【いなづファクトリー】
貴方は誰ですか。
そう、思わず口にしてしまった。
誰かなんて知っているはずなのに。
姿だって、その中身だって。
知っている。
けれど、彼が彼であるはずはないと、どこかで期待した。
赫い瞳が怪しく揺れる。
暗い部屋だが夜目は効く。
見てしまった。
彼がどんな顔でこちらを見ているのか。
見たくはなかった。
「いなづ」
「あなたは誰ですか」
「……誰だろう」
彼は困ったようにはにかむ。
視線はしっかりと僕にある。
けれどそれは、僕が知っている彼じゃない。
彼は、僕を見ないから。
「僕は僕かな?」
「知らない」
そんな貴方は知らない。
知りたくもない。
いつも逸らされていた瞳がどんな風に僕をうつそうとしていたなんて、知りたくなかった。
「見て見ぬふりをするの?」
「見ようともしないあなたに言われたくない」
「見てるよ」
「………」
「ずっと見てた」