トリップ先のあれやこれ
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「お前はどちらの世界で一生を終えたい? 特別に選ばしてやる」
神と名乗る厨二病の男――アクバルの問いに菜々は考え込んだ。
何か裏があるのではないだろうか。
世界がいくつもあるのだとすれば、自分の存在は彼にとってものすごく小さい。
いくら自分が原因で難しい立場に置いてしまったからと言って、そんな虫けらにも満たない存在のことを気にかけるだろうか。
それ以前に本当に神なのだろうか。神の名を語って何か企んでいるのではないか。
しかし、推理するには情報が無さすぎる。
どんな裏があろうと分からないのなら、自分の願いを叶えるためだと割り切って利用した方がよっぽど早い。
そこまで考えてある事に気がつく。自分がどうしたいのか分からないのだ。
トリップ先の世界には友達がいて、仲間がいて。大好きな人達が沢山いる。その上、まだやらなくてはいけない事が残っている。
――今は忙しいだろうし、言えない事もあるだろうから何も聞かない。ただ、やる事が終わったら桜子と一緒に会いにいくから。
三池から来たメールの内容を思い出す。
――全てが終わったらこの一年で何があったのかちゃんと話してね。
向こうの両親に言われた言葉を思い出す。
――全てが終わったら皆に話したい事があるんだ。卒業式の後、時間をくれないかな?
クラスメイト達へ頼んだ事を思い出す。
トリップ先の世界に戻りたいという気持ちが高まったが、決断することが出来なかった。
元の世界には両親がいる。彼らはずっと自分を待っていてくれた。
「……時間をください」
「分かった。お前が今いる世界での一週間で答えを出せ」
そんな声が聞こえたかと思えば、意識が暗転した。
*
菜々はあの日から毎日眠りにつくと靄によって作られた場所に着くようになった。
それから目が覚めるまでアクバルが考えた「さいこうにかっこいいせってい」を聞かされそうになるので、毎回話を逸らしていた。
話を逸らすとなると、どうしても新しい話題が必要だ。
結果として、菜々は重要な情報を手に入れた。
どちらの世界を選ぶにしても、選ばなかった方の世界から彼女の存在は消えるらしい。
人々の記憶にも残らず、覚えているのは彼女とかなり親しかった者だけ。
いっそのこと、誰の記憶にも残らなければよかった。
そうすれば自分のせいで人を苦しめなくて済む。
約束の日。今日の夜までに答えを出さなくてはならないのに、菜々はまだ悩んでいた。
このままでは期限を過ぎてしまいそうだ。
そう感じながら頭をひねっていると部屋の扉がノックされ、返事を聞かずに両親が入ってきた。
「菜々、何があったの?」
母が神妙に尋ねる。後ろには険しい顔をした父がいた。
菜々はとぼけようとして口を開いたがすぐに閉じる。
両親は何かがあったと確信している。何より、彼女は両親に本当の事を伝えたいと思った。
「信じられないような話だけど」
菜々は意を決して口を開いた。
「その世界に戻りなさい」
全てを話し終わると父が言い放った。
「話していなかったが家に何度かマスコミが訪ねてきている。どこかから菜々の今の状態が漏れたらしい」
記憶喪失の上、鬼のような見た目をした少女。格好のネタだろう。
プライバシーの侵害で訴えてもいいが、目立ちたくないのでそれは出来ない。
「向こうの世界には菜々みたいな人がたくさんいるんでしょ? 助けてもらいなさい」
菜々はふとある言葉を思い出した。
「鬼卒道士チャイニーズエンジェル」に出てくる群青のセリフだ。
――どうすればいいのかわからない時は一番信用している人の言葉を信じなさい。
この場面で思い出すのがそれなのかと菜々は自嘲する。
「分かった」
たった一言。その一言を伝えるのに、彼女はかつてないほど勇気をふりしぼった。
夜、眠りにつくと靄によって作られた場所に着いた。
毎日眠りにつくとこの場所に訪れることから、ここは夢の中なのかとアクバルに尋ねてみたことがあるが、「これは夢でもあり現実でもある」とよく分からない答えが返って来ただけだった。
「今、悪魔デビットがこの周辺をうろついている。まあ俺のオーラで手も足も出ないようだが」
「それって昔倒したんですよね? とにかく答えが出ました。私はトリップ先の世界に戻ります」
「そうか」
「で、トリップ特典とか無いんですか? 選ばれし神様」
菜々はバレバレのおだてを混ぜながら交渉し始めた。
「は? すでにあるだろ、トリップ特典」
菜々がトリップしたことに気がつき、アクバルはとりあえずいくつかの能力を彼女に与えたらしい。
まずは勘の良さ。米花町に住んでいるため犯罪に巻き込まれる事が確定したので、真っ先に与えられたものだ。
生死に関わるような攻撃を仕掛けられた時に必ず気がつく。
しかし避けられる身体能力が無かったので重度の怪我を負い、何度も入院した。
次に倶生神が見える。この能力が無いとボロを出すのは確定していた。
菜々は素直に感謝したが、すでに倶生神には別の世界から来た事がバレている。
また、一つの能力をコピー出来る。しかし、ランダムなので「ボール=人に当てる」という使えるのか使えないのかよく分からない能力を得ただけだった。
最後に一度だけ忘れていた原作知識を思い出せる能力。
「もしかしてそれって期末テストの数学の最後の問題なんじゃ……」
「多分そうだな」
「倶生神さん達が見えた事以外使えない能力じゃ無いですか! あと、事件体質とかは能力じゃないんですか? めちゃくちゃ事件に巻き込まれてたんですけど」
「あれは生まれつきだ。あの世界のお前の祖父は公安で殉職している。伯父は刑事だしそういう家系なんだろ」
「マジか……」
「戻るならお前が元の世界に戻った直後に戻してやろう。俺は時間を操る事ができるのだ! 後、色々な世界に行けたり幻覚を見せたりする事が出来る」
そんな言葉が聞こえたかと思えば、意識が遠くなった。
――幸せになりなさい。それが最後の親孝行だから。
意識が刈り取られる直前、眠りにつく前に母にかけられた言葉が聞こえたような気がした。
*
気がつくと、見覚えのある廊下に立っていた。
朱色の柱が何本も続いており、金魚草エキスの入った栄養ドリンクが売っている自販機が見える。
何より、今までこの場で話していたのであろう鬼灯と倶生神達が目の前にいた。彼らは目を見開いているものの、どこかこうなる事が分かっていたかのような表情をしている。
帰って来たのだ。
視界が歪む。目に水が溜まっているのに気がつき、菜々は下を向いた。
途端にボロボロと塩水が落ちる。
ずっと菜々は泣かなかった。どっちつかずの自分には泣く権利は無いと自分を叱責し、前を向き続けた。
その反動なのか、今まで体の奥深くに押し込んでいたものが溢れ出し、涙となってこぼれ落ちている。
声を出さないように唇をしっかりと結ぼうとするが、嗚咽が漏れてしまう。
せめてぐちゃぐちゃの顔を見られないよう顔を覆おうとした時、菜々に頭をガツンと殴られたかのような衝撃が襲った。
目の前が真っ黒になったのだ。
煙草の匂いと薬草の匂いが鼻をくすぐり、何が起こったのか理解する。
鬼灯は自分のことを部下として扱っているだけだろう。
慕っていた先生を殺したばかりの中学生女子が、よく分からない怪奇現象に巻き込まれた。側から見ればそんな感じだ。
少し寂しい気がしたが涙は止まった。彼から離れ目の縁を拭うと、ちょうど烏頭と蓬が来た。
「鬼灯、菜々ちゃん戻って来たか? ……あー、別に大丈夫だよ。かめはめ波の練習くらい。烏頭なんて黒歴史作りまくってたし」
充血した菜々の目を一瞥し、蓬が慰める。
「かめはめ波?」
菜々が聞き返すと天蓋が明後日の方向を向いた。
「何言ったんですか?」
「菜々がどこに行ったのか聞かれたから『かめはめ波の練習をしているところを見ちゃったら逃げてった』って答えたのよ。別にいいじゃない。昔練習してたんだし」
小声で沙華がなだめる。
「泣くほどじゃないだろ。かめはめ波の練習を見られたくらい。俺なんかうんこ送りだぞ。しかも二回」
否定したかったが本当の事を言うわけにもいかず、菜々は黙りこくった。
*
深夜に地獄で行われた打ち合わせが終わり、菜々は旧校舎に戻ってソラと入れ替わった。
マスコミが押しかけて来たものの浅野達のお陰で無事に卒業式を終え、賞金を受け取って山を買い取った後、両親に何があったのか洗いざらい話した。
また、口止めされていたため話せる事は少なかったが、三池と桜子と会った。
しかし、居酒屋あずさで三池が殺せんせーと会っていたこともあり、何が起こったのか彼女達は予想出来ていた。
『一時にE組に集合』
最近マスコミが落ち着いて来たので昨日クラスメイトに一斉送信したメールを確認してから、菜々は最近皆で買い取った山に入り込む。
今は日が昇ったばかりなのでまだ薄暗い。
フリーランニングで地獄門に通じる洞窟の入り口に向かう。今日は超生物について地獄でマスコミに発表される。
午前九時頃、指定された会場には観客やマスコミが殺到していた。
亡者について緊急発表があるため会場に来るようにと通達があったのだ。
入場は無料であり、発表の後に催しもある上動画配信も許可されているとなれば、マスコミや野次馬が多く集まるのは明白だった。
この一年で何があったのかと超生物を地獄で雇う事を地獄の重役が発表し、簡単に菜々もマスコミに紹介された後、催しが始まる。
「さあ始まりました! 人体実験の結果人知を超えた力を手に入れた超生物、殺せんせーと死神さんが障害物迷路に挑戦します!!」
殺せんせーと死神がさまざまなトラップが仕掛けられた巨大迷路に入り、どちらが先にゴールに到着するか競うものだ。
「まずは殺せんせー。人体実験の被害者でありマッハ二〇という驚異的なスピードを手に入れましたが、亡者となってからすぐ人型に戻ってしまいました。迷路の中にあるトラップは超生物用に作ったのですが、高スペックなので多分大丈夫でしょう」
鬼灯の解説が会場に響き渡る。
あの世では一般市民に触手生物の存在を発表したが、彼らが現世で危険視されているスピードを持っている点は特に問題にならなかった。UMAのようなものだという認識が強いのと、彼らが殺し屋だった事を公表しなかったためだ。
「次に死神さん。こちらはマッハ四〇! ですが亡者になった際人型に戻ってしまいました。ちなみに本名は昔捨てたらしいです」
誤解を招きそうな言い方だったが、殺し屋であった事は上手く隠しているので良しとしよう。
「迷路の中様子は会場に設置されている大きなスクリーンに映し出されます。その際、自律思考固定砲台――通称律さんに協力してもらいます」
彼の言葉と同時に、注目を集めていた黒く平べったい板状の直方体の正面に少女が映った。
「彼女は殺せんせー暗殺のために作られました。殺せんせーの暗殺に成功したらすぐ解体される予定でしたが、彼女はとても優秀です。また、近年『デジタル亡者問題』が発生しています。そこで地獄ではいち早く人工知能を取り入れることにしました」
目には目を。人工知能には人工知能をという事だろう。
魂を持ったロボットが現れてあの世に来た時、獄卒は彼らを裁くべきか否か。そんな問題が発生し、十王達の意見は真っ二つに分かれている。
その上、「AI塔載型ロボットの付喪神が生まれた場合、それはもはやなんなのか?」問題もあったりする。
AIを身近に置いておく事で判断できるかもしれないし、出来なかったとしても律はよく働いてくれるだろう。
卒業式の前日。殺せんせーを殺した直後、菜々と入れ替わったソラが皆が寝静まった頃を見計らって技術課から受け取ったメモリカードを律に差し込んだのだ。
メモリカードにはあの世の存在、菜々が鬼である事、律をあの世に迎え入れたい事、その場合元E組とは連絡をとっていい事などが記されており、律は地獄に行くことを決意したのだった。
指示通り現世とあの世に繋がる特別な回線から、指定された機械にデータを移したらしい。
技術課の面々の努力により、律の本体は現世のものよりも少しパワーアップしているようだ。
一通りの説明が終わり、競技が始まった。
「ナイフが降ってきましたが、殺せんせーは楽々避ける! かなり身体能力が高いことが伺えます。ちなみにあの武器は全て技術課で作られたものです。刑場で使っている多くの道具は閻魔庁御用達の店で揃えていますが、数個必要な特殊器具は一つ一つ作っています。技術課は日々改良を重ね新しい物を作り出したり、それらのメンテナンスをしたりしています」
人型とはいえ身体能力はかなり高いらしく、殺せんせーと死神は順調に進んでいた。
「地獄では常に獄卒を募集しています。機械系の職につきたい、発明をしたい。そんなあなた。ぜひ技術課に」
テロップが出ているかテレビスタッフに確認してから、鬼灯は実況を再開する。
「おっと! 死神さんが最近刑場に導入した『亡者ホイホイ』にひっかかったようです。一度あの粘着剤に触れると抜けられません。ちなみにあれも技術課で作ったものです。ぜひ技術課に興味のある方は会場に置いてあるチラシを持って行ってください」
迷路に設置してあるトラップは全てこの前の獄内運動会で使用された物のようだった。
獄内運動会の本当の目的を悟った菜々はふと目線を横に移す。
楽しそうに観戦しているあぐりを見て戦慄したが、初代死神を恐れていなかった事を思い出して妙に納得した。
腕時計を見てみると十二時半少し前。
閻魔に一言断ってから、菜々は会場を後にした。
*
午後一時頃。
元三年E組生徒全員と副担任だった烏間、教科担任だったイリーナが旧校舎にあるかつての教室に集合していた。
「皆、集まってもらったのは話があるからなんだ」
菜々が告げると、皆の脳裏に彼女が前に言っていた言葉がよぎる。
――全てが終わったら皆に話したい事があるんだ。卒業式の後、時間をくれないかな?
ソラに目配せをして、「化かし」を解いてもらう。
「実は私、鬼なんだ」
「「「「は?」」」」
「え? なにそのツノと耳。コスプレ?」
「ねえ皆、私が理由もなく嘘をつくと思う?」
「「「「思う」」」」
自分の信用が思っていたよりも無かったことに菜々は落胆した。
「と言うわけで地獄はある。で、殺せんせーや律達は地獄で雇われた。ここまでいい?」
なんとか皆に話を信じさせたが、いきなり全てを受け入れるのは難しいようだ。
菜々は自分がトリップしたばかりの頃を思い出していた。
「ちょっと待って……。頭が追いつかない」
「あかりちゃん、あぐり先生はすんなり受け入れてたよ」
「お姉ちゃんだからだよ!」
突っ込まれたが特に反応はせず、菜々はバックから紙の束を取り出した。
「早速で悪いけどこれにサインしてくれない?」
「サインなら後にしてくれ」
すかさずネタを挟んできた不破をスルーし、菜々は説明をする事にした。
「見てもらえば分かると思うけど、この書類は地獄の事を口外しないっていう証に書いてもらう。まあ後は死後の事とか手伝って欲しい事も書いてあるけど難しい事じゃないから」
菜々から契約書を受け取り、皆が目を通す。
一、他者にあの世の事を口外してはならない。ただし同じく情報を知っている者には適応されない。
二、契約者に対し、よほどのことがない限りあの世の者は危害を加えない。
三、契約者に対し、あの世の者が危害を加えようとしても助けない。己の身は己で守れ。
四、この情報を元に恐喝などの行為を行っても構わないが、地獄に落とされる事が確定する。
五、あの世の者が現世で濡れ衣を着せられそうな場合は、こちらの潔白を証明するために力を貸すこと。
六、死後、よほどの罪がない場合は地獄に落とさない。ただし、一部のものは獄卒として地獄で働くこと。
このような内容が続いていた。
「え、なにこれ?」
「見たまんまだよ」
E組全員に全てを話すことが決まったのはそれなりの理由がある。
一番の理由は鬼灯が疑われていた事だった。
思い返してみれば、なぜか旅行先に斧を持ってきていたり、定職に就いているはずなのに平日の朝に暗殺をしに来たりと不審な行動をとっていた。
これから頻繁に現世に訪れる予定の鬼灯も、しばらくは現世で暮らす事になっている菜々も、ずっと疑われたままなのは避けたかった。
そこで鬼灯は前代未聞の行動に出た。全員に事情を話そうと言い出したのだ。
篁という前例はあるものの、彼はたまたま地獄に迷い込んでしまったため一連の出来事は事故に近い。
そもそも、一人だけにあの世について教えるのと三十人近くもの人間に教えるのとはわけが違う。
第一今は情報社会。その気になればすぐに情報を拡散することが出来る。
一方、鬼灯の言い分はこうだ。
もうすぐ米花町の調査を開始する事になる。そうなると必ず事件に巻き込まれる。
もちろんアリバイを証明する事が出来ない時もある。
その時にE組のうち誰かが口裏を合わせてくれればいい。
一年間同じクラスだった事以外に彼らの共通点は無い。怪しまれる事もないだろう。
それに彼らは大物になる。
将来篁のように上手いことやって上流階級の視察をする事が出来るかもしれないし、死後獄卒として雇う事だって出来る。生前から事情を知らせておけばスムーズに事が運ぶだろう。
「そういえば、E組はツッコミ率高かったですよ」
重役達はなかなか首を縦に振らなかったが、その言葉を聞いた途端許可を出した。
「まあ、わざとお寺を焼いたり目上の人を殺したりしない限り地獄行きにならないんだしいいんじゃない?」
「でもさあ、これ条件良すぎない? 確か虫殺しただけでも地獄に落ちるんでしょ?」
カルマに尋ねられ、彼が地獄について詳しい事に驚きつつ菜々は答えた。おそらく厨二病だから地獄について調べたのだろうと勝手に納得して。
「さすがにその制度を取り入れてたら地獄行きの亡者ばっかりになっちゃうよ。ちゃんと情状酌量とかもあるし。それでも確かに条件はいいね。おそらく口止めの意味もあるんだと思う。殺せんせーと死神さんが殺し屋だった事、発表していないんだよ」
混乱を招くのを防ぐため、殺せんせー達が元暗殺者である事はあの世で極秘事項となった。
それと同時に、現世のこの事を知っている者は死後転生させるなどして口止めをする事が決まる。
自国の受け持つ地域の亡者は責任を持って口を封じる事が国際会議で決められ、ほとんどの亡者は転生させて記憶をなくすように仕向けられるのだろう。
しかしE組の者は将来有望な者が多いのと、殺せんせーを慕っていたので情報を漏らす事は無いだろうと判断された事により、特別待遇となった。
ここまで説明して菜々ははたと気づいた。
もしかして柳沢も問答無用で転生させられるんじゃないかと。
「ヤバい……。私が計画していた柳沢専用の嫌がらせプランが使えなくなるかも……」
いきなり何か言い始めたがいつもの事なので皆はスルーした。
*
「死神さん。新しい名前決めませんか?」
「僕、君達を何度か殺そうとしたよね!? なんで普通に接してくるの!?」
閻魔庁にあるジムで菜々は殺せんせーと死神と会っていた。
彼ら以外にジムを利用している者は誰もいない。
「今までの事は水に流します。限定プラモで」
「ところで名前とは? 彼にはもともと名前がありますよ」
見返りを要求してくるのは通常運転なので軽く流し、殺せんせーは突っ込んだ。
「だって名前捨てたんですよね? 六道りんねとかはどうですか?」
「死神のままでいいよ……」
殺せんせーと紛らわしいが菜々にとってはこの際どうでもいいらしく、この話題は終わった。
「で、二人とも触手生物化出来ないんですか?」
菜々は本来の目的に触れた。
彼女は最近諦めたかめはめ波の代わりにパワーアップする方法を考えた。
そこで思いついたのが「格上と戦って強くなる」というバトル漫画のお約束だった。
初めは鬼灯で試していたが能力が桁違いな上に手加減してもらっても負けてしまう。
成果は罪を烏頭になすりつけるのが上手くなった事くらいだった。
なので菜々は殺せんせー達に挑む事にした。
しかし、米花町で実践を嫌という程積み、この一年で烏間に稽古をつけてもらった上に鬼の身体能力を得ている菜々は人間の状態の二人に負ける気がしなかった。
これは自惚れではなく、本当のことだ。
まずパワーが圧倒的に違う。
さらにスピードにもそれなりに自信がある。幼い頃は力が無く、大の男には勝てなかったので誘拐されそうになった時はただひたすらに逃げていたからだ。命を賭けた鬼ごっこをずっとしていた。
彼らは殺し屋。専門は格闘では無い。
死神は真っ先に格闘術を習ったと言っていたが菜々は気にしない事にした。
男たるもの股間を攻撃されれば終わりだというのが菜々の持論だ。
そこで二人を触手生物化させるための計画が始まった。
「二人って親友とかいます?」
「いません」
殺せんせーの答えを聞き、菜々は落胆した。
親友を殺された怒りで触手生物化しないかと考えていたのだ。
しかし、よくよく考えてみれば親友がいたとしても殺すことなんて出来るわけがない。
「鬼、悪魔。お前のかーちゃん三段腹!」
「私達は亡者ですし物心ついた時は母親がいなかったので最後のは分かりません」
「僕の母親は痩せてたよ」
一応すぐに思いついた悪口を言ってみたが特に反応はなかった。
しょうがないのでドラゴンボール風に変身してもらうのは諦める。
「じゃあ今度は右手の親指食いちぎってください」
「菜々さん、本当にそんなんで触手生物化出来ると思いますか?」
殺せんせーが小さな子供に言い聞かせるかのように問いかけてきた。
しかし、触手生物化出来ないと困る。
「私が稽古をつけてもらうためだけに言ってるんじゃないですよ。日本地獄では二人が触手の力を使える前提で話を進めて来ました。このままだと色々と不具合が生じる」
殺せんせーが思案し始めたため静かになったので、チャンスとばかり菜々が口を開く。
「じゃあ後は女性物のパンツを顔にかぶるかセブンセンシズに目覚めるか」
「前者は絶対に嫌だ」
菜々が話している途中だったが死神が口を挟んだ。
「でもセブンセンシズに目覚めるのって五感を断たれたり死ぬ一歩手前までダメージを負ったりした時ですよね」
「いっそのこと触手生物化は諦めて筋肉大移動でもします?」
「趣向が思いっきり変わってる!? それ以前にその技、しばらく経つと移動させた筋肉が元に戻らなくなるっていう弱点ありましたよね!?」
「先生がツッコミ役にまわってる……だと……」
菜々は考えていた案全てに反対されてしまったので、これからどうするべきかと考え込んだ。
自分が元いた世界から見ればここは漫画の世界。
今まで言った方法のどれかでなんとかなるような気がする。
「ここにあるのは旧校舎から発見されたエロ本の山。岡島君は否定していたので、どう考えても殺せんせーの物。これらを今から火にくべます」
菜々達三人は焦熱地獄に移動していた。
たくさんの炎が燃え盛っており、なにかを燃やすのに便利なのだ。
「な、なぜそれを……。絶対に見つからないと思っていたのに」
人間の姿だからか殺せんせーはいつもよりかは慌てふためかない。
これでは怒らせるのは無理そうだと思いながら菜々は大量のエロ本を火にくべた。
炎が突っ立ち、ヒカリゴケに覆われた薄暗い地獄の空が朱と金に染まる。
心なしか落ち込んでいる殺せんせーを死神が慰めている時、菜々は見覚えのある人影に向かって歩いて行った。
「何やってるんですか? 篁さん」
「証拠隠滅。秦広王の壺を割っちゃって……」
「アイスで忘れます」
刑場の近くにあったコンビニの前で、菜々達はアイスを舐めていた。ちなみに菜々が舐めているのは一番高いアイスだ。
ちゃっかり殺せんせーと死神も奢ってもらっている。
「なるほど。触手生物化か」
菜々から何があったのかを一通り聞き、篁は一瞬思案した。
「まだ試していないことがあるよ」
「え?」
今まで「閻魔大王より閻魔大王っぽい人の横にいた天パの人」という認識しか無かったが、何か良い案が出るのだろうかと殺せんせーと死神は期待の表情で篁を見つめる。
彼らも自分達は本来なら地獄行きだと理解していた。
また、地獄で雇うという形で救ってもらったとこに感謝しているため、触手の力を使う計画が自分達のせいで狂うのは避けたいと思っている。
「超サイヤ人になる方法。怒りによって覚醒する以外にもあるでしょ」
「あ、『背中をゾワゾワさせる』!」
思っていたよりもアホな内容だった事に殺せんせーと死神は肩を落としたが、菜々はそうでは無かった。
「練習しますよ!」
目を輝かせて提案して来た菜々の気迫に負けて二人は頷いた。
一時間後。殺せんせーと死神は触手生物化に成功した。
「これで本当に成功するとは……」
変身を解いた殺せんせーが呟く。
ほとぼりが冷めるまでどこかで時間を潰したい篁も一緒に、皆はジムに戻っていた。
「こんなんでいいのか」
発案者である篁が零す。
「早速稽古つけてください、殺せんせー」
身体能力だけで言えば死神よりも下の殺せんせーに菜々は声をかけ、地獄にいる時はいつも腰につけているナイフホルダーからナイフを取り出した。
すぐに変身した殺せんせーに菜々がスマホを見せる。
スマホにはモバイル律が映っていた。
「律、この前私が保管を頼んだデータを出して」
『お任せください!』
元気な返事をして、律は動画を映し出す。
殺せんせーが顔をピンクにしてエロ本を拾い読みしている姿、殺せんせーが女装して女性限定ケーキバイキングの列に並んでいる姿。
夏休み暗殺計画に使われた動画だった。
「にゅやあああああ!」
菜々は基本的に相手を出来るだけ弱体化させてから戦う。
こんな事で強くなれるわけがないと彼女が悟るのはもう少し先の話だ。
「確か先生の生徒達にもあの世の事話したんですよね?」
菜々が放った飛び蹴りを殺せんせーが避けているのを眺めながら、死神は篁に尋ねた。
「そうだね。さまざまな理由があるけど、そんな話になったのは鬼灯さんが疑われ始めたからだよ」
篁の言葉は遮られる。
「なんでそんなに強くなりたいんですか?」
「米花町が呪われてるからです! 後、分身の術とか使ってみたい」
全ての攻撃をかわし、顔に黄色と緑のシマシマを浮かべた殺せんせーに尋ねられ、菜々が食い気味に答える。他にもう少し真面目な理由があるものの、結構本気の答えだった。
話しながら隠し持っていた癇癪玉を投げつけるが全て殺せんせーにキャッチされてしまう。菜々は歯噛みして、次の攻撃に移る。
「でもおかしいんだ。鬼灯さんがそんなミスをするとは思えない」
もしかして、これを全て見越してあんな行動をとったんじゃないかな。
篁は縦横無尽に動き回る菜々を見つめたまま、そんな言葉を飲み込んだ。
もしも仮説が正しいとしたら何のためにそんなことをしたのか。
アリバイ証明のため。前もって唾をつけておく。それらの理由だとどこか引っかかるのだ。
*
「あれ? あのセリフは?」
閻魔殿にある自室で鬼卒道士チャイニーズエンジェルを読んでいた菜々は疑問を口に出した。
――どうすればいいのかわからない時は一番信用している人の言葉を信じなさい。
この世界に戻る決め手になった群青のセリフがどこを探しても無かったのだ。
ストーリーも記憶とはかなり違っている。
――俺は時間を操る事ができるのだ! 後、色々な世界に行けたり幻覚を見せたりする事が出来る。
疑問に思ったのと同時に、おそらく定期的に左目が疼いているのであろう神の言葉を思い出す。
また、この巻の感想を語り合った時、蓬が何かいいかけていた事も思い出した。
蓬があの時言いかけた言葉。おそらく「そんなセリフあったっけ?」というところだろう。
自分だけに見えたセリフ。神の能力。
何が起こったのかは明白だった。
そこまでして、菜々をこの世界にいさせたかった理由は何なのか。
ただの気まぐれか道楽か。はたまた彼女がいないといけないのか。
そんなことより、読み逃していた話を読む事の方が菜々にとっては重要だった。
神と名乗る厨二病の男――アクバルの問いに菜々は考え込んだ。
何か裏があるのではないだろうか。
世界がいくつもあるのだとすれば、自分の存在は彼にとってものすごく小さい。
いくら自分が原因で難しい立場に置いてしまったからと言って、そんな虫けらにも満たない存在のことを気にかけるだろうか。
それ以前に本当に神なのだろうか。神の名を語って何か企んでいるのではないか。
しかし、推理するには情報が無さすぎる。
どんな裏があろうと分からないのなら、自分の願いを叶えるためだと割り切って利用した方がよっぽど早い。
そこまで考えてある事に気がつく。自分がどうしたいのか分からないのだ。
トリップ先の世界には友達がいて、仲間がいて。大好きな人達が沢山いる。その上、まだやらなくてはいけない事が残っている。
――今は忙しいだろうし、言えない事もあるだろうから何も聞かない。ただ、やる事が終わったら桜子と一緒に会いにいくから。
三池から来たメールの内容を思い出す。
――全てが終わったらこの一年で何があったのかちゃんと話してね。
向こうの両親に言われた言葉を思い出す。
――全てが終わったら皆に話したい事があるんだ。卒業式の後、時間をくれないかな?
クラスメイト達へ頼んだ事を思い出す。
トリップ先の世界に戻りたいという気持ちが高まったが、決断することが出来なかった。
元の世界には両親がいる。彼らはずっと自分を待っていてくれた。
「……時間をください」
「分かった。お前が今いる世界での一週間で答えを出せ」
そんな声が聞こえたかと思えば、意識が暗転した。
*
菜々はあの日から毎日眠りにつくと靄によって作られた場所に着くようになった。
それから目が覚めるまでアクバルが考えた「さいこうにかっこいいせってい」を聞かされそうになるので、毎回話を逸らしていた。
話を逸らすとなると、どうしても新しい話題が必要だ。
結果として、菜々は重要な情報を手に入れた。
どちらの世界を選ぶにしても、選ばなかった方の世界から彼女の存在は消えるらしい。
人々の記憶にも残らず、覚えているのは彼女とかなり親しかった者だけ。
いっそのこと、誰の記憶にも残らなければよかった。
そうすれば自分のせいで人を苦しめなくて済む。
約束の日。今日の夜までに答えを出さなくてはならないのに、菜々はまだ悩んでいた。
このままでは期限を過ぎてしまいそうだ。
そう感じながら頭をひねっていると部屋の扉がノックされ、返事を聞かずに両親が入ってきた。
「菜々、何があったの?」
母が神妙に尋ねる。後ろには険しい顔をした父がいた。
菜々はとぼけようとして口を開いたがすぐに閉じる。
両親は何かがあったと確信している。何より、彼女は両親に本当の事を伝えたいと思った。
「信じられないような話だけど」
菜々は意を決して口を開いた。
「その世界に戻りなさい」
全てを話し終わると父が言い放った。
「話していなかったが家に何度かマスコミが訪ねてきている。どこかから菜々の今の状態が漏れたらしい」
記憶喪失の上、鬼のような見た目をした少女。格好のネタだろう。
プライバシーの侵害で訴えてもいいが、目立ちたくないのでそれは出来ない。
「向こうの世界には菜々みたいな人がたくさんいるんでしょ? 助けてもらいなさい」
菜々はふとある言葉を思い出した。
「鬼卒道士チャイニーズエンジェル」に出てくる群青のセリフだ。
――どうすればいいのかわからない時は一番信用している人の言葉を信じなさい。
この場面で思い出すのがそれなのかと菜々は自嘲する。
「分かった」
たった一言。その一言を伝えるのに、彼女はかつてないほど勇気をふりしぼった。
夜、眠りにつくと靄によって作られた場所に着いた。
毎日眠りにつくとこの場所に訪れることから、ここは夢の中なのかとアクバルに尋ねてみたことがあるが、「これは夢でもあり現実でもある」とよく分からない答えが返って来ただけだった。
「今、悪魔デビットがこの周辺をうろついている。まあ俺のオーラで手も足も出ないようだが」
「それって昔倒したんですよね? とにかく答えが出ました。私はトリップ先の世界に戻ります」
「そうか」
「で、トリップ特典とか無いんですか? 選ばれし神様」
菜々はバレバレのおだてを混ぜながら交渉し始めた。
「は? すでにあるだろ、トリップ特典」
菜々がトリップしたことに気がつき、アクバルはとりあえずいくつかの能力を彼女に与えたらしい。
まずは勘の良さ。米花町に住んでいるため犯罪に巻き込まれる事が確定したので、真っ先に与えられたものだ。
生死に関わるような攻撃を仕掛けられた時に必ず気がつく。
しかし避けられる身体能力が無かったので重度の怪我を負い、何度も入院した。
次に倶生神が見える。この能力が無いとボロを出すのは確定していた。
菜々は素直に感謝したが、すでに倶生神には別の世界から来た事がバレている。
また、一つの能力をコピー出来る。しかし、ランダムなので「ボール=人に当てる」という使えるのか使えないのかよく分からない能力を得ただけだった。
最後に一度だけ忘れていた原作知識を思い出せる能力。
「もしかしてそれって期末テストの数学の最後の問題なんじゃ……」
「多分そうだな」
「倶生神さん達が見えた事以外使えない能力じゃ無いですか! あと、事件体質とかは能力じゃないんですか? めちゃくちゃ事件に巻き込まれてたんですけど」
「あれは生まれつきだ。あの世界のお前の祖父は公安で殉職している。伯父は刑事だしそういう家系なんだろ」
「マジか……」
「戻るならお前が元の世界に戻った直後に戻してやろう。俺は時間を操る事ができるのだ! 後、色々な世界に行けたり幻覚を見せたりする事が出来る」
そんな言葉が聞こえたかと思えば、意識が遠くなった。
――幸せになりなさい。それが最後の親孝行だから。
意識が刈り取られる直前、眠りにつく前に母にかけられた言葉が聞こえたような気がした。
*
気がつくと、見覚えのある廊下に立っていた。
朱色の柱が何本も続いており、金魚草エキスの入った栄養ドリンクが売っている自販機が見える。
何より、今までこの場で話していたのであろう鬼灯と倶生神達が目の前にいた。彼らは目を見開いているものの、どこかこうなる事が分かっていたかのような表情をしている。
帰って来たのだ。
視界が歪む。目に水が溜まっているのに気がつき、菜々は下を向いた。
途端にボロボロと塩水が落ちる。
ずっと菜々は泣かなかった。どっちつかずの自分には泣く権利は無いと自分を叱責し、前を向き続けた。
その反動なのか、今まで体の奥深くに押し込んでいたものが溢れ出し、涙となってこぼれ落ちている。
声を出さないように唇をしっかりと結ぼうとするが、嗚咽が漏れてしまう。
せめてぐちゃぐちゃの顔を見られないよう顔を覆おうとした時、菜々に頭をガツンと殴られたかのような衝撃が襲った。
目の前が真っ黒になったのだ。
煙草の匂いと薬草の匂いが鼻をくすぐり、何が起こったのか理解する。
鬼灯は自分のことを部下として扱っているだけだろう。
慕っていた先生を殺したばかりの中学生女子が、よく分からない怪奇現象に巻き込まれた。側から見ればそんな感じだ。
少し寂しい気がしたが涙は止まった。彼から離れ目の縁を拭うと、ちょうど烏頭と蓬が来た。
「鬼灯、菜々ちゃん戻って来たか? ……あー、別に大丈夫だよ。かめはめ波の練習くらい。烏頭なんて黒歴史作りまくってたし」
充血した菜々の目を一瞥し、蓬が慰める。
「かめはめ波?」
菜々が聞き返すと天蓋が明後日の方向を向いた。
「何言ったんですか?」
「菜々がどこに行ったのか聞かれたから『かめはめ波の練習をしているところを見ちゃったら逃げてった』って答えたのよ。別にいいじゃない。昔練習してたんだし」
小声で沙華がなだめる。
「泣くほどじゃないだろ。かめはめ波の練習を見られたくらい。俺なんかうんこ送りだぞ。しかも二回」
否定したかったが本当の事を言うわけにもいかず、菜々は黙りこくった。
*
深夜に地獄で行われた打ち合わせが終わり、菜々は旧校舎に戻ってソラと入れ替わった。
マスコミが押しかけて来たものの浅野達のお陰で無事に卒業式を終え、賞金を受け取って山を買い取った後、両親に何があったのか洗いざらい話した。
また、口止めされていたため話せる事は少なかったが、三池と桜子と会った。
しかし、居酒屋あずさで三池が殺せんせーと会っていたこともあり、何が起こったのか彼女達は予想出来ていた。
『一時にE組に集合』
最近マスコミが落ち着いて来たので昨日クラスメイトに一斉送信したメールを確認してから、菜々は最近皆で買い取った山に入り込む。
今は日が昇ったばかりなのでまだ薄暗い。
フリーランニングで地獄門に通じる洞窟の入り口に向かう。今日は超生物について地獄でマスコミに発表される。
午前九時頃、指定された会場には観客やマスコミが殺到していた。
亡者について緊急発表があるため会場に来るようにと通達があったのだ。
入場は無料であり、発表の後に催しもある上動画配信も許可されているとなれば、マスコミや野次馬が多く集まるのは明白だった。
この一年で何があったのかと超生物を地獄で雇う事を地獄の重役が発表し、簡単に菜々もマスコミに紹介された後、催しが始まる。
「さあ始まりました! 人体実験の結果人知を超えた力を手に入れた超生物、殺せんせーと死神さんが障害物迷路に挑戦します!!」
殺せんせーと死神がさまざまなトラップが仕掛けられた巨大迷路に入り、どちらが先にゴールに到着するか競うものだ。
「まずは殺せんせー。人体実験の被害者でありマッハ二〇という驚異的なスピードを手に入れましたが、亡者となってからすぐ人型に戻ってしまいました。迷路の中にあるトラップは超生物用に作ったのですが、高スペックなので多分大丈夫でしょう」
鬼灯の解説が会場に響き渡る。
あの世では一般市民に触手生物の存在を発表したが、彼らが現世で危険視されているスピードを持っている点は特に問題にならなかった。UMAのようなものだという認識が強いのと、彼らが殺し屋だった事を公表しなかったためだ。
「次に死神さん。こちらはマッハ四〇! ですが亡者になった際人型に戻ってしまいました。ちなみに本名は昔捨てたらしいです」
誤解を招きそうな言い方だったが、殺し屋であった事は上手く隠しているので良しとしよう。
「迷路の中様子は会場に設置されている大きなスクリーンに映し出されます。その際、自律思考固定砲台――通称律さんに協力してもらいます」
彼の言葉と同時に、注目を集めていた黒く平べったい板状の直方体の正面に少女が映った。
「彼女は殺せんせー暗殺のために作られました。殺せんせーの暗殺に成功したらすぐ解体される予定でしたが、彼女はとても優秀です。また、近年『デジタル亡者問題』が発生しています。そこで地獄ではいち早く人工知能を取り入れることにしました」
目には目を。人工知能には人工知能をという事だろう。
魂を持ったロボットが現れてあの世に来た時、獄卒は彼らを裁くべきか否か。そんな問題が発生し、十王達の意見は真っ二つに分かれている。
その上、「AI塔載型ロボットの付喪神が生まれた場合、それはもはやなんなのか?」問題もあったりする。
AIを身近に置いておく事で判断できるかもしれないし、出来なかったとしても律はよく働いてくれるだろう。
卒業式の前日。殺せんせーを殺した直後、菜々と入れ替わったソラが皆が寝静まった頃を見計らって技術課から受け取ったメモリカードを律に差し込んだのだ。
メモリカードにはあの世の存在、菜々が鬼である事、律をあの世に迎え入れたい事、その場合元E組とは連絡をとっていい事などが記されており、律は地獄に行くことを決意したのだった。
指示通り現世とあの世に繋がる特別な回線から、指定された機械にデータを移したらしい。
技術課の面々の努力により、律の本体は現世のものよりも少しパワーアップしているようだ。
一通りの説明が終わり、競技が始まった。
「ナイフが降ってきましたが、殺せんせーは楽々避ける! かなり身体能力が高いことが伺えます。ちなみにあの武器は全て技術課で作られたものです。刑場で使っている多くの道具は閻魔庁御用達の店で揃えていますが、数個必要な特殊器具は一つ一つ作っています。技術課は日々改良を重ね新しい物を作り出したり、それらのメンテナンスをしたりしています」
人型とはいえ身体能力はかなり高いらしく、殺せんせーと死神は順調に進んでいた。
「地獄では常に獄卒を募集しています。機械系の職につきたい、発明をしたい。そんなあなた。ぜひ技術課に」
テロップが出ているかテレビスタッフに確認してから、鬼灯は実況を再開する。
「おっと! 死神さんが最近刑場に導入した『亡者ホイホイ』にひっかかったようです。一度あの粘着剤に触れると抜けられません。ちなみにあれも技術課で作ったものです。ぜひ技術課に興味のある方は会場に置いてあるチラシを持って行ってください」
迷路に設置してあるトラップは全てこの前の獄内運動会で使用された物のようだった。
獄内運動会の本当の目的を悟った菜々はふと目線を横に移す。
楽しそうに観戦しているあぐりを見て戦慄したが、初代死神を恐れていなかった事を思い出して妙に納得した。
腕時計を見てみると十二時半少し前。
閻魔に一言断ってから、菜々は会場を後にした。
*
午後一時頃。
元三年E組生徒全員と副担任だった烏間、教科担任だったイリーナが旧校舎にあるかつての教室に集合していた。
「皆、集まってもらったのは話があるからなんだ」
菜々が告げると、皆の脳裏に彼女が前に言っていた言葉がよぎる。
――全てが終わったら皆に話したい事があるんだ。卒業式の後、時間をくれないかな?
ソラに目配せをして、「化かし」を解いてもらう。
「実は私、鬼なんだ」
「「「「は?」」」」
「え? なにそのツノと耳。コスプレ?」
「ねえ皆、私が理由もなく嘘をつくと思う?」
「「「「思う」」」」
自分の信用が思っていたよりも無かったことに菜々は落胆した。
「と言うわけで地獄はある。で、殺せんせーや律達は地獄で雇われた。ここまでいい?」
なんとか皆に話を信じさせたが、いきなり全てを受け入れるのは難しいようだ。
菜々は自分がトリップしたばかりの頃を思い出していた。
「ちょっと待って……。頭が追いつかない」
「あかりちゃん、あぐり先生はすんなり受け入れてたよ」
「お姉ちゃんだからだよ!」
突っ込まれたが特に反応はせず、菜々はバックから紙の束を取り出した。
「早速で悪いけどこれにサインしてくれない?」
「サインなら後にしてくれ」
すかさずネタを挟んできた不破をスルーし、菜々は説明をする事にした。
「見てもらえば分かると思うけど、この書類は地獄の事を口外しないっていう証に書いてもらう。まあ後は死後の事とか手伝って欲しい事も書いてあるけど難しい事じゃないから」
菜々から契約書を受け取り、皆が目を通す。
一、他者にあの世の事を口外してはならない。ただし同じく情報を知っている者には適応されない。
二、契約者に対し、よほどのことがない限りあの世の者は危害を加えない。
三、契約者に対し、あの世の者が危害を加えようとしても助けない。己の身は己で守れ。
四、この情報を元に恐喝などの行為を行っても構わないが、地獄に落とされる事が確定する。
五、あの世の者が現世で濡れ衣を着せられそうな場合は、こちらの潔白を証明するために力を貸すこと。
六、死後、よほどの罪がない場合は地獄に落とさない。ただし、一部のものは獄卒として地獄で働くこと。
このような内容が続いていた。
「え、なにこれ?」
「見たまんまだよ」
E組全員に全てを話すことが決まったのはそれなりの理由がある。
一番の理由は鬼灯が疑われていた事だった。
思い返してみれば、なぜか旅行先に斧を持ってきていたり、定職に就いているはずなのに平日の朝に暗殺をしに来たりと不審な行動をとっていた。
これから頻繁に現世に訪れる予定の鬼灯も、しばらくは現世で暮らす事になっている菜々も、ずっと疑われたままなのは避けたかった。
そこで鬼灯は前代未聞の行動に出た。全員に事情を話そうと言い出したのだ。
篁という前例はあるものの、彼はたまたま地獄に迷い込んでしまったため一連の出来事は事故に近い。
そもそも、一人だけにあの世について教えるのと三十人近くもの人間に教えるのとはわけが違う。
第一今は情報社会。その気になればすぐに情報を拡散することが出来る。
一方、鬼灯の言い分はこうだ。
もうすぐ米花町の調査を開始する事になる。そうなると必ず事件に巻き込まれる。
もちろんアリバイを証明する事が出来ない時もある。
その時にE組のうち誰かが口裏を合わせてくれればいい。
一年間同じクラスだった事以外に彼らの共通点は無い。怪しまれる事もないだろう。
それに彼らは大物になる。
将来篁のように上手いことやって上流階級の視察をする事が出来るかもしれないし、死後獄卒として雇う事だって出来る。生前から事情を知らせておけばスムーズに事が運ぶだろう。
「そういえば、E組はツッコミ率高かったですよ」
重役達はなかなか首を縦に振らなかったが、その言葉を聞いた途端許可を出した。
「まあ、わざとお寺を焼いたり目上の人を殺したりしない限り地獄行きにならないんだしいいんじゃない?」
「でもさあ、これ条件良すぎない? 確か虫殺しただけでも地獄に落ちるんでしょ?」
カルマに尋ねられ、彼が地獄について詳しい事に驚きつつ菜々は答えた。おそらく厨二病だから地獄について調べたのだろうと勝手に納得して。
「さすがにその制度を取り入れてたら地獄行きの亡者ばっかりになっちゃうよ。ちゃんと情状酌量とかもあるし。それでも確かに条件はいいね。おそらく口止めの意味もあるんだと思う。殺せんせーと死神さんが殺し屋だった事、発表していないんだよ」
混乱を招くのを防ぐため、殺せんせー達が元暗殺者である事はあの世で極秘事項となった。
それと同時に、現世のこの事を知っている者は死後転生させるなどして口止めをする事が決まる。
自国の受け持つ地域の亡者は責任を持って口を封じる事が国際会議で決められ、ほとんどの亡者は転生させて記憶をなくすように仕向けられるのだろう。
しかしE組の者は将来有望な者が多いのと、殺せんせーを慕っていたので情報を漏らす事は無いだろうと判断された事により、特別待遇となった。
ここまで説明して菜々ははたと気づいた。
もしかして柳沢も問答無用で転生させられるんじゃないかと。
「ヤバい……。私が計画していた柳沢専用の嫌がらせプランが使えなくなるかも……」
いきなり何か言い始めたがいつもの事なので皆はスルーした。
*
「死神さん。新しい名前決めませんか?」
「僕、君達を何度か殺そうとしたよね!? なんで普通に接してくるの!?」
閻魔庁にあるジムで菜々は殺せんせーと死神と会っていた。
彼ら以外にジムを利用している者は誰もいない。
「今までの事は水に流します。限定プラモで」
「ところで名前とは? 彼にはもともと名前がありますよ」
見返りを要求してくるのは通常運転なので軽く流し、殺せんせーは突っ込んだ。
「だって名前捨てたんですよね? 六道りんねとかはどうですか?」
「死神のままでいいよ……」
殺せんせーと紛らわしいが菜々にとってはこの際どうでもいいらしく、この話題は終わった。
「で、二人とも触手生物化出来ないんですか?」
菜々は本来の目的に触れた。
彼女は最近諦めたかめはめ波の代わりにパワーアップする方法を考えた。
そこで思いついたのが「格上と戦って強くなる」というバトル漫画のお約束だった。
初めは鬼灯で試していたが能力が桁違いな上に手加減してもらっても負けてしまう。
成果は罪を烏頭になすりつけるのが上手くなった事くらいだった。
なので菜々は殺せんせー達に挑む事にした。
しかし、米花町で実践を嫌という程積み、この一年で烏間に稽古をつけてもらった上に鬼の身体能力を得ている菜々は人間の状態の二人に負ける気がしなかった。
これは自惚れではなく、本当のことだ。
まずパワーが圧倒的に違う。
さらにスピードにもそれなりに自信がある。幼い頃は力が無く、大の男には勝てなかったので誘拐されそうになった時はただひたすらに逃げていたからだ。命を賭けた鬼ごっこをずっとしていた。
彼らは殺し屋。専門は格闘では無い。
死神は真っ先に格闘術を習ったと言っていたが菜々は気にしない事にした。
男たるもの股間を攻撃されれば終わりだというのが菜々の持論だ。
そこで二人を触手生物化させるための計画が始まった。
「二人って親友とかいます?」
「いません」
殺せんせーの答えを聞き、菜々は落胆した。
親友を殺された怒りで触手生物化しないかと考えていたのだ。
しかし、よくよく考えてみれば親友がいたとしても殺すことなんて出来るわけがない。
「鬼、悪魔。お前のかーちゃん三段腹!」
「私達は亡者ですし物心ついた時は母親がいなかったので最後のは分かりません」
「僕の母親は痩せてたよ」
一応すぐに思いついた悪口を言ってみたが特に反応はなかった。
しょうがないのでドラゴンボール風に変身してもらうのは諦める。
「じゃあ今度は右手の親指食いちぎってください」
「菜々さん、本当にそんなんで触手生物化出来ると思いますか?」
殺せんせーが小さな子供に言い聞かせるかのように問いかけてきた。
しかし、触手生物化出来ないと困る。
「私が稽古をつけてもらうためだけに言ってるんじゃないですよ。日本地獄では二人が触手の力を使える前提で話を進めて来ました。このままだと色々と不具合が生じる」
殺せんせーが思案し始めたため静かになったので、チャンスとばかり菜々が口を開く。
「じゃあ後は女性物のパンツを顔にかぶるかセブンセンシズに目覚めるか」
「前者は絶対に嫌だ」
菜々が話している途中だったが死神が口を挟んだ。
「でもセブンセンシズに目覚めるのって五感を断たれたり死ぬ一歩手前までダメージを負ったりした時ですよね」
「いっそのこと触手生物化は諦めて筋肉大移動でもします?」
「趣向が思いっきり変わってる!? それ以前にその技、しばらく経つと移動させた筋肉が元に戻らなくなるっていう弱点ありましたよね!?」
「先生がツッコミ役にまわってる……だと……」
菜々は考えていた案全てに反対されてしまったので、これからどうするべきかと考え込んだ。
自分が元いた世界から見ればここは漫画の世界。
今まで言った方法のどれかでなんとかなるような気がする。
「ここにあるのは旧校舎から発見されたエロ本の山。岡島君は否定していたので、どう考えても殺せんせーの物。これらを今から火にくべます」
菜々達三人は焦熱地獄に移動していた。
たくさんの炎が燃え盛っており、なにかを燃やすのに便利なのだ。
「な、なぜそれを……。絶対に見つからないと思っていたのに」
人間の姿だからか殺せんせーはいつもよりかは慌てふためかない。
これでは怒らせるのは無理そうだと思いながら菜々は大量のエロ本を火にくべた。
炎が突っ立ち、ヒカリゴケに覆われた薄暗い地獄の空が朱と金に染まる。
心なしか落ち込んでいる殺せんせーを死神が慰めている時、菜々は見覚えのある人影に向かって歩いて行った。
「何やってるんですか? 篁さん」
「証拠隠滅。秦広王の壺を割っちゃって……」
「アイスで忘れます」
刑場の近くにあったコンビニの前で、菜々達はアイスを舐めていた。ちなみに菜々が舐めているのは一番高いアイスだ。
ちゃっかり殺せんせーと死神も奢ってもらっている。
「なるほど。触手生物化か」
菜々から何があったのかを一通り聞き、篁は一瞬思案した。
「まだ試していないことがあるよ」
「え?」
今まで「閻魔大王より閻魔大王っぽい人の横にいた天パの人」という認識しか無かったが、何か良い案が出るのだろうかと殺せんせーと死神は期待の表情で篁を見つめる。
彼らも自分達は本来なら地獄行きだと理解していた。
また、地獄で雇うという形で救ってもらったとこに感謝しているため、触手の力を使う計画が自分達のせいで狂うのは避けたいと思っている。
「超サイヤ人になる方法。怒りによって覚醒する以外にもあるでしょ」
「あ、『背中をゾワゾワさせる』!」
思っていたよりもアホな内容だった事に殺せんせーと死神は肩を落としたが、菜々はそうでは無かった。
「練習しますよ!」
目を輝かせて提案して来た菜々の気迫に負けて二人は頷いた。
一時間後。殺せんせーと死神は触手生物化に成功した。
「これで本当に成功するとは……」
変身を解いた殺せんせーが呟く。
ほとぼりが冷めるまでどこかで時間を潰したい篁も一緒に、皆はジムに戻っていた。
「こんなんでいいのか」
発案者である篁が零す。
「早速稽古つけてください、殺せんせー」
身体能力だけで言えば死神よりも下の殺せんせーに菜々は声をかけ、地獄にいる時はいつも腰につけているナイフホルダーからナイフを取り出した。
すぐに変身した殺せんせーに菜々がスマホを見せる。
スマホにはモバイル律が映っていた。
「律、この前私が保管を頼んだデータを出して」
『お任せください!』
元気な返事をして、律は動画を映し出す。
殺せんせーが顔をピンクにしてエロ本を拾い読みしている姿、殺せんせーが女装して女性限定ケーキバイキングの列に並んでいる姿。
夏休み暗殺計画に使われた動画だった。
「にゅやあああああ!」
菜々は基本的に相手を出来るだけ弱体化させてから戦う。
こんな事で強くなれるわけがないと彼女が悟るのはもう少し先の話だ。
「確か先生の生徒達にもあの世の事話したんですよね?」
菜々が放った飛び蹴りを殺せんせーが避けているのを眺めながら、死神は篁に尋ねた。
「そうだね。さまざまな理由があるけど、そんな話になったのは鬼灯さんが疑われ始めたからだよ」
篁の言葉は遮られる。
「なんでそんなに強くなりたいんですか?」
「米花町が呪われてるからです! 後、分身の術とか使ってみたい」
全ての攻撃をかわし、顔に黄色と緑のシマシマを浮かべた殺せんせーに尋ねられ、菜々が食い気味に答える。他にもう少し真面目な理由があるものの、結構本気の答えだった。
話しながら隠し持っていた癇癪玉を投げつけるが全て殺せんせーにキャッチされてしまう。菜々は歯噛みして、次の攻撃に移る。
「でもおかしいんだ。鬼灯さんがそんなミスをするとは思えない」
もしかして、これを全て見越してあんな行動をとったんじゃないかな。
篁は縦横無尽に動き回る菜々を見つめたまま、そんな言葉を飲み込んだ。
もしも仮説が正しいとしたら何のためにそんなことをしたのか。
アリバイ証明のため。前もって唾をつけておく。それらの理由だとどこか引っかかるのだ。
*
「あれ? あのセリフは?」
閻魔殿にある自室で鬼卒道士チャイニーズエンジェルを読んでいた菜々は疑問を口に出した。
――どうすればいいのかわからない時は一番信用している人の言葉を信じなさい。
この世界に戻る決め手になった群青のセリフがどこを探しても無かったのだ。
ストーリーも記憶とはかなり違っている。
――俺は時間を操る事ができるのだ! 後、色々な世界に行けたり幻覚を見せたりする事が出来る。
疑問に思ったのと同時に、おそらく定期的に左目が疼いているのであろう神の言葉を思い出す。
また、この巻の感想を語り合った時、蓬が何かいいかけていた事も思い出した。
蓬があの時言いかけた言葉。おそらく「そんなセリフあったっけ?」というところだろう。
自分だけに見えたセリフ。神の能力。
何が起こったのかは明白だった。
そこまでして、菜々をこの世界にいさせたかった理由は何なのか。
ただの気まぐれか道楽か。はたまた彼女がいないといけないのか。
そんなことより、読み逃していた話を読む事の方が菜々にとっては重要だった。