何でも屋のおはなしまとめ
オムとフルーリのおはなし1
オムがフルーリと出会ったのはとある依頼の帰り道だった。あの日の事はよく覚えている、とオムは時折追憶をする。
グランゼドーラで受けた依頼をこなし、依頼主に報告へと向かう道の途中。夕暮れ時の街道を歩いていたオムは魔物達に襲われた。相手は日々鍛錬を重ねているオムにとっては苦戦をする相手ではなかったが、如何せん数が多かった。幼少期から苦楽を共にしている片手剣を握りしめ、顔を顰めた時。「伏せて!」という声がしたと思った次の瞬間、頭上を人の影が過った。
驚くオムの目の前に降り立ったのは人間の少女だった。少女はオムと同じく片手剣を携えていた。牙を剥くキラーパンサーとオムの間に降り立った少女は咆哮を上げる魔物へと臆する事無く斬りつけた。的確に魔物の急所を狙った一閃にオムが目を丸くしていると。少女はオムの背後へと回り込り、背後に控えていた魔物に一太刀を浴びせた。
そして瞬く間にオムを取り囲んでいた魔物達へと剣を振るって行く――オムはただ呆然としながら光景を見ている事しか出来なかった。ただオムの脳裏には、幼少期から何度も聞いてきた冒険者の話が呼び起こされていた。二振りの剣を振るい、幾度となく人々を助けた女剣士の話を。まるで目の前に居る少女の様だ、とオムは場違いながらもそう思っていた。
かつて自分の窮地を救ってくれた少女……それがフルーリだった。
「もぉっ、フルーリちゃん!またお口のまわりが汚れてるよ!チョコレートを食べてたんだね!?」
「あっ……えへへ、バレちゃったぁ」
何でも屋の受付で繰り広げられるフルーリとシャネルのやりとりを見ながらオムは思う。あの時自身を救ってくれた少女と今の少女の様子はあまりにも違いすぎる。だがどちらもフルーリであるのだ。受付から少し離れた位置に設置をされているふかふかのソファに座りながら、オムは先程アパが用意をしてくれたジュースが入ったコップを手に取りながら思う。
出会いの一件以降、オムは時折何でも屋から依頼を受けるという形で彼女たちの仕事を手伝っている。日を重ねる毎に依頼の数が多くなっている、と以前アパが溢していた言葉を思い出す。きっとこの店長である少女の人柄に惹かれて、依頼を引き受けて欲しいという人々が増えているのではないだろうか。幼いプクリポにハンカチで口元を拭って貰っているフルーリを見ながらオムが思っていると。不意にフルーリがオムの視線に気づいた。
「オム君どうしたの?ジュースのお代わりが欲しい?」
「それは違うでしょ、まだいっぱい入ってるし。お菓子が欲しいんじゃないの?」
「あっ、そういう事か!待っててね、今持ってくるからっ」
「え?い、いやちが」
慌ててオムが否定の言葉を紡ごうとしたものの、フルーリの動きの方が早かった。フルーリは閃いた表情を浮かべると厨房へと姿を消してしまう。シャネルもやれやれと言った面持ちでフルーリを追って受付を後にした。
「アパ君の手作りお菓子がいっぱい入ってる……!」
「ほんとだ。でもまだ食べ頃じゃなさそ……って言ってる傍から食べようとしないでよ!ダメ!」
「えぇ~!?」
残されたオムは厨房から聞こえてくる二人のやりとりを聞き、思わず苦笑いを浮かべ――そしてふと思う。自身が憧れを抱く女剣士も、もしかしたら武勇伝には残されていない一面もあるのではないか。そしてその一面は今のフルーリの様な、武勇とは真逆な一面なのかもしれない、と。賑やかな音が溢れる厨房を耳に捉えながら、オムは手に持つジュースを口に含むのだった。
オムがフルーリと出会ったのはとある依頼の帰り道だった。あの日の事はよく覚えている、とオムは時折追憶をする。
グランゼドーラで受けた依頼をこなし、依頼主に報告へと向かう道の途中。夕暮れ時の街道を歩いていたオムは魔物達に襲われた。相手は日々鍛錬を重ねているオムにとっては苦戦をする相手ではなかったが、如何せん数が多かった。幼少期から苦楽を共にしている片手剣を握りしめ、顔を顰めた時。「伏せて!」という声がしたと思った次の瞬間、頭上を人の影が過った。
驚くオムの目の前に降り立ったのは人間の少女だった。少女はオムと同じく片手剣を携えていた。牙を剥くキラーパンサーとオムの間に降り立った少女は咆哮を上げる魔物へと臆する事無く斬りつけた。的確に魔物の急所を狙った一閃にオムが目を丸くしていると。少女はオムの背後へと回り込り、背後に控えていた魔物に一太刀を浴びせた。
そして瞬く間にオムを取り囲んでいた魔物達へと剣を振るって行く――オムはただ呆然としながら光景を見ている事しか出来なかった。ただオムの脳裏には、幼少期から何度も聞いてきた冒険者の話が呼び起こされていた。二振りの剣を振るい、幾度となく人々を助けた女剣士の話を。まるで目の前に居る少女の様だ、とオムは場違いながらもそう思っていた。
かつて自分の窮地を救ってくれた少女……それがフルーリだった。
「もぉっ、フルーリちゃん!またお口のまわりが汚れてるよ!チョコレートを食べてたんだね!?」
「あっ……えへへ、バレちゃったぁ」
何でも屋の受付で繰り広げられるフルーリとシャネルのやりとりを見ながらオムは思う。あの時自身を救ってくれた少女と今の少女の様子はあまりにも違いすぎる。だがどちらもフルーリであるのだ。受付から少し離れた位置に設置をされているふかふかのソファに座りながら、オムは先程アパが用意をしてくれたジュースが入ったコップを手に取りながら思う。
出会いの一件以降、オムは時折何でも屋から依頼を受けるという形で彼女たちの仕事を手伝っている。日を重ねる毎に依頼の数が多くなっている、と以前アパが溢していた言葉を思い出す。きっとこの店長である少女の人柄に惹かれて、依頼を引き受けて欲しいという人々が増えているのではないだろうか。幼いプクリポにハンカチで口元を拭って貰っているフルーリを見ながらオムが思っていると。不意にフルーリがオムの視線に気づいた。
「オム君どうしたの?ジュースのお代わりが欲しい?」
「それは違うでしょ、まだいっぱい入ってるし。お菓子が欲しいんじゃないの?」
「あっ、そういう事か!待っててね、今持ってくるからっ」
「え?い、いやちが」
慌ててオムが否定の言葉を紡ごうとしたものの、フルーリの動きの方が早かった。フルーリは閃いた表情を浮かべると厨房へと姿を消してしまう。シャネルもやれやれと言った面持ちでフルーリを追って受付を後にした。
「アパ君の手作りお菓子がいっぱい入ってる……!」
「ほんとだ。でもまだ食べ頃じゃなさそ……って言ってる傍から食べようとしないでよ!ダメ!」
「えぇ~!?」
残されたオムは厨房から聞こえてくる二人のやりとりを聞き、思わず苦笑いを浮かべ――そしてふと思う。自身が憧れを抱く女剣士も、もしかしたら武勇伝には残されていない一面もあるのではないか。そしてその一面は今のフルーリの様な、武勇とは真逆な一面なのかもしれない、と。賑やかな音が溢れる厨房を耳に捉えながら、オムは手に持つジュースを口に含むのだった。