【いなづファクトリー】
純粋な瞳だと思っていた。
綺麗で、純真無垢。
まるで子供のように無邪気。だから余計に、大人が汚く見えた。
そんな彼だから、汚れた欲に従順な瞳を見せるなんて思いもしなかった。
「いなづ」
熱っぽい、情欲を孕んだ吐息。
薄暗い照明によって光る瞳は赤く染まっていた。これは獣の瞳。
「ごめんね」
うわごとのように繰り返しながらも、彼は絡めた手を離そうとはしなかった。
この人は謝ってばかりだ。
普段から、なにかしらあれば「ごめん」と目をそらしながら言う。
いつもと違うのは、その目がじっと自分を見つめているということだった。
いつもの目と違う。はじめて見せるその目。
単純な力では、自分の方が優っているというのに、突き飛ばすこともできない。
なぜ出来ない。疑問が生じた。
その手を離せばいいのは自分も同じだ。
獣のようなこの瞳がいやと思うならば、そらせばいいだけの話。
やれよ、嫌だと思うなら。
拒絶すればいい。
突き飛ばして、逃げてしまえばいい。
なのになんで、それができないんだろう。