにことしながら聞き、同時にペンをメモ帳へと忙しなく走らせていくのだった。
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