そしかいする度に時間が巻き戻るようになった
※Gの名前が出ます。
秋は薄暗い廊下を早足で進んでいた。足音に合わせてリノリウムの床が鳴る。グラデーションのように歩いたところにライトが当たり、後ろのライトが消えていく。
しばらく歩くと、廊下の最奥に位置する無機質なデザインの扉に着いた。二回ノックして、解錠を待つ間に首から下げている入館証明書を外す。邪魔になるのでポケットに押し込む。
ややあって扉が開いた。扉を開けたシェリーの顔は青白く、目の下には薄い隈が浮かんでいる。姉の死やら時間の巻き戻りやらを知ってから二週間。未来を知った当日はある種の興奮状態だったため深く考えずに済んだが、二週間もあれば実感が湧いてくる。悪い想像に苛まれてきたのだろう。
秋はご機嫌取りも兼ねて小さな紙袋を差し出した。
「はいこれ。会員制のバーで貰ったお土産。いらないからあげる」
「有名ブランドのクッキーじゃない。どうしたのよこれ」
受け取った紙袋の中身を確認してシェリーが目を瞬く。
秋は慣れた態度で、シェリー個人に与えられた個室であり、検査協力を行う場所でもある部屋に入り、壁端に置かれた椅子を持ち上げながら答えた。
「会員制の高級バーって帰りにお土産くれたりするんだよ。これは任務でたまに使う高級バーのやつ」
「へえ。それじゃあありがたく頂くわ」
椅子を普段の定位置──シェリーのデスク横に移動させながら考える。
シェリーの機嫌はできるだけとっておいた方がいい。
明美を助ける代わりに情報を教えてもらう約束を交わしているが、全ての情報を教えてもらえたか確認する術はない。「知っている情報を全て教える」という取り決めは彼女の良心によって成り立っている。一部の情報を除いた状態で、これが知っている全てだと主張されたらそれまでだ。
そもそも、多大なストレスのせいで精神を病まれでもしたら計画が頓挫してしまう。随時フォローはするべきだろう。
「そう言えば買い物に同行した時、シェリーの鞄に煙草が紛れこんじゃったみたいなんだけど知らない?」
「渡し忘れないよう部屋に置いてあるわ」
シェリーはデスクに紙袋を置き、その流れで隣に置いてあった箱を手に取った。差し出された煙草箱を受け取る。ずっしりと重い。
「アドニスも吸うのね」
「好き好んでってわけじゃないけど何かと便利だからね。喫煙所で手に入る情報は馬鹿にならないし、箱に何かを隠すこともできる。情報媒体や少量の麻薬なんかの受け渡しでは結構役立つよ」
例えば忘れた煙草に探知機を隠すなんて使い方もある。
探知機とは、盗聴器や隠しカメラが発する電波を感知して隠し場所を特定する機器だ。前回、シェリーと別れる際に探知機を隠した煙草の箱を渡し、「今度の定期検査のとき忘れず返せるように」という名目で個室に置いておくよう指示した。
もしもシェリーの個室が監視されているのなら、使われているのはリアルタイムでデータを閲覧できる無線式の盗聴器やカメラの確率が高い。そして無線型の盗聴器や隠しカメラは、電波を飛ばしてデータを転送する仕組みになっている。よって電波を感知する探知機で探し出せる。
個室に探知機が置かれていたのは二週間。使用した探知機は、室内の電波送信履歴全てをオンライン上で確認できる物だ。そのためこの二週間の送信履歴はもれなく把握済みだが、不審な電波は見られなかった。
無線型の盗聴器および隠しカメラは仕掛けられていないということになる。
こうしてシェリーの個室を調べているのは密談に使えるか確認するためだ。
密談で話すべきことは山ほどある。明美死亡回避に伴う相談。シェリーが把握している研究内容の詳細。それらを元にした、ループの謎やあの方の目的の予測。ループについて判明している事実を洗い出して行う推論。
これらの作業をこなすには、あの方の目を誤魔化しながら連絡を密に取らなくてはならない。扱う情報量が多いため対面形式が望ましい。
しかし連絡を密に取り合うと言っても電話は盗聴されやすく、新たに作戦会議の時間を設けるのも躊躇われた。探られて痛い腹があるのに今までの周と異なる行動を取るのは避けたい。
(厳しい条件だけど、私の天才的な頭脳は最適解を弾き出したわけだ)
秋は回想に浸りながら口元に弧をたたえた。要するに一人でほくそ笑んだ。スマホをいじっていたシェリーがジト目で見てきたが、秋は気にせず回想に浸り続ける。
(目をつけたのは一定の間隔で行われる検査協力。研究の秘匿性によって検査協力は大っぴらに行われておらず、大きな機材を使うとき以外は担当者であるシェリーに与えられた個室で実施される)
シェリーの個室、つまりこの部屋は専用のカードとパスワード、極め付けにはシェリー本人の手のひらの静脈認証によって保護されており、部屋を開けられるのはシェリーだけだ。さらに検査協力はシェリーと二人きりで行われる。
「鍵」が室内にいるのもあって、密談に最適な機会だと言えた。
ただし監視ツールが設置されていたら、いくらセキュリティが万全でも話が筒抜けになってしまう。
だから事前に盗聴器や監視カメラが仕掛けられていないかを確認する必要があった。
あらかじめ設置しておいた探知機によって、電波を発する盗聴器やカメラの類がないのは確定している。
しかし電波を発さない有線型の機種も存在する。これらは録音・録画のみを行いデータを転送しない機器なので、データを確認したければ後日、本体ごと回収する必要がある。
リアルタイムで確認できない上にセキュリティを書き換えてまで部屋に侵入しなくてはならない面倒さから使用を避けるはずだが、念には念を入れて疑いを完全に潰しておきたい。
秋はシェリーに目配せした。
合図を受け取ったシェリーは、スマホを置いて呆れ声で言う。
「さっき何ニヤついてたのよ」
「悪意のある表現だな。世界を浄化するが如き微笑みをたたえていたと言ってほしいね」
「世界に不幸を振りまいてる犯罪組織の幹部が? 盛大なマッチポンプじゃない」
呆れたように細められた目が、ふいに部屋の隅へと向いた。シェリーは動く影を捉えたかのように、目を素早く左右に動かす。
「何かいるわ!」
「え?」
「大きめの虫……もしかしたらゴキブリかも」
言いながら、シェリーはサッと秋の後ろに回ってこちらを盾にした。
背中の裏に陣取りながら、後ろ手で引き出しから殺虫剤を取り出したのが横目で確認できる。シェリーは引き出しを閉めると、殺虫剤をこちらの手のひらに押し付けてきた。ゴキブリ退治のふりをして盗聴器やカメラを探させる筋書きらしい。
秋は思わず目を瞬いてしまった。大掃除のごとく部屋をひっくり返して隅から隅まで調べる名目を適当に用意して欲しいと頼んだだけなので、このような方向で来るとは予想外だった。
捜索の名目をある程度事前に固めておくべきだったと少々後悔する。ぶっつけ本番の演技は少しだけ苦手だ。
秋は自身の演技力に一抹の不安を覚えつつ返す。
「あー、虫ね。分かった分かった任せなさい」
ちょっと棒読みになってしまった。秋は内心で冷や汗をかく。
自然な演技をしたいのなら、演じたい状況に極力近い感情を想起させ、心のままに振る舞うのが定石だとされている。恐怖心や罪悪感、自己嫌悪を見ないようにしてきたせいで、自分の感情に鈍感なきらいがある秋とは相性が悪い。
もちろん腹の探り合い、騙し合い、裏切りが横行している裏社会で生きている以上対策は取っていた。演技の機会が訪れると事前に分かっていれば、必要とされる演技の予測と大量のインプットによる猿真似でどうにかなる。演技に精通しているベルモット相手では怪しいものの、他幹部には通じるクオリティを保っているはずだ。
しかし裏を返せば、事前準備がなければ太刀打ちできないとも言える。
(まあいいか。盗聴器がある確率は低いし、多少棒読みでも虫にビビっていると解釈されるはず。……それはそれで嫌だな)
秋は全く怖くないアピールをしようかと一瞬迷ったが、負け惜しみにしか聞こえないと気付いて辞めた。
仕方なさそうな顔を作ってシェリーが指した部屋の隅に屈む。盗聴器が仕掛けられやすいコンセントの近くだ。
虫を探すふりをして棚をどかしながらチェックする。それらしいものはない。奥へ、奥へと捜索の手を広げる。
椅子に腰掛ける物音がした後、シェリーが言った。
「お姉ちゃんから連絡があったわ。恋人に会ってほしいんですって」
時間は有限だ。雑談に見せかけて進められる話題を先に済ませておくつもりらしい。雑談に見せかけていれば、盗聴されていたとしても、必要に応じて音源を残す選択も取れる。
(そして、その話題が赤井秀一との顔合わせ対策か。今の時期は諸星大だっけ)
未来を知ってしまったシェリーがこれまでの周と同じように振る舞えるよう都度指示すると、二週間前に伝えてあった。
未来を知ってしまったシェリーの行動に他の周との差異が出て、それにあの方が注目し、こちらの目論見が全て露呈する最悪の事態を防ぐためだ。
直近で起こりうる、これまでの自分とは異なる行動をしそうであり、あの方が注目するであろう事柄は何かと彼女なりに考えて、諸星大との顔合わせだと結論を出したのだろう。
その判断は正しい。秋が最も懸念しているのもこれだ。
そもそも、シェリーの行動を変えないよう都度指示すると伝えたのは、諸星大対策だった。
将来姉が殺される原因の一端が諸星だとシェリーが知ったなら、「そんな奴とは会いたくない」とゴネる可能性がある。そしたら諸星大が組織に入るルートが変わってしまう。
諸星は明美と交際することでシェリーと面識を持ち、シェリーの近くにいる組織の人間に取り入って組織に入るのが常だった。
この展開が崩れたらあの方に目をつけられる恐れが高い。あの方は能力の高い人物を警戒しているが、どの周でも組織壊滅の立役者を果たす赤井秀一への警戒は一入
だろう。
二周目以降は、組織壊滅の未来を知っているあの方が黙認しているために組織の瓦解がなされているとは言え、一周目はあの方の意表を突いて組織壊滅が為されたはずだ。
あの方にとって赤井秀一とは、ループ現象さえなければ自分を討ち滅ぼしていた天敵である。
その赤井秀一が、この周だけ組織に入る手段を変えていたらあの方は怪しむ。怪しんで、シェリーが諸星と会おうとしなかったから潜入方法が変わったのだといずれ気がつく。そうなれば、なぜシェリーはこの周のみ諸星に会おうとしなかったのかと考えるだろう。こうなったら秋の暗躍に思い至るまで秒読みだ。
かと言って、この事情を懇切丁寧に説明して、「こういうわけだから諸星大と会って、シェリーの周囲の人間と諸星が接触する機会が生まれるだけの交友を築いてほしい」と頼めるわけではない。もしもシェリーが諸星に怒り心頭だったら、彼女の感想は「ふざけんなよ」になる。
事情が事情なので最終的には折れてくれるだろうが、シェリーの機嫌を極力とっておく方針は早々に瓦解する。
だからこそ、フォローが必要そうだったらやんわり軌道修正をするために、「未来を知ってしまったシェリーがこれまでの周と同じように振る舞えるよう都度指示する」とだけ事前に伝えておいたのだ。
実際は「都度」という程の頻度ではなく、諸星の件がクリアされれば指示はほぼ必要なくなる。
雑談にカモフラージュ可能な話題を先に済ませるべく、口火を切ったシェリーに対して、秋は軽く尋ね返した。
「へえ、会うの?」
「断れないわよ」
予想よりもシェリーの声色に棘がなくて、秋は目を丸くする。
「てっきり悪感情があるかと思ってた。大好きな姉を奪われたわけだからさ」
「そりゃあ気に食わないのも確かよ。出会いからして怪しいもの」
彼女の表情が気になって振り向くと、シェリーは姉から聞いた出会いを思い出しているのか不服そうな顔をしていた。でもそれだけだ。
秋は困惑を抱えながら、肯定とも否定とも取れない相槌を打つ。
この場では曖昧な反応が正解だと秋は身に染みて知っていた。
どの周だろうと、この時期に行われる定期検査で振られる話題がもっぱら諸星大の愚痴だったせいで、秋は明美と諸星との間に起こる出来事を熟知していた。それと同時に、下手に同調しようものなら「お姉ちゃんが選んだ人に文句つけてるんじゃないわよ」と難癖をつけられるのも知っている。
曖昧な反応でお茶を濁すのが無難だ。
ここら一帯は調べ終わった。監視ツールは見当たらないので、秋は虫を探している演技を続行する。
「こっちにはいなさそうだけど。虫なんて本当にいるの?」
「他の場所に移動したのかもしれないわ。薬品棚の下を通って向こうに行ったとか」
「はいはい」
腰を上げてシェリーが指さした方へと移動する。機材がごちゃごちゃと置かれており、何かを隠すのに向いた場所だ。
「見つかるまで徹底的に探してもらうわよ。でないと安心してコーヒーも飲めないじゃない」
「あのー……、手伝ってくれたりは」
「イ・ヤ」
これで部屋をひっくり返す勢いで調べても怪しまれない土俵と、偽装された盗聴器やカメラを見分けられないシェリーが参戦しない理由づけが整った。
秋は仕方なさそうな表情を浮かべてから先程の会話に戻る。
「まあ、想像より姉の恋人を嫌ってないようで安心したよ。ギスギスしないのは良いことだし」
宮野明美が殺される原因が諸星だと知ったせいで彼への当たりが強くなり、他の周の出来事をなぞる過程で大きな支障が生じるのを懸念していたが、この様子なら大丈夫そうだ。
秋は右上を一瞥して、シェリーの心境を推測した。
(諸星のせいで姉が死ぬってより、自分が組織にとって重要な科学者なせいでFBIが明美に目をつけ、その結果姉が死ぬと捉えてるのか)
自分が要因の一つとなったせいで取り返しのつかないことが起きたと知った人間は、往々にして自罰的な思考になる。自己嫌悪に陥っている時は、客観的な視点を保つよりも自分の中に責任を見出す方が楽だからだ。
秋は盗聴器やカメラを探す手を進めながら、思考を気取らせない何気ない調子で問いかけた。
「でさぁ、姉の恋人と会ったらシェリーはどうするの?」
「私が口出しできることじゃないもの。流石に別れるよう迫ったりはしないわ」
「……自分のせいで組織に縛り付けられてしまった姉の人生に口出しする資格はないって言いたげな声色だけど、シェリーがいなかったら両親が死んだ時点で明美は殺されてたよ」
「エアコン! エアコンの方で何かよぎったわ!」
(誤魔化したな)
「カバーも外して確認して頂戴」
「んな無茶苦茶な」
しかし丁度ここら一帯は調べ終わった後だったため、タイミングが良かったのも確かだった。最後にエアコンを調べたいと思っていたので渡りに船だ。エアコンには隠しカメラが仕掛けられやすい。
秋は言われるがままエアコンに向かった。
ライトでエアコンの中を照らす。カメラがあればレンズに光が反射する場合があるが、反射光は現れない。
カバーを外すと埃が舞った。フィルターは一面埃で覆われている。端的に言ってとても汚い。
秋は自分の椅子に腰掛けて高みの見物を決め込んでいるシェリーに言った。
「さては掃除サボってるでしょ」
「……忙しいのよ」
「ついでに今洗う? じっと待ってるのも暇だろうし」
「姉の恋人である諸星大に会ったらどうするかだったわね」
「洗いたくない、と。言っとくけど日を改めたとしても私は手伝わないからね」
自分で洗うか、コードネーム持ちの権力をチラつかせてそこら辺の構成員に頼むかしてほしい。
シェリーは秋の言葉を無視して話を進める態度を貫いた。
「諸星にはお姉ちゃんを守って欲しいと頭を下げるつもりよ。他にお姉ちゃんを気にかけてくれる人に心当たりがないもの」
思わず振り返って彼女の顔を見る。彼女は複雑な感情が入り混じった表情で一点を見つめていた。
以前の周でシェリーは諸星を嫌っていたか。そう問われたなら秋は否定するだろう。
確かに経歴の怪しさには苦言を呈していたし、彼が組織に入った後は苦言がより顕著になった。具体的に言うと、大切な姉が怪しさ満載の男と交際しているのを心配して、検査協力中に交わされる雑談の半分が諸星の愚痴になった。それこそ、話半分で聞いてるだけで、諸星と明美との間にあった出来事を秋が暗記してしまうほどに。
しかし彼の話をする時の声色にそこまで棘がなかったのも事実だ。シェリーは諸星大を嫌ってはいなかった。
それはきっと姉を守ってくれそうな唯一の人だからで、会ってみたら嫌いにはなれない人格をしていたからかもしれない。
盗聴器もカメラも無いのを確認したので、秋はエアコンのカバーを付け直そうとした。不器用なせいで失敗が重なる。
エアコンカバーと格闘しながら、彼女は軽い調子で尋ねた。
「私は? 宮野明美を助けてくれる人候補には入ってないの?」
「理由もなくどうでもいい相手を助けないでしょう」
「まあね。下手な親切心を出して粛清対象になっても困る」
カバーの付け直しに失敗する度、ガコッ、ガコッと音が鳴る。手を動かしながら、秋は過去を思い返した。
ベルツリー急行でシェリーは、なぜ姉を助けてくれなかったのかと訴えてきた。正確に表現すると秋が対面した相手はシェリーに扮したキッドだったが、イヤホン越しに話す内容を本人から指示されていたそうなので言葉はシェリーのものだ。
シェリーはなぜ姉を助けてくれなかったのかと問うた。しかし秋が姉を助けてくれるわけがないと、つい今しがた断定した。
ということは、
「やっぱりあの発言、私を揺さぶって作戦成功率を上げるためだったなこの野郎……!」
少々声に力を込めたのと同時に、カバーの取り付けが成功した。おそるおそる手を離しカバーが落ちてこないのを確認してから、怪訝な顔をしたシェリーに体ごと向き直る。
「なんの話……?」
「別に」
秋は一言で誤魔化した。自分が嵌められた時の話は蒸し返したくない。
「ともかく、これで捜索は終わったよ。盗聴器やカメラが隠されてそうな場所は全部探したけど何もなかった。あの方がこの検査協力の時間を警戒していたとしても、これまでの周で散々調べてシロの結論を出しているだろうし、まぁ予想通りだね」
肩をすくめて言う。そもそも、十周目になってまで監視を続けている可能性は元々低かった。
これで室内に監視の目がないことが確定した。シェリーの個室は完全な密室だ。ループのことだろうが明美を助ける計画だろうが心置きなく話せる。
「諸星大との顔合わせはさっきの話通りでいいと思うよ。明言したわけじゃないけど、『前』のシェリーの反応を思い返すと諸星に姉のことを頼んでいそうだったし。時間もないし次の話題に移ろうか」
次の話題。後天的ループ者──萩原研二に何が起こったのかについて。
秋は薄暗い廊下を早足で進んでいた。足音に合わせてリノリウムの床が鳴る。グラデーションのように歩いたところにライトが当たり、後ろのライトが消えていく。
しばらく歩くと、廊下の最奥に位置する無機質なデザインの扉に着いた。二回ノックして、解錠を待つ間に首から下げている入館証明書を外す。邪魔になるのでポケットに押し込む。
ややあって扉が開いた。扉を開けたシェリーの顔は青白く、目の下には薄い隈が浮かんでいる。姉の死やら時間の巻き戻りやらを知ってから二週間。未来を知った当日はある種の興奮状態だったため深く考えずに済んだが、二週間もあれば実感が湧いてくる。悪い想像に苛まれてきたのだろう。
秋はご機嫌取りも兼ねて小さな紙袋を差し出した。
「はいこれ。会員制のバーで貰ったお土産。いらないからあげる」
「有名ブランドのクッキーじゃない。どうしたのよこれ」
受け取った紙袋の中身を確認してシェリーが目を瞬く。
秋は慣れた態度で、シェリー個人に与えられた個室であり、検査協力を行う場所でもある部屋に入り、壁端に置かれた椅子を持ち上げながら答えた。
「会員制の高級バーって帰りにお土産くれたりするんだよ。これは任務でたまに使う高級バーのやつ」
「へえ。それじゃあありがたく頂くわ」
椅子を普段の定位置──シェリーのデスク横に移動させながら考える。
シェリーの機嫌はできるだけとっておいた方がいい。
明美を助ける代わりに情報を教えてもらう約束を交わしているが、全ての情報を教えてもらえたか確認する術はない。「知っている情報を全て教える」という取り決めは彼女の良心によって成り立っている。一部の情報を除いた状態で、これが知っている全てだと主張されたらそれまでだ。
そもそも、多大なストレスのせいで精神を病まれでもしたら計画が頓挫してしまう。随時フォローはするべきだろう。
「そう言えば買い物に同行した時、シェリーの鞄に煙草が紛れこんじゃったみたいなんだけど知らない?」
「渡し忘れないよう部屋に置いてあるわ」
シェリーはデスクに紙袋を置き、その流れで隣に置いてあった箱を手に取った。差し出された煙草箱を受け取る。ずっしりと重い。
「アドニスも吸うのね」
「好き好んでってわけじゃないけど何かと便利だからね。喫煙所で手に入る情報は馬鹿にならないし、箱に何かを隠すこともできる。情報媒体や少量の麻薬なんかの受け渡しでは結構役立つよ」
例えば忘れた煙草に探知機を隠すなんて使い方もある。
探知機とは、盗聴器や隠しカメラが発する電波を感知して隠し場所を特定する機器だ。前回、シェリーと別れる際に探知機を隠した煙草の箱を渡し、「今度の定期検査のとき忘れず返せるように」という名目で個室に置いておくよう指示した。
もしもシェリーの個室が監視されているのなら、使われているのはリアルタイムでデータを閲覧できる無線式の盗聴器やカメラの確率が高い。そして無線型の盗聴器や隠しカメラは、電波を飛ばしてデータを転送する仕組みになっている。よって電波を感知する探知機で探し出せる。
個室に探知機が置かれていたのは二週間。使用した探知機は、室内の電波送信履歴全てをオンライン上で確認できる物だ。そのためこの二週間の送信履歴はもれなく把握済みだが、不審な電波は見られなかった。
無線型の盗聴器および隠しカメラは仕掛けられていないということになる。
こうしてシェリーの個室を調べているのは密談に使えるか確認するためだ。
密談で話すべきことは山ほどある。明美死亡回避に伴う相談。シェリーが把握している研究内容の詳細。それらを元にした、ループの謎やあの方の目的の予測。ループについて判明している事実を洗い出して行う推論。
これらの作業をこなすには、あの方の目を誤魔化しながら連絡を密に取らなくてはならない。扱う情報量が多いため対面形式が望ましい。
しかし連絡を密に取り合うと言っても電話は盗聴されやすく、新たに作戦会議の時間を設けるのも躊躇われた。探られて痛い腹があるのに今までの周と異なる行動を取るのは避けたい。
(厳しい条件だけど、私の天才的な頭脳は最適解を弾き出したわけだ)
秋は回想に浸りながら口元に弧をたたえた。要するに一人でほくそ笑んだ。スマホをいじっていたシェリーがジト目で見てきたが、秋は気にせず回想に浸り続ける。
(目をつけたのは一定の間隔で行われる検査協力。研究の秘匿性によって検査協力は大っぴらに行われておらず、大きな機材を使うとき以外は担当者であるシェリーに与えられた個室で実施される)
シェリーの個室、つまりこの部屋は専用のカードとパスワード、極め付けにはシェリー本人の手のひらの静脈認証によって保護されており、部屋を開けられるのはシェリーだけだ。さらに検査協力はシェリーと二人きりで行われる。
「鍵」が室内にいるのもあって、密談に最適な機会だと言えた。
ただし監視ツールが設置されていたら、いくらセキュリティが万全でも話が筒抜けになってしまう。
だから事前に盗聴器や監視カメラが仕掛けられていないかを確認する必要があった。
あらかじめ設置しておいた探知機によって、電波を発する盗聴器やカメラの類がないのは確定している。
しかし電波を発さない有線型の機種も存在する。これらは録音・録画のみを行いデータを転送しない機器なので、データを確認したければ後日、本体ごと回収する必要がある。
リアルタイムで確認できない上にセキュリティを書き換えてまで部屋に侵入しなくてはならない面倒さから使用を避けるはずだが、念には念を入れて疑いを完全に潰しておきたい。
秋はシェリーに目配せした。
合図を受け取ったシェリーは、スマホを置いて呆れ声で言う。
「さっき何ニヤついてたのよ」
「悪意のある表現だな。世界を浄化するが如き微笑みをたたえていたと言ってほしいね」
「世界に不幸を振りまいてる犯罪組織の幹部が? 盛大なマッチポンプじゃない」
呆れたように細められた目が、ふいに部屋の隅へと向いた。シェリーは動く影を捉えたかのように、目を素早く左右に動かす。
「何かいるわ!」
「え?」
「大きめの虫……もしかしたらゴキブリかも」
言いながら、シェリーはサッと秋の後ろに回ってこちらを盾にした。
背中の裏に陣取りながら、後ろ手で引き出しから殺虫剤を取り出したのが横目で確認できる。シェリーは引き出しを閉めると、殺虫剤をこちらの手のひらに押し付けてきた。ゴキブリ退治のふりをして盗聴器やカメラを探させる筋書きらしい。
秋は思わず目を瞬いてしまった。大掃除のごとく部屋をひっくり返して隅から隅まで調べる名目を適当に用意して欲しいと頼んだだけなので、このような方向で来るとは予想外だった。
捜索の名目をある程度事前に固めておくべきだったと少々後悔する。ぶっつけ本番の演技は少しだけ苦手だ。
秋は自身の演技力に一抹の不安を覚えつつ返す。
「あー、虫ね。分かった分かった任せなさい」
ちょっと棒読みになってしまった。秋は内心で冷や汗をかく。
自然な演技をしたいのなら、演じたい状況に極力近い感情を想起させ、心のままに振る舞うのが定石だとされている。恐怖心や罪悪感、自己嫌悪を見ないようにしてきたせいで、自分の感情に鈍感なきらいがある秋とは相性が悪い。
もちろん腹の探り合い、騙し合い、裏切りが横行している裏社会で生きている以上対策は取っていた。演技の機会が訪れると事前に分かっていれば、必要とされる演技の予測と大量のインプットによる猿真似でどうにかなる。演技に精通しているベルモット相手では怪しいものの、他幹部には通じるクオリティを保っているはずだ。
しかし裏を返せば、事前準備がなければ太刀打ちできないとも言える。
(まあいいか。盗聴器がある確率は低いし、多少棒読みでも虫にビビっていると解釈されるはず。……それはそれで嫌だな)
秋は全く怖くないアピールをしようかと一瞬迷ったが、負け惜しみにしか聞こえないと気付いて辞めた。
仕方なさそうな顔を作ってシェリーが指した部屋の隅に屈む。盗聴器が仕掛けられやすいコンセントの近くだ。
虫を探すふりをして棚をどかしながらチェックする。それらしいものはない。奥へ、奥へと捜索の手を広げる。
椅子に腰掛ける物音がした後、シェリーが言った。
「お姉ちゃんから連絡があったわ。恋人に会ってほしいんですって」
時間は有限だ。雑談に見せかけて進められる話題を先に済ませておくつもりらしい。雑談に見せかけていれば、盗聴されていたとしても、必要に応じて音源を残す選択も取れる。
(そして、その話題が赤井秀一との顔合わせ対策か。今の時期は諸星大だっけ)
未来を知ってしまったシェリーがこれまでの周と同じように振る舞えるよう都度指示すると、二週間前に伝えてあった。
未来を知ってしまったシェリーの行動に他の周との差異が出て、それにあの方が注目し、こちらの目論見が全て露呈する最悪の事態を防ぐためだ。
直近で起こりうる、これまでの自分とは異なる行動をしそうであり、あの方が注目するであろう事柄は何かと彼女なりに考えて、諸星大との顔合わせだと結論を出したのだろう。
その判断は正しい。秋が最も懸念しているのもこれだ。
そもそも、シェリーの行動を変えないよう都度指示すると伝えたのは、諸星大対策だった。
将来姉が殺される原因の一端が諸星だとシェリーが知ったなら、「そんな奴とは会いたくない」とゴネる可能性がある。そしたら諸星大が組織に入るルートが変わってしまう。
諸星は明美と交際することでシェリーと面識を持ち、シェリーの近くにいる組織の人間に取り入って組織に入るのが常だった。
この展開が崩れたらあの方に目をつけられる恐れが高い。あの方は能力の高い人物を警戒しているが、どの周でも組織壊滅の立役者を果たす赤井秀一への警戒は
だろう。
二周目以降は、組織壊滅の未来を知っているあの方が黙認しているために組織の瓦解がなされているとは言え、一周目はあの方の意表を突いて組織壊滅が為されたはずだ。
あの方にとって赤井秀一とは、ループ現象さえなければ自分を討ち滅ぼしていた天敵である。
その赤井秀一が、この周だけ組織に入る手段を変えていたらあの方は怪しむ。怪しんで、シェリーが諸星と会おうとしなかったから潜入方法が変わったのだといずれ気がつく。そうなれば、なぜシェリーはこの周のみ諸星に会おうとしなかったのかと考えるだろう。こうなったら秋の暗躍に思い至るまで秒読みだ。
かと言って、この事情を懇切丁寧に説明して、「こういうわけだから諸星大と会って、シェリーの周囲の人間と諸星が接触する機会が生まれるだけの交友を築いてほしい」と頼めるわけではない。もしもシェリーが諸星に怒り心頭だったら、彼女の感想は「ふざけんなよ」になる。
事情が事情なので最終的には折れてくれるだろうが、シェリーの機嫌を極力とっておく方針は早々に瓦解する。
だからこそ、フォローが必要そうだったらやんわり軌道修正をするために、「未来を知ってしまったシェリーがこれまでの周と同じように振る舞えるよう都度指示する」とだけ事前に伝えておいたのだ。
実際は「都度」という程の頻度ではなく、諸星の件がクリアされれば指示はほぼ必要なくなる。
雑談にカモフラージュ可能な話題を先に済ませるべく、口火を切ったシェリーに対して、秋は軽く尋ね返した。
「へえ、会うの?」
「断れないわよ」
予想よりもシェリーの声色に棘がなくて、秋は目を丸くする。
「てっきり悪感情があるかと思ってた。大好きな姉を奪われたわけだからさ」
「そりゃあ気に食わないのも確かよ。出会いからして怪しいもの」
彼女の表情が気になって振り向くと、シェリーは姉から聞いた出会いを思い出しているのか不服そうな顔をしていた。でもそれだけだ。
秋は困惑を抱えながら、肯定とも否定とも取れない相槌を打つ。
この場では曖昧な反応が正解だと秋は身に染みて知っていた。
どの周だろうと、この時期に行われる定期検査で振られる話題がもっぱら諸星大の愚痴だったせいで、秋は明美と諸星との間に起こる出来事を熟知していた。それと同時に、下手に同調しようものなら「お姉ちゃんが選んだ人に文句つけてるんじゃないわよ」と難癖をつけられるのも知っている。
曖昧な反応でお茶を濁すのが無難だ。
ここら一帯は調べ終わった。監視ツールは見当たらないので、秋は虫を探している演技を続行する。
「こっちにはいなさそうだけど。虫なんて本当にいるの?」
「他の場所に移動したのかもしれないわ。薬品棚の下を通って向こうに行ったとか」
「はいはい」
腰を上げてシェリーが指さした方へと移動する。機材がごちゃごちゃと置かれており、何かを隠すのに向いた場所だ。
「見つかるまで徹底的に探してもらうわよ。でないと安心してコーヒーも飲めないじゃない」
「あのー……、手伝ってくれたりは」
「イ・ヤ」
これで部屋をひっくり返す勢いで調べても怪しまれない土俵と、偽装された盗聴器やカメラを見分けられないシェリーが参戦しない理由づけが整った。
秋は仕方なさそうな表情を浮かべてから先程の会話に戻る。
「まあ、想像より姉の恋人を嫌ってないようで安心したよ。ギスギスしないのは良いことだし」
宮野明美が殺される原因が諸星だと知ったせいで彼への当たりが強くなり、他の周の出来事をなぞる過程で大きな支障が生じるのを懸念していたが、この様子なら大丈夫そうだ。
秋は右上を一瞥して、シェリーの心境を推測した。
(諸星のせいで姉が死ぬってより、自分が組織にとって重要な科学者なせいでFBIが明美に目をつけ、その結果姉が死ぬと捉えてるのか)
自分が要因の一つとなったせいで取り返しのつかないことが起きたと知った人間は、往々にして自罰的な思考になる。自己嫌悪に陥っている時は、客観的な視点を保つよりも自分の中に責任を見出す方が楽だからだ。
秋は盗聴器やカメラを探す手を進めながら、思考を気取らせない何気ない調子で問いかけた。
「でさぁ、姉の恋人と会ったらシェリーはどうするの?」
「私が口出しできることじゃないもの。流石に別れるよう迫ったりはしないわ」
「……自分のせいで組織に縛り付けられてしまった姉の人生に口出しする資格はないって言いたげな声色だけど、シェリーがいなかったら両親が死んだ時点で明美は殺されてたよ」
「エアコン! エアコンの方で何かよぎったわ!」
(誤魔化したな)
「カバーも外して確認して頂戴」
「んな無茶苦茶な」
しかし丁度ここら一帯は調べ終わった後だったため、タイミングが良かったのも確かだった。最後にエアコンを調べたいと思っていたので渡りに船だ。エアコンには隠しカメラが仕掛けられやすい。
秋は言われるがままエアコンに向かった。
ライトでエアコンの中を照らす。カメラがあればレンズに光が反射する場合があるが、反射光は現れない。
カバーを外すと埃が舞った。フィルターは一面埃で覆われている。端的に言ってとても汚い。
秋は自分の椅子に腰掛けて高みの見物を決め込んでいるシェリーに言った。
「さては掃除サボってるでしょ」
「……忙しいのよ」
「ついでに今洗う? じっと待ってるのも暇だろうし」
「姉の恋人である諸星大に会ったらどうするかだったわね」
「洗いたくない、と。言っとくけど日を改めたとしても私は手伝わないからね」
自分で洗うか、コードネーム持ちの権力をチラつかせてそこら辺の構成員に頼むかしてほしい。
シェリーは秋の言葉を無視して話を進める態度を貫いた。
「諸星にはお姉ちゃんを守って欲しいと頭を下げるつもりよ。他にお姉ちゃんを気にかけてくれる人に心当たりがないもの」
思わず振り返って彼女の顔を見る。彼女は複雑な感情が入り混じった表情で一点を見つめていた。
以前の周でシェリーは諸星を嫌っていたか。そう問われたなら秋は否定するだろう。
確かに経歴の怪しさには苦言を呈していたし、彼が組織に入った後は苦言がより顕著になった。具体的に言うと、大切な姉が怪しさ満載の男と交際しているのを心配して、検査協力中に交わされる雑談の半分が諸星の愚痴になった。それこそ、話半分で聞いてるだけで、諸星と明美との間にあった出来事を秋が暗記してしまうほどに。
しかし彼の話をする時の声色にそこまで棘がなかったのも事実だ。シェリーは諸星大を嫌ってはいなかった。
それはきっと姉を守ってくれそうな唯一の人だからで、会ってみたら嫌いにはなれない人格をしていたからかもしれない。
盗聴器もカメラも無いのを確認したので、秋はエアコンのカバーを付け直そうとした。不器用なせいで失敗が重なる。
エアコンカバーと格闘しながら、彼女は軽い調子で尋ねた。
「私は? 宮野明美を助けてくれる人候補には入ってないの?」
「理由もなくどうでもいい相手を助けないでしょう」
「まあね。下手な親切心を出して粛清対象になっても困る」
カバーの付け直しに失敗する度、ガコッ、ガコッと音が鳴る。手を動かしながら、秋は過去を思い返した。
ベルツリー急行でシェリーは、なぜ姉を助けてくれなかったのかと訴えてきた。正確に表現すると秋が対面した相手はシェリーに扮したキッドだったが、イヤホン越しに話す内容を本人から指示されていたそうなので言葉はシェリーのものだ。
シェリーはなぜ姉を助けてくれなかったのかと問うた。しかし秋が姉を助けてくれるわけがないと、つい今しがた断定した。
ということは、
「やっぱりあの発言、私を揺さぶって作戦成功率を上げるためだったなこの野郎……!」
少々声に力を込めたのと同時に、カバーの取り付けが成功した。おそるおそる手を離しカバーが落ちてこないのを確認してから、怪訝な顔をしたシェリーに体ごと向き直る。
「なんの話……?」
「別に」
秋は一言で誤魔化した。自分が嵌められた時の話は蒸し返したくない。
「ともかく、これで捜索は終わったよ。盗聴器やカメラが隠されてそうな場所は全部探したけど何もなかった。あの方がこの検査協力の時間を警戒していたとしても、これまでの周で散々調べてシロの結論を出しているだろうし、まぁ予想通りだね」
肩をすくめて言う。そもそも、十周目になってまで監視を続けている可能性は元々低かった。
これで室内に監視の目がないことが確定した。シェリーの個室は完全な密室だ。ループのことだろうが明美を助ける計画だろうが心置きなく話せる。
「諸星大との顔合わせはさっきの話通りでいいと思うよ。明言したわけじゃないけど、『前』のシェリーの反応を思い返すと諸星に姉のことを頼んでいそうだったし。時間もないし次の話題に移ろうか」
次の話題。後天的ループ者──萩原研二に何が起こったのかについて。