始まりの日常
「先生もなんで残ってるんですか⁉」
天音 の喜々とした声を横目に筆箱をスクールバックに入れ、チャックを閉じる。
「日誌出して早めに帰れよ」
そう言う視線は私たちと日誌を一瞬だけ見て教室を見渡し出て行く。
「はぁ~ミステリアスなところも良い!」
まるで国民的アイドルにでも会ったかのうように輝かしい眼差しで教室のドアを見ている天音 に「ちょっと職員室に日誌出してくるね」と伝えて逆のドアから出て行く。
「はぁ~……」
長年の付き合いなので分かる。恍惚状態 の彼女はどうも出来ない。でも話だけは聞いているためそのままにして廊下を歩く。
多分少ししたら教室の鍵を閉めて、私が職員室から出てくるときに鉢合わせると思う。多分ね。
私たちの教室は角にあるが、職員室は直線状一番奥。どちらも2階にある。
遠いんだよね。ほんとに。
2年生の教室はほとんど閉まっており、どうやら残っているのは私たちだけのようだ。
今日は学校特有のノー部活デーのため、金属バットにボールが当たる音や、バスケ部の走る足音と掛け声、吹奏楽の楽器音出しなどは聞こえず静かであった。
ふと、窓から中庭を見ると八雲 先生が中庭を挟んで逆の2階廊下に居た。一周しているのか。
うちの学校は上から見ると長方形で、側面を廊下でつないでいる構造をしている。
八雲先生が私と逆の方へ行ったのであれば鉢合 わせるのは必然だ。
まずもって教育実習生がこんな時間に学校をウロウロしていること自体可笑しいのだが。実際、教室を一つずつ開けて中を見て閉じる。という動作を繰り返していた。鍵を開けることも屡々 あった。校内探検?てか鍵持ってんの?警備員ですか?
だからと言って深追いすることはない。面倒事に興味はない。
あんな赤髪隻眼 の人間なんて見るからに何かやらかしそうじゃないか……。
中庭から見える空はいつの間にか薄水色が消え、紫と濃いオレンジに染まり暗くなっていた。2階で光っている教室はどうやら私たちだけのようだ。
職員室へ入り、日誌を日誌棚へ入れて出る。
天音 がそろそろ来ると思っていたけど、居ない。
迎えに行こう。
来た道を戻ると、丁度 八雲先生と鉢合 わせた。
ツリ眼だがキツい印象はない奇麗な赤い眼と合い、反射で視線を外してぺこりと頭を下げる。
「初音 さん」
ビクッ。
そのまま通りすがれると思ったが呼び止められる。
特に悪いことをした訳ではないけれど、パトカーが横を通り過ぎるときの謎のドキドキ感と同じ気分。てか、赤髪隻眼 で白のシャツ・黒のスーツだし、実質パトカーじゃん。警察じゃなくてパトカーて……。しかも私の名前知ってるの何で?自分に興味を示さないブラックリストに入ってる?
とか考えながら数秒立ち止まり「はい……」とおずおずと振り返る。
「斉木 さんは……。いや今、職員室から出てきたよな?」
「え、まあ、はい」
とても当たり前の発言にキョトンとしてしまい、ふわっとした回答を返す。
天音 の苗字も覚えているのか。
斉木 天音 。私の友人のフルネームだ。
と言うか、八雲先生は私が日誌を書いていた所を見ていたし、それを職員室に持っていくことを彼も知っているハズだ。日誌は日誌棚に。1年生でも知っている。実習生だから知らなかった?もう2週間居るからそんなことないでしょ。
脳内思考は瞬時にそこまで考えたが、その考えが終わる前に八雲先生は動いていた。
「アレか!」
思わずクソッと聞こえそうな悔しい声を出して私の横を走って行く。
その行動までは思考が追い付かないが、それ見て嫌な予感がした私も走る。職員室から教室まで割と離れており、空き教室2教室を挟んで階段・トイレ・別の3教室を超えた先が私たちの教室だった。
八雲先生の「斉木 さん!」と叫ぶ声が遠くで聞こえ姿が教室中へ消えた。
教室に入ると、天音が床に倒れていた。
八雲 先生が天音を抱え「斉木 さん!」と声をかけている。
私たちが座っていた周辺の机はそれぞれの定位置を疎 らにズレ2.3台ほど倒れているものもあった。先程まで私が座っていた席の窓が大きく開いている。黒い何かがそこから出ていったのが視界の端でほんの一瞬だけ見えた。天音以外に誰かが居た形跡がそこにあった。
日の暮れた秋風が教室をひんやりと撫で、廊下に抜けていった。
「日誌出して早めに帰れよ」
そう言う視線は私たちと日誌を一瞬だけ見て教室を見渡し出て行く。
「はぁ~ミステリアスなところも良い!」
まるで国民的アイドルにでも会ったかのうように輝かしい眼差しで教室のドアを見ている
「はぁ~……」
長年の付き合いなので分かる。
多分少ししたら教室の鍵を閉めて、私が職員室から出てくるときに鉢合わせると思う。多分ね。
私たちの教室は角にあるが、職員室は直線状一番奥。どちらも2階にある。
遠いんだよね。ほんとに。
2年生の教室はほとんど閉まっており、どうやら残っているのは私たちだけのようだ。
今日は学校特有のノー部活デーのため、金属バットにボールが当たる音や、バスケ部の走る足音と掛け声、吹奏楽の楽器音出しなどは聞こえず静かであった。
ふと、窓から中庭を見ると
うちの学校は上から見ると長方形で、側面を廊下でつないでいる構造をしている。
八雲先生が私と逆の方へ行ったのであれば
まずもって教育実習生がこんな時間に学校をウロウロしていること自体可笑しいのだが。実際、教室を一つずつ開けて中を見て閉じる。という動作を繰り返していた。鍵を開けることも
だからと言って深追いすることはない。面倒事に興味はない。
あんな赤髪
中庭から見える空はいつの間にか薄水色が消え、紫と濃いオレンジに染まり暗くなっていた。2階で光っている教室はどうやら私たちだけのようだ。
職員室へ入り、日誌を日誌棚へ入れて出る。
迎えに行こう。
来た道を戻ると、
ツリ眼だがキツい印象はない奇麗な赤い眼と合い、反射で視線を外してぺこりと頭を下げる。
「
ビクッ。
そのまま通りすがれると思ったが呼び止められる。
特に悪いことをした訳ではないけれど、パトカーが横を通り過ぎるときの謎のドキドキ感と同じ気分。てか、赤髪
とか考えながら数秒立ち止まり「はい……」とおずおずと振り返る。
「
「え、まあ、はい」
とても当たり前の発言にキョトンとしてしまい、ふわっとした回答を返す。
と言うか、八雲先生は私が日誌を書いていた所を見ていたし、それを職員室に持っていくことを彼も知っているハズだ。日誌は日誌棚に。1年生でも知っている。実習生だから知らなかった?もう2週間居るからそんなことないでしょ。
脳内思考は瞬時にそこまで考えたが、その考えが終わる前に八雲先生は動いていた。
「アレか!」
思わずクソッと聞こえそうな悔しい声を出して私の横を走って行く。
その行動までは思考が追い付かないが、それ見て嫌な予感がした私も走る。職員室から教室まで割と離れており、空き教室2教室を挟んで階段・トイレ・別の3教室を超えた先が私たちの教室だった。
八雲先生の「
教室に入ると、天音が床に倒れていた。
私たちが座っていた周辺の机はそれぞれの定位置を
日の暮れた秋風が教室をひんやりと撫で、廊下に抜けていった。