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青色の記憶



【夢現】




ーーやっぱり、こうなってしまったね。



「え?」

どこからか声が聞こえて、ぱちりと瞬きをする。


「えっと……」


声の主を探して、右左と首を動かす。


ここは、どこ?


見覚えの無い場所だった。

なにも置かれてないがらんとした部屋。

薄暗い照明。ひんやりと肌寒い。


「あ、ドアがある」


数メートル先に銀色のドアが見える。

とても重たそうだ。

ドアノブに手をかけると、冷たかった。

がちゃり。

重いながらも、ドアは簡単に開いた。

出てみると、潮の匂いが混じる風が吹き抜けた。銀色の通路が続いている。

一歩踏み出せば、かつんと音が鳴った。

進んで見れば、真っ黒なドア。

黒いどころじゃなくて、真っ黒いどころじゃなくて、コレはなんだろう。

そこもあるのかも、存在しているのかもわからないような、曖昧な……。



ーーそこを開いてごらん。



「……え、」


声がした。


ーーさぁ、そこを開けて。


声が、する。

わたしは何故かその声に導かれるように、ドアを開けた。

そのドアは音もせず開いて、真っ暗なそこが現れた。



「ばか、なにしてるんだよ」



なんの躊躇もせず踏み込んだわたしの腕を誰かが掴んだ。


「……誰、ですか?」


振り向いて、わたしの腕を引いたその人を見る。

金色と…灰色…?




「……さぁ、誰だろう」



その人は首を傾げて笑った。

酷く、苦しそうな顔だった。






『あーあ、せっかく開けたのにさ。あのサメから取り上げてやろうと思ったのに。残念』






「あの、あなたは…それにここは…?」
「まずは自分から名乗るのが礼儀ってものだろう」
「………」
言われて気づく。
わたし、自分の名前もわからない。
「……ポケットにあるはずだよ」
「え?」
「右…いや、今日は左だったかな」
「………あ」
左ポケットに手を入れると、なにか薄くて硬いものがあった。どうやら名前プレートのようだ。
「みづる?」
「よろしく、みづる。僕はふかと言う」
「ふか、さん。変わった名前ですね」
「はん。そんなの、ただ僕を示す記号でしかないよ」
呆れたように言って、ふかさんは踵を返す。
わたしが歩いてきた道だ。
「どこへ行くんですか?」
「どこだろうね。ここでは無いところ、かな」
「あの!帰り道が知りたいんですけど!」
「どこへ帰るつもりなの?」
「え?」
「まぁ、いいや。ついておいで」
言われて後をついて行く。
かつんかつんと、足音が響いた。
冷たい、潮の匂いが混じった風が吹き抜ける。
「ここは、どこなんですか?」
「水族館だよ。透明な箱に海の生き物達を閉じ込めておく場所。人間はそれをみて楽しそうに笑うのさ。まぁ、南館は違うけど」
「ここ、水族館なんですか。南館は違うって、どういう事です?」
「見ればわかる」
いつの間にかそこにあったドアノブに手をかけるふかさん。
そのドアは、さっきと違って重たそうな銀色のドアだった。
「う、わ、暗い……」
どうぞ、と言われたのでふかさんより先にドアをくぐれば廊下よりも薄暗い照明で全体が照らされている。足元は青白い光。
「ここ、下手なお化け屋敷より怖いかも」
「だろうね」
ばたん、と音を立ててドアが閉まる。
音に驚いて肩を揺らせば、ふかさんがにんまりと面白そうに笑った。
ーーなんて邪悪な笑み。
「おい、今失礼な事考えただろう」
「い、いえ、別に」
「………」
「えっと、ここが南館なんですよね?」
「そうだよ」
「ここにはなにがいるんです?」
「……やっぱり可能性はあるのか」
「ふかさん?」
「え、ああ。ここには主に肉食の魚がいるかな」
「肉食……サメとか?」
ふと、思いついたのがサメだった。
勘違いしている人も少なくはないが、サメは魚である。
「……そうだね。」
「ふかさん?」
「いろいろとあるから見て回ろうか」
「? はい」
言われて辺りを見渡す。
薄暗い水槽がいくつもあって、その中からいくつかの目玉が光り、こちらを見ていた。
ーーこれ、子供が見たら泣くんじゃないのかな。
「ここの水槽は肉食と深海魚が多いからこんなに薄暗いんだよ。深海魚って、深くから引っ張りあげたら目とか飛び出しちゃうだろ?でも、そうでないものは暗くすれば飼育出来る。知ってた?」
「初耳です」
「他にも、いろんなのが書いてある本が散らばってるから見るといいよ」
ふかさんが指をさす。
そこには、壁に備え付けられた棚があった。
分厚い本が十数冊は並んでいる。
* 赤い本
* 青い本
* 黒い本

設定
みづる
水族館に居た少女。
なぜ水族館にいるのか、自分が誰なのかわからない。右目に眼帯。

ふか
みづるがドアに入りそうなところを止めた青年。
水族館(南館)勤務。左目が金。右目が灰色。

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