そしかいする度に時間が巻き戻るようになった

「頭脳も知識も全部貸してあげる。だから代わりにお姉ちゃんを助けて。お互いに利用し合う関係の方が、裏切りの心配もないでしょう」
「分かった、宮野明美が死なない未来を掴むのに協力するよ」

 秋は逡巡する間もなく承諾した。
 シェリーが指摘した通り、互いに要求を突きつけ合うこの状況は裏切り防止になる。元よりタダでシェリーから情報を得られるとは思っていない。姉の命がかかっていれば裏切られる心配をしなくていいのだから、明美の生存という対価が降って湧いたのは幸運とも言える。

 何より最高の条件を求めて悠長にやっている時間はない。もう一度時間が巻き戻るのを待って、出来事とシェリーの記憶がリセットされた次の周でやり直すことは理論上可能だが、敵もループしている以上迅速に動く必要がある。
 多少のリスクがあるとは言え、シェリーの話に乗るのが今選べる最善だ。

「ただし、本来訪れるはずの未来を回避するうえで、ループ現象の詳細を把握しているのとしていないのとでは成功率が雲泥の差になる。この性質上、シェリーの情報が先払いになるけど」
「いいわ。でもその前に姉に何が起こるのかを教えて。防ぐ未来がどんなものか正確に知らないと、事前に教える情報の取捨選択もできないでしょう」
「オーケー」

 言って、秋は少し言葉に詰まった。シェリーがどれだけ姉を大切に思っているのかを見せつけられた直後だからか、将来起こる出来事を告げるのが躊躇される。
 しかし彼女に指摘された通り、ここは真実を語るべき局面だ。変な同情心を起こして事実を伝えないのは、ベルツリー急行で一世一代のハッタリに出たシェリーの覚悟を無碍にすることになる。


「宮野明美は五年後に殺される」
「……ッ!」

 覚悟はしていただろうが、それでもシェリーが息を呑んだ。
 秋は構わず続ける。

「間接的な原因はもうすぐ明美にできる恋人。明美と交際したことによってシェリーと面識を持ち、シェリーの周りの人間と親しくなって組織に入ったのはいいけど、今から三年後に彼がFBIの潜入捜査官だと判明する。宮野明美はFBI捜査官を引き込み、これから先も連絡を取る恐れがある不穏分子になってしまった」

「……でもお姉ちゃんは私に対する人質よ。自分で言うのもなんだけど、私は組織にとって本当に重要な人物で、研究にも深く携わっている。私の機嫌を損ねるリスクを負ってまでお姉ちゃんを始末するとは思えないけれど」

「そうだね、組織もそう考えた。『恋人がFBIだったから殺した』なんて言えばシェリーは反発するし、復讐を企ててそのFBIと共謀するかもしれない。恋人の正体は知らせないまま、シェリーにも説明できる別の理由を作って殺す必要がある。だから組織はさらに二年後、宮野明美に話を持ちかけたんだよ。十億円を盗み出せば妹と共に組織を抜けさせてやる。もちろん失敗すれば命はないってね」

「……なるほど。姉を始末した後、ジンが私を言いくるめる文句が簡単に想像できるわ。『宮野明美は妹の為に果敢にも危険な任務に挑戦したが、志半ばで死んだ。姉妹二人で自由に暮らすというのは所詮見果てぬ夢だった』とかなんとか」

 シェリーが目線を下に落として自嘲気味な笑いを浮かべた。

「お姉ちゃんに十億円強奪を持ちかけた恨みは消えないでしょうけど、それよりも組織への恐怖と絶望感が深々と刻みつけられる。私は抵抗の意思をなくし、不穏分子は始末できる。願ったり叶ったりね。姉は組織にまんまと騙されて成功しようのない任務を負わされ、組織のもくろみ通り失敗して殺される口実を与えてしまった、と」
「いや、強奪は成功するんだけど」
「するの!? 十億円よ!?」

 動揺しながらもドライな口調を貫いていたシェリーが初めて声を荒げた。彼女の反応は最もだ。金額が大きすぎる。

 例えばかのう才三さいぞう。綿密で隙のない計画を立て、誰も殺すことなく警察を煙に巻くことから影の計画師と呼ばれる彼は度々大金を盗み出しているが、一度に盗む金は多くても四億だ。十億円の半分以下である。
 さらに銀行強盗や輸送車強奪事件は主に米花町近辺で頻繁に起きるが、どれも数億が限度。
 十億円強奪は桁が一つ多い。

 それ以前に銀行強盗や現金強奪は、金融機関の強固な防犯体勢と検挙率の高さのせいで失敗に終わる確率が高い。仲間や武器を集めるのに手間取っているうちに銀行のシステムが変わって計画が頓挫するケースもある。

 強盗・強奪の難易度と頭ひとつ飛び抜けた莫大な金額。ゆえに組織は絶対に達成不可能な条件として十億円強奪を命じたし、誰もが失敗を前提に話を進めていた。


「組織の連中は全員そんな反応だったよ。成功するなんて誰も思わなかった。見事十億円を手に入れた宮野明美はしかし、理由もなく殺された」

「……」

「もちろん組織も考えなしじゃない。十億円強奪が成功したと知って別のカバーストーリーを用意した。強奪を成功させるために仲間に引き入れた人物と明美との間で意見の食い違いが起こり、同士討ちにまで発展したってね。哀れ! 宮野明美は勇猛果敢に任務を成功させ、組織はその心意気に免じて彼女の願いを叶えてやるはずだったが、彼女はかつての仲間に殺されてしまう。組織は制裁も兼ねて、明美を殺した共犯者たちを殺した。とまあ、こんなストーリー。もしも上手く行っていたら、シェリーは姉の仇を取ってくれた組織への感謝がどこかにあったかもしれないね。本当の仇は組織なのに」

「……ゾッとするわ」

「計画が成功した周はないから安心していいよ。組織の目論見とは裏腹に、どの周だろうと明美が最後に死んだのが分かる形で報道される結果になるから。明美よりも前に死んだ共犯者が明美を殺せるわけがないのは一目瞭然だった。用意していたストーリーは破綻。おまけに十億円強奪事件はセンセーショナルに報道されていたから、明美が任務に失敗したと嘘をつくわけにもいかない。困った組織は、宮野明美を殺した理由を説明せずに姉を始末したとだけシェリーに伝えた。もちろんシェリーは納得のいく説明しろと主張したし、最終的には研究をボイコットしていたよ。あの時の組織は少しゴタついていた」

「まあ、そうなるでしょうね。一連の流れは分かったわ」

 それに、とシェリーは続ける。緊張が緩んだのか、口元の強張りがなくなっていた。

「話を聞いて安心したわ。お姉ちゃんが殺されるまでの経緯には介入する余地がある。真っ先に思いつくのはFBI捜査官との交際を邪魔することね。十億円強奪の話に乗らないよう手を回すのもいいけど、元凶から潰してしまえば今まで通りの生活が保障されるもの。『前の私』が十三歳の誕生日を指定したのも、二人が出会う前から動けるようにでしょうし」
「あー、それなんだけど……」

 秋は首に手をやりながら視線を斜め下に落とした。憂鬱が胸に立ち込めている。口を開くのが億劫だった。

「宮野明美を助けるには表向きの出来事を変えてはいけないって縛りがあるんだよ。だからシェリーが例に挙げた方法は全部不可能」

 シェリーの反応を伺えば、冷静さを装っている瞳の奥に不安の影がチラつくのが見えた。緩みかけていた表情も元に戻ってしまう。

「…………理由は?」

 シェリーは端的に尋ねた。
 秋も同じく端的に返す。

「あの方もループしている」
「ッ……!」

 ついにシェリーの体が硬直した。赤みを取り戻しつつあった頬から一瞬で血の気が引く。


「シェリーから話を聞けていない現時点ではあの方の目的を断言することはできないけど、全ての周で取った行動とそこから推察できる行動指針は把握できている。アイツは一周目と同じ出来事をわざと起こし、『正史』の流れから逸れないようにしているんだよ。
 なにせせっかくループによって知り得た知識があるのに、それを使って組織をより良い方向に導こうとしない。組織に被害が出る出来事は変えないし、この十五年のうちにNOCだと判明する人間が組織に入ってきても放置、計画の失敗や情報漏洩もそのまま、有能な幹部が死ぬ時だってノータッチだ」

 具体例を挙げよう。

 やりようはいくらでもあるのに組織壊滅を回避しない。
 あれほど危険視している赤井秀一が諸星大として組織に入ってきても早々に始末せずに『一周目』と同じ道を歩ませる。組織壊滅の立役者の一人である降谷零も同様だ。彼が公安であることはループ中に判明しているのに、どの周だろうが放置したまま組織壊滅作戦を迎える。
 正史とのズレを出さないために、必要なくなると分かっていながら土門康輝の暗殺計画を命じもする。

 おまけに正史をなぞるためなら腹心が何人死のうが関係ないらしい。あの方は事故や任務失敗のせいで死ぬ幹部も放っておく。
 長年使えた腹心のピスコは暗殺の瞬間をカメラマンに撮影されるし、テキーラは事故で爆死するし、変装していた警察関係者が任務中に発見されたアイリッシュは警察への口封じで殺される。
 結果を知っているくせに毎回同じ情報を盗むよう指示して、何人か幹部が死ぬことだってある。


「正史をなぞっているわけだから、正史と異なる展開になりそうな時は手出ししてくる。死ぬ予定の幹部が生き残りそうになったら、裏切るわけでもないのに予定通り死ぬよう手を回したりとかね。あの方って自分以外はどうでも良さそうだし、まあやるでしょ」

「根拠は? 幹部との付き合いが薄くて興味もなさそうなアドニスが気付けるほど杜撰なやり口なの?」

「いいや、死ぬ予定だった幹部を助けようとしたことがあるんだよ。幹部って言ってもNOCだけどね」


 スコッチを救うためにNOCバレの原因となる証拠を握り潰したら新しい証拠を用意されたのも。NOCであるという情報が幹部に一生送信される瞬間にスコッチの側に居合わせようと考えていた周ではXデーの直前に外国での任務が入れられ、任務中に正史よりも早まったスコッチ死亡の一報を受けたのも。今から思えばあの方が裏から手を回していたのだ。

 スコッチが死ぬのは本人の意思だったが、彼が死を選ぶ状況が必ず訪れたのはあの方の差金だった。


「ともかく、『正史』から逸れたくないあの方は宮野明美生存を妨害してくる。未来を変えたいならあの方視点での出来事を変えずに未来を変えないといけないんだよ」

 あの方の目を欺くため、宮野明美には予定通り十億円強奪を起こしてもらう必要がある。それには明美の犯行を放置する作戦をシェリーに受け入れてもらわなくてはならない。

 だから秋は宮野明美が死ぬ経緯を説明した時に、十億円強奪事件で死人が出ることを伏せたのだ。
 犯行の過程で人を殺めているかどうかは、シェリーの心理的抵抗に大きく関わってくる。

 自分は十三歳の少女を慮れるほど出来た人間ではない。非倫理的、非道徳的な思考と選択が染み付いている。
 明確な一線を超えたのがいつなのかの自覚はないが、引き返せないところまで来てしまったという諦念だけが残っている。

 だから、姉のためにここまでしたシェリーが眩しく感じるのも事実だった。
 自分ではなく彼女がループ能力を持っていれば、高い知性も相まって、秋に頼ることもなく一度の『やり直し』で姉を助けられるのだろう。

 間違っても何度もやり直した末に状況を悪化させるだけ悪化させて助けたかった人を助けられない結末に終わったりはしない

 心当たりのない自責の念が頭をよぎった。同時にどこからか不快感が込み上げてきた。秋は慌てて思考を現実に戻す。
 丁度シェリーが血の気の引いた唇を開いたところだった。


「あの方に私たちの動きを感づかれたら、邪魔されるだけでは終わらないでしょうね。アドニスの言う通り、あの方が観測する物事を変えずにお姉ちゃんを助けないと」

 自分に言い聞かせるようにも聞こえる彼女の声はもう震えていなかった。
 真っ直ぐ秋を見据えて、言う。

「あの方が知り得る情報の範囲を教えて。流石に組織のボスが直接お姉ちゃんの死を確認するわけじゃないでしょう? 実行犯であろうジンからどのような報告を受けるのか。報道から知り得る内容はどのようなものか。報道規制を命じたのなら、命じるにあたって本当に起こった出来事は把握しているはずよね?」

「シェリーが考えているほど詳しい報告なんてされないよ。『無事に始末した』だけで終わるし、報道規制だって十億円強奪事件の首謀者の死因が、他殺から自殺に変わるだけ。あの方は宮野明美の死に注目したりしない」

「正史の流れから逸れないため、姉の死が同じ条件で訪れるよう神経を尖らせているのかと思っていたけど?」

「ああ、違う違う。あの方は起こる出来事全てを手中に収めているわけじゃないよ。正史をなぞっているとは言っても大筋だけで、些細な変化は放っている。組織の中だけに限定しても、コードネームを持たない構成員を含めた全員の動向をチェックするとか無理だし」


 あの方のループに気づいてからシェリーに接触するまでの間も、秋は水面下で情報を集めていた。雑談に見せかけて組織の目的やあの方の真意を話題に出すのがもっぱらだったが、あの方の制御下にある出来事とそうでない出来事の境目を探ったこともある。
 だからあの方の行動を把握しているし、思考の予想にも余念がない。


「あの方の思考回路を説明する前に踏まえておかないといけない、ループ現象における原則がある。些細な変化が起きたところで歴史の大筋は変わらないんだよ。強い意志を持って何かを成し遂げようとしている人がいたとして、私が解決策Aを潰しても、その人は解決策Bという別の方法を見つけ出して前に進み続ける。これと同じことが、歴史という大きな枠組みでも起こる。世界を大きく変えていくのは強い意志が介在している事象だから、些細な変化が起きて多少状況が変わっても、歴史の向かう先は変わらないわけだ。……世界を大きく変えていくのは強い意志が介在している事象であり、多少状況が変化しただけで意志は消えない。これは何度も同じ時間を繰り返す中で見つけた、世界のルールみたいなものだよ」

「確かに些細な変化は歴史の大筋に干渉しないでしょうね。全ての周のアドニスは記憶の面でそれぞれ異なる存在だもの。アドニスの記憶という地球規模で見れば小さな変化が大きな変化を誘発するのなら、あの方の手中に収まるはずがない。いくら国際的な犯罪組織のトップと言っても人間の手に余るわ」

 シェリーの指摘は事の要点を的確に捉えていた。
 秋は大きく頷いて見せることで同意を示すと、そのまま話を続ける。

「世界を大きく変えていくのは強い意志が介在している事象だってことをナチュラル人類見下しジジイのあの方が理解できているかは置いておいて、『些細な変化があっても大きな変化は起こらないな。手が回らないし放っといていいか』くらいは理解しているはず。だから大きな分岐点だけ押さえてるんだろうね。そして、あの方が定める分岐点は有能な人間が関わっているかどうか。私は意志が未来を変えると考えているけど、能力至上主義のあの方は有能な人間だけが未来を変える力を持っていると考えている。だから未来を大きく変えそうな能力や立場を持つ人間の生死、動向だけに気を配っているんだよ。コードネームを与えられる人間なんかがそうだ。逆に、宮野明美のような一般人は眼中にない。
 あの方が見据えているのは宮野明美の死が原因となって発生するシェリーの脱走であり、宮野明美本人じゃない。シェリーが研究に携わらなくなると、研究の進捗はもちろん、研究者たちのパワーバランスが崩れたりもするだろうし。目的を達成するための手段であろう『未来を変えない』という方針において、明美の死が重視されるのはそれが理由だ」

「………………脱走。そうよね、お姉ちゃんが殺されたんだから」

 シェリーが茫然とした様子で呟いた。ついに処理能力が限界を向かえたらしくぼぅっとしている。
 情報量が多すぎたか、自分の未来の行動と今の自分とが結びつかないのか。
 おそらく後者だ。情報量が多いと言っても、今までの話は「表立って明美の死を防ぐとあの方にバレる」という要綱に集約される。

 シェリーにとって組織に所属しているのは当たり前であり、多少の不便や不満は感じながらも組織を脱走しようなどと本気で考えたことはなかったのだろう。だから未来の自分の選択と、今の自分の考えとの乖離に戸惑っている。

 それだけではない。シェリーはたった十三歳にして途方もないものを背負ってしまった。
 あの方との敵対が決定したのもそうだが、人よりも多くの事を知っているのは重荷にもなる。宮野明美を救うチャンスを得た代わりに自分が失敗したら姉を失う重圧が課せられた。
『前のシェリー』が仕組んだことだし元を正せば悪いのはあの方だが、自分にも原因の一端がある。

 秋は意味もなく首裏をさすって、言葉を選びながら言った。


「あー……、五年後のあなたはこうしますって言われても気持ちが追いつかないだろうし、今は『五年後に優秀な科学者の脱走が起こる』とだけ捉えておけばいいんじゃない? 自分と切り離して考えるっていうか。その年代の精神面での成長って目まぐるしいし、今は受け入れがたくても時間が経てば『脱走する十八歳のシェリー』の感情に近づいてくるでしょ」

 最もらしく言ってみたが、要するに現実逃避の提案である。現実逃避しかしてこなかったせいでこれしか言えない。

 放心状態から解けたばかりのシェリーは、元に戻るまで時間がかかりそうだった。しばらくの静寂が気まずさに拍車をかける。



「…………そうね、今考えても仕方ないわね」

 ややあって肯定が返ってきたが、妙な座り心地の悪さは付き纏う。秋はこの雰囲気をさっさと払拭しようと切り出した。

「話を戻そう。一周目の出来事をなぞっているあの方にバレないよう、あの方が得られる情報を変えずに宮野明美を助けなくてはならないってのが今までの話だったね」

「ええ。あの方が変えたくない出来事は私の脱走だから、お姉ちゃんの殺害自体には注目しないってところまで聞いたわ」

「あの方に届く報告はざっくりとしたものだよ。いつ、どこで、どのような殺し方をしたか。宮野明美が盗み出した十億円はどうなったか。たったそれだけ」

「それらの情報を変えることなくお姉ちゃんを助けなくてはならない。そういう事ね」

 シェリーの言葉によって、一通りの確認が終わる。
 話の整理が終わったところで、秋は自惚れたキザな人間そのものの笑みを浮かべた。

「まあ安心しなよ。これは普段の自画自賛は抜きにした客観的な評価だけど、私はかなり頭がいい」


 自分は現実逃避ばかりしてきた。逃げ場がなくなるのを恐れて記憶喪失のままでいることを望み、しかし記憶を取り戻したくないと自覚することによって内面と向き合うのも嫌で、「記憶を取り戻したいけど全然手がかりが見つからない」と言うカバーストーリーを作り上げて信じ込んでいた。失った記憶に繋がりそうな事実に出くわすと意識から除外する。気づかないふりをする。関係ない事柄だと自己暗示をかける。
 言い換えれば、新たな事実と出くわすたびに、言語化して認識するレベルに達するまでのほんの一瞬で記憶喪失の謎に繋がりそうかを判断し、繋がりそうなら自分を騙す筋書きまで一瞬で作り上げ、現実逃避用にカスタマイズした世界を見ていた。
 それなりの判断力と発想力を有していなければ出来ない芸当だと思う。

(今までトンチンカンな答えを導き出していたのは、情報を遮断したり歪めたりしていたのも大きい。現実逃避のため視界に入れないようにしていた情報を視界に入れると決めた今ならまともな決断を下せるはず。……多分だけど)

 内面で起こった自信の揺らぎはおくびにも出さず、秋は自惚れ甚だしい表情を保った。
 組織の連中がこれまで口にした神話に準えた例え話を思い返し、自賛に使えそうな名前を並びたてる。

「私がオーディンとトト神と久延毘古くえびこに同時に祝福されたとしか思えないほど明晰な頭脳を持つのは世界の常識だけど、やはり評価が正しかったと最近証明されてね」
「一回り年下の私に嵌められた直後にそう主張できるあなたの図太さには感心するわ」
(コイツ人が微妙に気にしてることを……)

 秋は思わず半目になってしまったが、反応はそれだけに留めた。
 再び涼しい顔を作り直し、偉そうな口調で結論を告げる。

「その明晰さを持ってすれば、この短時間で解決策を思いつくなど造作もない。あの方の目を欺きつつ宮野明美を助ける方法はある」


 存外真剣な声色が出たせいか、シェリーの纏う空気が一変した。
 秋が突然自身の頭の良さを主張し始めた頃から浮かんでいた呆れ顔が引っ込み、真面目な面持ちになっている。合わせられた視線が次の言葉を心待ちにしている。

 秋は真面目で涼しげな表情を心がけながら、説明を開始した。


「さっき話した通り、あの方に私たちの動きを悟られないのが宮野明美の死を防ぐ前提条件だ。もしもあの方に気取られたら明美生存の邪魔をされるのはもちろん、不穏分子だと見なされて何かしらの処置を取られる。殺されるよりも酷い目に遭う可能性だって十二分に考えられる。だから、まずは徹底的に『正史』の内容をなぞる。明美が十億円を手に入れるまでノータッチを決め込むことで、『あの方視点の出来事』をこれまでの周と同じ展開に保ち、疑念が芽生える余地を消す。
 動くのは宮野明美が殺される当日。簡単に言うと入れ替わりによる死亡偽装を行う。私が宮野明美に変装して組織との取引に向かい、殺されたふりをすれば、あの方の目に映る出来事に他の周との違いが生じることなく、宮野明美の死を回避できる」


 先ほどは明晰な頭脳を持つだのなんだのと嘯いたが、その実、自分が神がかり的な頭脳の持ち主でないことは身に染みて知っている。
 非ループ者でありながら次の周へ伝言を仕込んだシェリーや、六歳にして大人顔負けの頭脳を誇る江戸川コナン、黒の組織へ潜入している捜査官の面々のような、能力の高い人々にはどう足掻いても追いつけない。
 だからループ中に見た、他人の計画を再利用する。

 明美と入れ替わる計画は、ベルツリー急行で行われたシェリーの死亡偽装作戦の再演だ。シェリーに変装したキッドが明美に変装する秋に変わっただけ。
 ベルツリー急行でのシェリー死亡偽装方法は表沙汰になっていないのであの方には知られておらず、明美死亡偽装の真相に勘づかれるリスクが下がる利点もある。


「背格好が似ているとは言っても流石に難しいんじゃない?」

 シェリーから返ってきたのは芳しくない反応だった。カツラを被ったり眼鏡で顔を隠したりと、一般的な変装をするだけなら彼女の懸念通りだろう。しかしこの点は難なくクリアしている。

「随分前の周でベルモットに変装技術を習ったことがあってね。ベルモットと遜色ない腕前だよ。おまけに組織では下手に疑われるのを防ぐため、変装技術を見せたことがない。私の変装技術を知っているのは、『私がベルモットに変装技術を習った周』の記憶を保持しているあの方だけだ。だから、実行犯のジンとウォッカが入れ替わりを思いつくのは不可能だってメリットもある」

「あの方に入れ替わりを疑われる可能性は?」

「ない。あの方から見れば私が明美を助ける動機はゼロだし、そもそもあの方が注視してるのは明美殺害ではなくその先のシェリー脱走。気に留めるでもなく殺害報告を聞き流すはずだよ」


 シェリーの目から怪訝さが消え、先を促す動きをされた。それを受けて、秋は詳細な計画の説明へと移る。

「殺害当日、宮野明美が組織との合流場所に向かう直前に入れ替わり、宮野明美に扮した私が殺される演技をする。運がいいことに殺されたふりが出来る条件が揃っているからね。揃っている条件その一。ジンが腹部を撃つ」

 言いながら秋は人差し指を立てた。

「ジンが人を撃ち殺すパターンが二種類あるのは知ってる?」

「いいえ」

「一つ目は、組織に入り込んでいたNOCや粛清対象などの警戒に足る相手を始末する時に行われる、眉間を撃ち抜いて即死させるパターン。万が一にも反撃されないためだね。そして二つ目が、腹を撃ち抜いて苦しませた末に殺すパターン。警戒に足らない、生きている時間が長くても何もできない無力な一般人相手の殺し方だ。宮野明美は後者に当てはまるから、血糊入り防弾チョッキを着ていれば誤魔化せる」

 続いて中指も立てる。

「揃っている条件その二。どの周でも偶然居合わせる第三者。発砲音を聞きつけた第三者が向かってくるのに気づいたジンとウォッカは、宮野明美の死を確認する前に現場から立ち去ってくれる。もちろんこの周では第三者が訪れない場合も見越して、目撃者役も用意しておくけどね」

「どう調達するのよ」

「今から話すよ。条件その三。明美の保護や計画の補佐をしてくれる機関へのツテ。死ぬ予定だった幹部のNOCを助けようとしたことがあるってさっき話したでしょ。そのNOCは公安に所属していてね」

「潜入捜査官の命を救うことで公安にツテを作る……?」

「その通り。幸い、ループの過程でNOCの助け方も、公安内部に後ろ暗いところがないことも判明している。公安から私たちの計画が漏れはしない。NOCの命を救うときに恩を着せまくったり、ループによって得た知識を利用して好感を持たれるよう立ち回ったり。そうやって一定以上の信頼を稼いでおけば、宮野明美の保護に協力してもらえる。公安の力を借りれるなら目撃者役の用意も簡単だ」


 公安のNOCとはもちろんスコッチのことだ。

 一周目、スコッチの死を知った秋は彼の親友である降谷以上に絶望していた。らしい。降谷からの伝聞なので自覚はないし絶望に起因する心当たりもないが、情報源が情報源なので信憑性がある。
 絶望の心当たりがない。だと言うのに絶望はしていた。となると、記憶喪失前の記憶が感情の動きに関わっていると予想される。
 そう考えた秋は、「スコッチと関わることで記憶喪失の鍵を発見する」という名目で彼を助け、長時間の接触を可能にするため軟禁に踏み切った。
 しかし記憶を取り戻す云々は現実逃避の一環だったと後に発覚する。本当は思い出したくないが思い出したがっているポーズを取るためにスコッチ軟禁を決行したに過ぎなかった。

(とは言っても、思い出したがっているポーズを取るだけなら毒にも薬にもならないカウンセリングでも受ければいい。なのにスコッチ軟禁を選んだってことはスコッチに死んでほしくなかったというか……。考えるの辞めよう)

 逸れ始めた思考を慌てて元に戻す。

 現実と向き合う決意を固めた今、失った記憶をおいおい探っていかなくてはならない。しかし思い出したがっているポーズを取るためにスコッチ軟禁を決行したのは、スコッチを通じて記憶を思い出せる確率は微々たるものだと薄々察していたからだ。
 過去の出来事においてスコッチが重要な立ち位置にいそうなのは確かだが、「彼と関わり続けて思い出すのをひたすら待つ」のは博打が過ぎる。
 記憶喪失の謎は別の方法で探ることにして、彼にはシェリーの要望に応える布石になってもらった方がいいだろう。


「何より、死亡偽装が終わって表向き死んだことになった宮野明美を組織から隠し、彼女が平和に生きていくために様々な手助けをしてくれる先は必要でしょ。さっきも言った通り後ろ暗いところがない公安警察なら、明美の生存が組織に漏れる心配はないし、日本国籍を持つ宮野明美の保護先として日本の組織を選ぶのは理にかなっている」

 そうやって、公安との協力体制について締め括る。
 流石に死亡偽装以降の明美の世話など手に余る。公的機関に丸投げすべきだし、彼女にとってもその方がいいろう。
 これに関してはシェリーも首肯した。


 話に区切りがついたので、これまでの会話の要約に入る。ややこしい話をしているのだから、頻繁に立ち返って思考を整理するべきだ。

「これまでの話をまとめると、入れ替わり作戦が成立する理由は以下の三つだね。一、ジンは殺害対象の胴体を撃ち抜くため血糊入り防弾ベストが使える。二、目撃者の発生により、ジンとウォッカが一刻も早く現場から立ち去ろうとして、死亡確認を省略する。三、公安警察と手を組むことで些細な当日のサポートを受けられるし、作戦成功後には明美を保護してもらえる」

 言い終わると、早速シェリーが難色を示した。

「その目撃者だけど、発砲音を聞いて現場に向かう程度には正義感がある人なんでしょう? 血だらけの女を見たら間違いなく救急車か警察を呼ぶわよ。そうしたら流しているのは血糊だと露呈する。いくら公安が緘口令を敷いても人の口に戸は立てられないと思うけど」

 この周だけたまたま目撃者が登場せず、公安の職員が代役を務める筋書きになれば良いが、これまで通り目撃者がやって来たら彼女の推測通りの展開になるだろう。
 しかしその問題はすでにクリア済みだ。
 秋は口元に笑みをたたえたまま受けて立つ。

「さすが話が早いね。これまでの周もまさにその展開になっている。居合わせた第三者がすぐさま救急車を呼んで、到着した救急隊員が宮野明美の死亡を確認することで十億円強奪事件は幕を下ろす。この展開を防ぐため、宮野明美に扮した私は腹部を撃たれた衝撃で海に落ちるつもりだよ」

 宮野明美が海に落ちるかどうか。ここだけが他の周との変更点だ。
 明美が死んだ状況など報告に上がらないため、あの方の世界で起こる出来事に変化は生じない。

「殺害場所は人気のない港湾の倉庫群なんだけど、上手く海に落ちれるように海岸での落ち合いに変更する。ジンたちは共犯者に罪を被せる気満々だから『供物が自ら生贄台に上がってくれたぜ……』で終わる」
「ねえそれジンの物真似?」
「……」

 言った後から羞恥心が襲ってきた。秋は無言で目を逸らし、話を再開することで誤魔化そうとする。有難いことにシェリーはそれ以上触れてこなかった。

「海に落ちた私は沈んでいく。沈んで、海面から離れた場所を静かに泳ぎ、公安との合流地点に向かう。ある日突然秘められていた泳ぎの才能が開花した私ならともかく、宮野明美にはできっこない。この点も私と明美が入れ替わらないといけない理由の一つだね」

 話のついでに、自分がいなければ計画は成功しないことを暗に念押ししておいた。こうして計画に自分を組み込んでおけばシェリーの裏切り防止になる。裏切るメリットがないので状況的にまずあり得ないが保険は大事だ。

 しかしシェリーは胡乱な目つきになった。

「それ、本当に泳げるの?」
「失礼な。自分の命がかかってる状況で普段の高すぎる評価を元に計画を練るほど馬鹿じゃないよ」

 確かに中学までは十メートル泳げるかすら怪しかったが、組織に入ってしばらくしたら泳げるようになっていた。泳げるようになるまでの記憶がないのだから唐突に才能が開花したとしか思えない。
 秋はナルシストがよくやる仕草でフッと笑い、回想を締めくくった。
 強気な返しを受けたシェリーは納得したように頷く。

「なるほど、苦痛に塗れた特訓の記憶を抹消して才能が開花したことにしているのね」

(元々泳げなかった前提で考えているあたり重ね重ね失礼だな……)

 秋は心中でぼやいたが、口には出さないでおいた。
 文句を口に出したら最後、売り言葉に買い言葉でどんどんと本題から逸れていってしまうと経験で知っているので、無理やり話を戻す。

「ともかく、宮野明美に扮した私が海に落ちた後は公安に報道規制をかけてもらい、十億円強奪犯の首謀者の遺体が発見され、自殺だと断定されたとだけ公表する。そうすればあの方が報道内容に違和感を抱くこともない」

「……でもジンやウォッカはどう思うかしら。彼らからすれば、警察が現場を見て自殺と断定したことになるでしょう? 腹部が出血している状態で海に入ると酷く滲みるし、担当刑事が早々に自殺と結論を出す現場だとは思えないけど」

「いいや、二人からすれば、宮野明美が組織の関係者だと知っていた公安が、捜査の進展を阻止するために情報を握りつぶしたように見える」

「……!」

 途切れ途切れながら進んでいた議論に終止符が打たれた。
 シェリーは顎に手を当てながら真剣な目つきで考え込む。情報を精査し、作戦に破綻がないか確認しているのだろう。
 秋はその間に、放ったらかしになっていたサンドイッチを処分しておいた。パサついていた。



 シェリーから許可が降りたのは十分以上経過した後だった。「上手くいきそうね」という一言が査定の終わりを告げる。
 秋は彼女にサンドイッチを勧めてから話のまとめに入った。

「シェリーの知識と頭脳を貸してもらうために、私は殺害当日に宮野明美と入れ替わって彼女の死を防ぐ。この入れ替わり死亡偽装を成功させるには、あの方に疑念を抱かせる余地を徹底的に潰す必要がある。つまり他の周との相違点を出さないように動くわけだけど、ここでネックになってくるのが、シェリーが未来を知ってしまったという違いだね。未来の知識を知ったためにシェリーの行動が変わると、明美まわりの状況が大きく変わってあの方に疑心を抱かせる確率が上がってしまう」


 例えば諸星大の潜入方法。
 諸星はシェリーの近くにいる組織の人間と親しくなって組織に入るのが常だが、諸星が引き起こす所業を事前に知ったシェリーが「そんな人に会いたくない」と姉の恋人との顔合わせを頑なに拒んだら、赤井秀一の潜入ルートが変わる。もしかしたら明美が粛清対象になる理由も消えて、あの方が訝しむかもしれない。

「あの方対策で、未来を知ってしまったシェリーが何も知らない状態と同じ振る舞いが出来るよう、『前』の出来事をその都度教える必要があるんだよ」

「確かにそうでしょうね。でも、いつどうやって話をすり合わせるの? 今回みたいに買い物にかこつけて二人で外出する手は何度も使えないはずよ」

 シェリーは一口齧ったきりサンドイッチを置いて疑問を呈した。
 丁度これから説明しようと思っていた部分だったので秋は胸を張る。

「そこも既に決めてある。なにせオーディンとメーティスとトト神に同時に祝福されたとしか思えないほど明晰な頭脳の持ち主だからね」
「さっき自称していた名称と微妙に違うけど、さては覚えてないわね」
「複数の肩書きを持っているだけだよ」

 フォローになってない誤魔化しをしてから、秋は真面目な顔つきに戻って言った。

「一定期間で行われる、私の検査協力を利用する」

 秋はループと密接な関係があるであろう組織の研究に、被検者として協力している。今までされてきた表層的な説明と今日のシェリーの発言を合わせて考えると、秋の体内にあるループの原因となる物質を調べているらしい。

 研究の担当者はシェリーである。予想される規模からして彼女以外の研究者も大勢携わっているのかもしれないが、少なくとも秋が接触する研究者はシェリーだけだ。
 おまけに秘匿された研究のため、検査協力はもっぱら彼女の個室で行われる。頻度は少なくても月に一度、多ければ月に数度。

 今まではくだらない雑談に費やしていた検査協力中の時間を話のすり合わせに使えばいい。
 秋は今まで通り検査協力に赴くだけだ。あの方が認識できる二人の行動に変化は生じない。
 誰にも疑われることなく、密室で好きなだけ作戦会議ができる。


 シェリーは秋が言わんとすることをたった一言で察して「なるほど」と呟いた。こちらが説明することなく真意を理解してくれるので話が早く進む。

 会話が途切れた一瞬で、秋は窓を一瞥する。窓の外には光を失った空が広がっていた。この時期の日没時間を踏まえると、セーフハウスに到着してから二時間は経っている。
 シェリーが明美を助けろと要求してくるだなんて不測の事態が起きたせいで、予定以上に時間がかかった。そろそろ潮時だろう。

 秋は視線を元に戻して提案する。

「元々はシェリーへ協力を打診してすぐ解散するつもりだったから、検査協力は情報提供の時間に充てる予定だったんだよ。時間の巻き戻りというたった一つの情報だけでもシェリーが受ける衝撃は大きすぎる。一旦時間を置いてから、定期検診で詳しいことを教えてもらう算段だった。
 そんなわけで想定よりシェリーの負担が大きいし、一度時間を置いて次の定期検診で続きの話をしない?」

「いいえ。詳しい協力内容を固めておきたいから、研究のざっくりとした概要くらいは今日伝えるわ。アドニスとの会話に集中している今は一種の極限状態だから大丈夫だけど、解散してやることがなくなったら絶対不安に襲われる。その時、取り決めが中途半端なままだったら嫌な想像から逃れられなくなるに決まってるもの」

 無意識だろう。シェリーは自分を抱え込むように二の腕を握った。
 二の腕を握りしめたまま、それに、と彼女が続ける。これまでの必死で恐怖を押し殺している様子から、声色が少し変わった。

「それに、ループ現象という重要なピースが判明して、何も知らされずにさせられていた研究の全貌が明らかになってきた。予測の再構築をしたくてしたくて堪らないの。これはアドニスへの情報提供義務があるからじゃなくて、純粋な科学者としての興味よ。この作業は人に説明しながらの方がスムーズに進むし、アドニス以外にこんな話をできる相手はいないでしょう」

 目が輝いていた。いつもは大人ぶっている彼女だが、研究について語るときは年相応の顔をしているのを思い出した。
 研究を強制される環境に生まれ落ちたのも確かだが、研究を楽しんでいたのも確かなのだろう。


 この様子だと一気に話を済ませてしまった方が良さそうだ。

「だったら目的の服が見つからなくてシェリーがごねて、他の着回し用の服も吟味していたら何時間も過ぎたから外で夕食を済ませたことにしようか。このセーフハウスには栄養エネルギーバーかゼリー飲料しかないけどいい?」

「……『外で夕食を済ませた』の部分は実行しましょう。少しの真実があったほうが嘘の精度が増すってよく言うじゃない」
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