そしかいする度に時間が巻き戻るようになった

 スコッチを拉致した翌朝。
 秋がリビングに行くと、ソファーで寝ていたスコッチがすぐに身体を起こした。目の下には隈ができている。ろくに眠れなかったらしい。


「……おはよう」

「えっ、あー、おはよう」


 朝っぱらから人と話すなんて何年ぶりだろうか。その上朝の挨拶を交わしたのは人生で初めてかもしれない。慣れない経験だったので反応が遅れてしまった。
 秋は違和感を振り払うように首を振りながら冷蔵庫に向かう。扉を開けると冷気が漂ってきた。
 冷蔵庫を後ろから覗きこんだスコッチが思わずといった様子で漏らす。


「うわっ、中身少な」

「えー、ちゃんと飲み物冷やしてあるじゃん」

「飲み物しか入ってないだろ……」


 比較対象がいないので知らなかったが、どうやら相当中身が少ない部類らしい。
 食に興味がないからこうなっているのだがズボラだと思われるのは癪だ。秋は言い訳がましく口にした。彼女は相手からどう見られるかを一番に気にする面倒なタイプなのである。


「基本は外食か、出来合いのもの食べるだけだからね。スコッチは出歩けないし、冷凍おかずの宅配サービス探さなきゃ」


 言いながら今度はキッチン棚をあさる。レトルト食品の袋を発掘した。
 秋は銀色の袋をスコッチに突き出しながら尋ねる。


「スコッチはレトルト食品温める派? 温めない派?」

「逆に温めない派が存在することに驚いたよ」


 スコッチは温める派らしい。贅沢な奴だ。久々に電子レンジを使うことになった。

 普段は袋から直接食べているが、今日はスコッチの歓迎も兼ねている。盛り付けるべきだろう。
 秋は親切心で紙皿を取り出した。陶器の皿がない事実に驚かれて、しまいには自分が料理を担当する提案をされた。
 聞けば料理は趣味だという。学生時代にも毎日同居人のために用意していたから慣れているとも言っていた。


 紆余曲折あった末に二人とも食卓に座って食事を開始した。
 秋は紙皿に出したレトルトの牛丼を一口食べる。今まで食べていたものと同じとは到底思えないほどおいしかった。スコッチに猛プッシュされて数年ぶりに温めたのだが、記載通りに温めるとこうも味が変わるらしい。
 ついでに紙皿を使っているのもスコッチの態度が原因だった。片付けが面倒なので袋から直接食べたいと言い出せる雰囲気ではなかったのだ。

 秋は牛丼を飲みこむと唐突に言った。


「スコッチ、楽器弾くでしょ。ギター?」

「ベースだけどなんで分かったんだ?」

「昨日スコッチを拘束するために触った左指の腹が硬かった。楽器を弾く人の指だよ」


 話しながらスマホでベースとは何か調べてみる。ギターと同じような形をしていた。どこがどう違うのか分からない。


「ま、それなら今後生活に必要なものと一緒にベースも買おっか。お金なら腐るほどあるし」

「……娯楽品だぞ」

「私が記憶を思い出す前にスコッチの気が狂っても困るじゃん。必要経費だよ。あ、そうそう。なんか質問ある? 可能な限り答えるけど」


 何気なしに言うと、スコッチの目の色が変わった。
 一瞬視線を斜め上にやって逡巡してから、彼は始めの質問を口にする。


「今からの質問に嘘はないよな?」

「え、うん」


 その質問は予想外だった。早速嘘をつかれたら尋ねた意味がなくなる部類の質問だからだ。


(いや、答えを聞きたいんじゃなくて私の反応を見て判断材料の一つにしたかったのか)


 そう考えると納得がいった。スコッチが秋の回答を全面的に信じるなんて想像がつかない。彼の立場なら警戒しすぎて損はないはずだ。

 スコッチは次の質問に移る。


「ところでここはどこだ?」

「東都のどこか」

「俺が持っていたスマホの中身は見た?」

「見てない」


 問いかけはまだまだ続く。その日は矢継ぎに質問されて終わった。





 スコッチの警戒心が鳴りを潜めたのは共同生活が始まって二ヶ月経った頃だった。
 ここまで期間があれば危害を加えるチャンスはいくらでもあるのに、ずっと何もしないので警戒するだけ無駄だと判断したのだろう。


 秋はリビングに置かれたテレビに、動画配信サイトで探したホラー映画を映した。
 ソファーの上で体操座りをしてリモコンを掴み、早送りボタンを押す。
 登場人物が恐怖で顔を青くしているシーンに到達すると早送りを解除し、そのシーンが終わると巻き戻りボタンを連打する。そうしてまた同じシーンを見る、を繰り返す。
 演技の参考にするためだ。
 秋は自身の感情を引き出すのが苦手なので、人の演技を見よう見真似で模倣するしかない。特に映画はその道のプロの演技を何度も確認できるので重宝している。

 主人公らしき女性が血が抜けたように白くなった顔をして、全身を震わせながら床に崩れ落ちた。硬く結ばれた唇は真っ青。カタカタと身体が震えている。
 なるほど、こうするとそれらしく見えるのか。


「何やってるんだ?」


 十回ほど同じシーンを繰り返していると、自室から出てきたスコッチに尋ねられた。ベースのチューニングが終わったのだろう。
 秋は顔だけ動かして答える。


「今度任務で米花町に行くから、殺人事件に巻き込まれてもそれらしい演技ができるように勉強してるんだよ」

「うっわ。よりにもよって米花町か」


 スコッチがうめいた。当然である。

 米花町は恐ろしい。
 なんといっても事件発生率が異常なのだ。毎日殺人事件が起こっているし、連続爆破事件や強盗だって日常の一部だ。
 それだけ事件が起こっているのだから多少事件が増えても目立たないだろうと、組織が起こす犯罪の実行場所に度々選ばれるレベルである。現に、不審死が多少増えたことで訝しんでいる住人はいない。やばい。


「ところで任務ってどんなの?」

「最近有名な毛利小五郎っているじゃん。組織が起こした暗殺にあの探偵が関わっていたから何か勘づかれていないか調べろってさ。なんと普段姿を見せないあの方が、経過報告すら直接報告するように言ってきたんだよね。何考えてるんだろ、あの老いぼれ」

「へえ。アドニスってあの方と面識あるんだ。どんな人?」

「情報収集に余念がないね」

「ま、公安に帰れた場合手ぶらはまずいからな。で?」


 スコッチは続きを促すように言葉尻を上げた。
 しかし秋は言葉に詰まる。さすがにあの方の情報はペラペラと喋れない。
 こちらが言い淀んでいるのに気づいたのだろう。スコッチがすかさず話題を変えた。


「じゃあアドニスが普段やってる任務は? ほら、組織では謎に包まれてたから。あの方と面識持てるなんて相当だよな」

「どんな面を見出されて組織に所属しているのかって質問なら答えは簡単だね。ほら、私って存在そのものが素晴らしいからさ。組織に在籍してるって事実だけで全体の士気が上がるんだよ」

「やっぱそう簡単には教えてくれないか〜」


 スコッチはケラケラと笑った。
 失礼な奴だ。こっちは本気で言っているのに。

 スコッチはソファーの後ろから回りこんで秋の隣に座る。
 テレビ画面に映った女性を見て、顎に手をあてた。


「話は戻るけど、この演技は参考にならないだろ。アドニスなら必死に虚勢張りそう」

「えー、そう?」

「この前ゴキブリが出た時だって必死に強がってただろ」

「私が虫けら如きに怯えるとでも?」

「ほら、そういうとこ」


 納得したが認めはしなかった。スコッチが指摘しているのはこういったプライドの高さなのだろう。
 このような機敏をスコッチが察するくらいには、彼との距離が縮まっているのだと思う。





 * * *





 組織の暗殺に巻き込まれた毛利探偵事務所を探るようにとあの方直々に命令された。調べるのは毛利探偵事務所であって、毛利小五郎単体ではない。小五郎の娘と、長いこと在籍している探偵助手も含まれる。
 世間で名探偵ともてはやされている毛利小五郎はもちろん、一時期警察官だった探偵助手にも念のために探りを入れる必要があるだろう。

 秋は探偵事務所の人間のプロフィールをざっと調べたのち、実際に接触することにした。


 舞台に選んだのは喫茶ポアロ。
 毛利探偵事務所の下の階に位置しており、事務所の人々もよく訪れる。
 何度か通っていれば、いずれ店内に居合わせるだろうという計画だ。


 ──そして今日。
 入店してさりげなくあたりを見渡せば、窓際の席で新聞を広げている毛利小五郎を発見した。耳に挟まれた赤鉛筆を見るに、競馬の予想をしているらしい。


(そういえば、ループするごとに『前』に起こった事件がなくなっていくっけ。それも毛利小五郎の周辺で起こった事件ばかり)


 いかんせん事件数が多すぎるので全てを覚えているわけではないが、偶然では済まされないほど多くの事件が起こらなくなっている。

 考えられるのはバタフライ効果。秋が前回とは違う行動をとったせいで起こった些細な変化が、やがて大きな変化として現れたという説。
 しかし今までのループではこのような事態になったことがない。可能性は低いだろう。

 もう一つ考えられるのが、秋と同じようにループしている人間が未然に事件を防いで回っている説。
 もしも他にループ者がいるのなら、毛利小五郎自身か、その周辺の人物がそうである可能性が極めて高い。


(今回の目的は二つ。組織の任務として、暗殺に毛利小五郎たちが勘づいているか確認すること。そして、ループ者らしき人物がいるか探りを入れること)


 心の中で自分に言い聞かせながら注文したコーヒーを一口飲む。
 ソーサーにカップを戻すと胸ポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
 広げた紙に視線を落として考え込んでいるふりをする。独り言をこぼすのも忘れない。

 平日の昼すぎだけあって客はまばらだ。
 数分間悩んでいる演技をしていれば、調査対象が秋の存在に気がついた。
 新聞をたたむ音と革靴の足音。


「何か悩んでいるようですが、よろしければこの名探偵・毛利小五郎がお手伝いしましょうか?」


 髭をさわりながら彼は続ける。赤鉛筆は耳に挟んだままだ。


「いやあ、それにしてもお美しい」

「知っています。顔が天才ですよね」

「はっはっは。ユーモアがある方ですな」


 本気で言ったのだが、彼は冗談だと受け取ったようだった。



 秋が見ていたのは推理ゲームの概要が書かれた紙だ。
 友人から出された推理ゲームが難しくて悩んでいたところ、偶然居合わせた女好きの毛利小五郎が助力を申し出てくれる、という筋書きである。

 彼が組織の暗殺に気がついているのかを探るしかけは推理ゲームにある。
 ゲームの答えが件の暗殺事件の真相に酷似しているのだ。事件の裏を知っているのなら何かしらの反応をするだろう。

 ちなみにこの問題を用意したのはバーボンだ。「そういえばバーボンってスコッチと仲良かったよね。バーボンもNOCじゃないかって噂になってるよ。深い意味はないけど、バーボンが怪しいって私が口にしたらどうなるかな。いや、本当に深い意味はないんだけどさ」などと言って作成してもらったのだ。バーボンはキレてた。



 経緯を思い返していると数十分が過ぎた。コーヒーは冷めきっている。しかし推理に進展はない。
 毛利は何度か推理を披露したが、どれも簡単に矛盾点が見つかるほどお粗末なものだった。


「意外と難しいですな。でもこの毛利小五郎にかかれば解けない謎はないですよ。なーはっはっは」


 笑ってはいるものの彼は冷や汗を浮かべて、しきりに目を泳がせていた。
 毛利小五郎は世間で言われているほど推理力が高くないのではないかと秋は思い始める。その思考は上から降ってきた声によって中断された。


「小五郎さん、何してんの?」


 見上げると背の高い男がいた。


「ああ、ちょっと推理ゲームをな」

「へえ。俺も手伝おっか?」

「ま、まあ今後の勉強になるだろうし、助手としてしっかりと励みたまえ」

「はーい。名探偵毛利小五郎の助手、萩原研二です。よろしくね、お姉さん」


 男は人好きのする笑顔を浮かべると、自然な動きで毛利の隣に座った。
 ずいぶんとフランクな態度だ。それでいて相手に不快感を与えない。人の懐に潜り込むのが上手そうな印象を受ける。

 二人目の調査対象は問題が書かれた紙を覗きこむと疑問を口にした。


「あれ、容疑者Bっていつトイレに行ったんだ?」


 それからはあっという間だった。
 不自然な遺体の状況、不完全なアリバイなど。萩原が次々と不可解な点に気がついて口にする。それを聞いた毛利がだんだんと真実に近づく。

 どう見ても萩原の方が洞察力が高い。おそらく推理力でも彼が上回っているのだろう。
 さらに、さりげなく毛利を誘導している節が見られる。
 今まで毛利小五郎が解決してきた事件は萩原が誘導していただけなのではないかと秋は感じた。


 萩原到着から数分経つと、ついに毛利小五郎が真実にたどり着いた。
 助手のアシストによって判明した真実を自信満々に語る彼に相槌を打ちながら、脳内で状況を整理する。


(萩原研二にも推理ゲームを見たときの動揺はなかった。あの事件に組織が関わっていたことには気がついていないっぽい。組織の任務としてはシロ。でも毛利小五郎と萩原の推理力を考えると、事件を未然に防いでいるループ者の第一容疑者は萩原研二。今後も個人的に調べる必要あり、っと)


 秋は隙を見て発信機を萩原にしかけた。これで行動を把握できる。
 偶然を装って接触し続ければ親しくなれるだろう。





 * * *





 萩原は頻繁に未遂事件に遭遇していた。いや、将来事件が起こる場所に出向いていると言った方が正しいだろうか。

 どう考えても萩原は未然に事件を防いでまわっている。三十日間接触を続けた末に出した結論がこれだ。

 例えば、毒が入った飲み物をこぼす、犯人が隠し持っているナイフを発見する、アリバイ工作を失敗させる。
 どれも、これから事件が起こるとあらかじめ知っていたからこそできたのだろう。

 萩原は毎回、偶然を装って犯人が用意したトリックを防ぐ。
 確固たる殺意を持っている犯人は次の機会を狙うが、ノリで犯行を決意したり、勘違いの末犯行に及ぼうとしていたパターンなら、一度トリックが失敗すれば事件は起きない。そして、その場合のほうが圧倒的に多かった。





 秋は、一台の車がギリギリ通れる細さの道を萩原と並んで歩いていた。あたりに人影はない。
 日は暮れていて、かといって暗闇ではなくて、薄紫の淡い空が広がっている時間帯だ。ぽつぽつと街灯が灯りをともし始める。

 東都タワー内で出会った二人は一緒に行動し、案の定事件に巻きこまれた。今はその帰り道だ。


「にしても大変だったよな。まさか爆弾事件に巻きこまれるなんて」


 先に口を開いたのは萩原だった。
 この一ヶ月間で距離を縮めることに成功し、今では彼と砕けた話し方をする仲になっている。


「犯人が起爆スイッチを押す前に萩原が解体しておかなかったらと思うとゾッとするね。取り調べとかどうなるんだろ」

「警察も忙しいからな。大ごとにならなかったし、あっさりと終わると思うぜ。この規模の事件でもしっかり対応してたら警察官が過労死しちまう」

「今の時点でそれって、毎日のように事件が起こる時期になったらどうなるのさ。確か工藤新一の名前を見かけなくなるくらいだっけ?」


 何気ない口調に聞こえるよう注意しながら言葉を発すると萩原が足を止めた。
 秋はそれに気づかず数歩進んでしまったので振り返る。
 緊張を気取られないように意識して余裕げな笑みを浮かべながら告げる。


「萩原もだってすぐに分かったよ。毎回事件を未然に防ごうとしてるから」

「……ってことは間宮ちゃんもくり返してんのか。よく自分から話そうと思ったな」

「どっちかが行動しないと何も変わらないでしょ」


 さも当然かのように言ったが真意は違う。
 面倒な状況になった場合の対策手段があるから、ここまで大胆な行動に出られたのだ。
 廃人になる部類の薬物を盛ってから殺せば『前』の周に何があったかなんて綺麗さっぱり忘れてしまう。

 萩原は秋の真意に気がつかずに軽く笑った。


「はは、それもそうだ。で、打ち明けた理由は?」

「単刀直入に言えばループについて知っていることをすべて教えてほしい」


 彼は初めて出会った同類だ。可能なら持っている情報を知りたい。

 答えを待つようにじっと見つめる。
 萩原は少し考えこんだ後、口を開いた。茶色い木枯らしが吹き抜けていった。


「条件がある」

「ふーん、どんな?」

「未来を変えるのを手伝ってほしい。毎回死ぬ友人がいるんだ」


 受け入れてくれるなら後でもっと詳しく話すけど、と前置きしてから萩原はかいつまんで説明する。

 伊達航。
 警視庁捜査一課に所属する刑事。
 事故にしか見えない状況で毎回死ぬ。どれだけ状況を変えても死ぬ。


「いくつも事件を未然に防いでいる俺だからわかる。ただ条件を変えただけでは覆せない出来事ってのは存在してる。それらには決まって明確な意志が介在してるんだ」

「それって、」

「ああ、事故に見せかけた殺人だ」


 犯人の目星すらついていないのだろう。
 でなければ、こうして秋に助けを求めたりしない。何度やっても糸口すら掴めないから、新しいループ者という名のイレギュラーを投入してみようといったところか。

 組織随一の洞察力を持つバーボンが作成した推理ゲームを解き、いくつもの事件を未然に防ぎ、ついでに爆弾の解体までできてしまう萩原が、怪しさ満点の秋に助けを求めている。ただ、ループ者だからという理由だけで。


(萩原でも何も掴めてないって、かなり面倒な案件なんじゃ……?)


 秋は返事に迷った。果たして労力と対価は釣り合うのだろうか。
 そもそも萩原に情報共有を持ちかけた一番の理由は彼が不穏分子だからだ。同じループ者である萩原と敵対すれば、強大な敵となるだろう。
 そうなる前にある程度行動や持っている情報を把握しておきたくて今回の行動に出た。

 が、その対価に働かなければいけないのなら話が変わってくる。
 断る方向に傾きかけていると、萩原は大げさすぎるほどに傷ついた表情をした。


「そう……だよな。間宮ちゃんって自分にできないことはないとかいつも豪語してるけど、考えてみりゃ普段のポンコツ振りと結びつかない。きっと自分を大きく見せたくて、ついつい大口叩いちゃうんだろ? 大丈夫、自分を大きく見せたいって気持ちは否定しねえから。嘘は駄目だけど致しかたない場合もあるって理解してるぜ、うん」


 秋にはわかる。
 これは謝罪をよそおって相手を煽る高度テクニックだ。だって、萩原の態度はあまりにもわざとらしい。

 プライドの高さに定評のある秋は反射的に返した。


「そんなこともないけどね!?」

「いやいや、間宮ちゃんの性格わかってたはずなのにこんなこと頼んじゃってごめんな。手がかりがほとんどない状態でまだ起こってない事件の犯人を見つけ出すだなんて無理難題、出来るわけないって聞く前にわかりそうなもんなのに……」


 萩原は白々しくへにょりと眉を下げた。
 彼の変わらない態度のせいで口が勝手に動いてしまう。


「できるけど!?」


 しまった、と思った時にはもう遅かった。
 秋はこの状況で一度発した言葉を取り下げられる人間ではない。そのことは自分が一番よくわかっている。

 こうなったらヤケだ。
 秋はいつも通り胸を張って偉そうな口調で言った。


「この間宮秋様にできないことなんてあると思う? 発生前で捜査のしようがなかろうが、私にかかればお茶の子さいさい、ぜーんぶ綺麗に解決するね!」
3/26ページ
スキ