始まりの日常
「何でも屋?」
「そうそう、うちの高校の近くにあるらしいの!」
窓際の席から見える夏休みを終えた9月終わりの空は、オレンジと薄い水色でひつじ雲をグラデーションを作り鮮やかに見せる。窓から入る風がひんやりとして心地が良い。
「ふーん」
ミーハーな友人の話を聞き流し、机をを向いた際に視界に入ったおばあちゃん譲りの茶髪を耳にかける。
放課後の教室で日誌を書き綴るこの時間、嫌いじゃない。友人と放課後の2セットありきだが。
「えーっと、”今日の教室の様子”は、”みんなまじめでした。”っと。」
「あ、興味ないなー⁉」
誰も居ない教室に興奮した声が響く。
「明日って自習なかったっけ」
そんなものお構いなしに私が話しかけると不機嫌な声ながらも返ってくる。
「国語が自習ですぅー!」
それをきっかけにシャープペンシルを動かす。
”明日の連絡”に”国語が自習”っと。
「初音 は気にならないわけ?」
先ほどの興奮が収まらないのか、めげずに話題を深堀する友人に「あのねぇ……」と呆れ睨むような目線を送ると「だって、だってだって!実習生の先生の1人がその『何でも屋してる』って専らの噂なの!」と、キラキラした目線で私の悪い目つきを跳ね返す。
ミーハーな天音 はすぐに周りと同じものに興味を持つ。
中学校からの仲だが、多少面倒だ。
しかし、ある意味凄いと思う。そして少しあこがれる。
人と同じものを人並みに好きになる。私にはない感性だから。
話は戻るが実習生といえば、ここから二駅ほど離れた某教育大学の教育実習生だ。
9月から、私たち2年生の学年には4名来ている。他の学年は知らない。国語・数学・社会・体育の担当だ。確か大学3年生なので20歳かそこらだと思う。
「そこでバイトしてんじゃない?」
何でも屋なんてそんなに珍しいものではないし、大学生ならバイトで居ても可笑しくない。以上。
記入の終わった日誌をパタンと閉じ、筆箱にシャープペンシルを片付ける。
「初音 は気にならなすぎよ!」
自分の話に全く喰いつかない私の肩をつかんでグラグラと揺らし「顔ヨシ、頭ヨシ、タッパヨシのイケメン実習生が正体不明の何でも屋に出入りしてるって、それだけで気になるでしょフツー!!」。
「タッパてあんた……」
ぐわんぐわんと視界が揺れる中で天音 の言う該当の実習の先生を思い浮かべる。社会担当のことだろう。
まだ2,3回ほどしか授業で見ていないが、黒板に書く字が奇麗で、やたらと説明が上手だ。高校生を馬鹿にする話し方ではなく、しかし嚙み砕いた説明で内容がすらすらと頭に入る。それを促すかのような男性特有の低めの声は優しく、それでいて眠くならない抑揚で話し「黒板消すぞ」の一言がある気の利いた先生。女子はもうメロメロ。
言葉の通り、授業中の女子はメロメロだった。
「先生、私目が悪いので前に行っていいですか?」「先生!コンタクト忘れたので前に行きます!」「私も耳遠いから前行く!」「先生彼女は?」「先生毎日授業してよ~」
いやもう凄いのなんの。
中には同じクラスに彼女を持っている男子生徒もいたが、彼氏は嫉妬どころか「あの先生マジかっけぇ」の始末。
そんなか?フェロモンでも撒いてるんじゃないか?ってほどだった。
名前は確か……「八雲先生!」
私の回想をぶった切るように天音 の甘い声が響く。
それを皮切りに身体を揺らしていた手を止める。
「おえ……」
酔った……。
「なんだ、まだ居たのか」
眉間にしわを寄せた顔を上げると、渦中の人物である八雲 朱里 が教室の入り口に立っていた。
「そうそう、うちの高校の近くにあるらしいの!」
窓際の席から見える夏休みを終えた9月終わりの空は、オレンジと薄い水色でひつじ雲をグラデーションを作り鮮やかに見せる。窓から入る風がひんやりとして心地が良い。
「ふーん」
ミーハーな友人の話を聞き流し、机をを向いた際に視界に入ったおばあちゃん譲りの茶髪を耳にかける。
放課後の教室で日誌を書き綴るこの時間、嫌いじゃない。友人と放課後の2セットありきだが。
「えーっと、”今日の教室の様子”は、”みんなまじめでした。”っと。」
「あ、興味ないなー⁉」
誰も居ない教室に興奮した声が響く。
「明日って自習なかったっけ」
そんなものお構いなしに私が話しかけると不機嫌な声ながらも返ってくる。
「国語が自習ですぅー!」
それをきっかけにシャープペンシルを動かす。
”明日の連絡”に”国語が自習”っと。
「
先ほどの興奮が収まらないのか、めげずに話題を深堀する友人に「あのねぇ……」と呆れ睨むような目線を送ると「だって、だってだって!実習生の先生の1人がその『何でも屋してる』って専らの噂なの!」と、キラキラした目線で私の悪い目つきを跳ね返す。
ミーハーな
中学校からの仲だが、多少面倒だ。
しかし、ある意味凄いと思う。そして少しあこがれる。
人と同じものを人並みに好きになる。私にはない感性だから。
話は戻るが実習生といえば、ここから二駅ほど離れた某教育大学の教育実習生だ。
9月から、私たち2年生の学年には4名来ている。他の学年は知らない。国語・数学・社会・体育の担当だ。確か大学3年生なので20歳かそこらだと思う。
「そこでバイトしてんじゃない?」
何でも屋なんてそんなに珍しいものではないし、大学生ならバイトで居ても可笑しくない。以上。
記入の終わった日誌をパタンと閉じ、筆箱にシャープペンシルを片付ける。
「
自分の話に全く喰いつかない私の肩をつかんでグラグラと揺らし「顔ヨシ、頭ヨシ、タッパヨシのイケメン実習生が正体不明の何でも屋に出入りしてるって、それだけで気になるでしょフツー!!」。
「タッパてあんた……」
ぐわんぐわんと視界が揺れる中で
まだ2,3回ほどしか授業で見ていないが、黒板に書く字が奇麗で、やたらと説明が上手だ。高校生を馬鹿にする話し方ではなく、しかし嚙み砕いた説明で内容がすらすらと頭に入る。それを促すかのような男性特有の低めの声は優しく、それでいて眠くならない抑揚で話し「黒板消すぞ」の一言がある気の利いた先生。女子はもうメロメロ。
言葉の通り、授業中の女子はメロメロだった。
「先生、私目が悪いので前に行っていいですか?」「先生!コンタクト忘れたので前に行きます!」「私も耳遠いから前行く!」「先生彼女は?」「先生毎日授業してよ~」
いやもう凄いのなんの。
中には同じクラスに彼女を持っている男子生徒もいたが、彼氏は嫉妬どころか「あの先生マジかっけぇ」の始末。
そんなか?フェロモンでも撒いてるんじゃないか?ってほどだった。
名前は確か……「八雲先生!」
私の回想をぶった切るように
それを皮切りに身体を揺らしていた手を止める。
「おえ……」
酔った……。
「なんだ、まだ居たのか」
眉間にしわを寄せた顔を上げると、渦中の人物である
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