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作品一覧
小鬼は優しいママが欲しい 清風の頃
#文披31題 day.1 傘 王子様みたい day.2 透明 透明な視界 day.3 文鳥 お揃いのお椀 day.4 触れる 巣立ちの気配 day.5 蛍 人の心など知らず day.6 アバター 着せ替え人形 day.7 洒涙雨 その言葉には裏がある day.8 こもれび あいつはどんどん大人に day.9 肯定 お手伝いの申し入れ day.10 ぽたぽた 結露との戦い day.11 飴色 甘えたな話 day.12 門番 パパはまだ寂しい day.13 流しそうめん 魔女のがらくた day.14 お下がり 横流し day.15 解く おねだりの目 day.16 レプリカ 細くて小さい角は本物 day.17 砂浜 あの頃のあいつ day.18 占い これでも緊張してた day.19 爆発 情けないぞ day.20 甘くない 「逃げられちゃった」 day.21 朝顔 よくよく考えたらメンカラだった day.22 賑わい 今年もおばあの家は賑やか day.23 静かな毒 木漏れ日の中に居たかった day.24 ビニールプール わんこの足洗い day.25 報酬 パパからのご褒美 day.26 すやすや そういうところ day.27 渡し守 「頑張れ」 day.28 方眼 一人ぼっちじゃない day.29 名残 安心した day.30 握手 「お疲れ様」 day.31 遠くまで 「君もきっと」 day.31,5 「大丈夫」
狐神と、七夕ゼリー
「るーるるーーーー! どるどるーーーー!」 テレビの前で、白い毛並みの子狐が後ろ足だけで立ち上がって、楽しげに歌っている。ふさふさとした尻尾が、歌う動きに合わせてゆらゆらと揺れていた。 テレビに映るのは、午後から放送されている大型の音楽番組だ。十時間生放送されるやつでバンドやソロアーティストはもちろん、アイドルグループもたくさん出ている。 今は女性のアイドルグループが出ているようだ。歌っているものは懐メロと呼ばれるジャンルのものか。最近ではあまり聞かない曲調のものである。彼女らの歌に合わせて、狐神は歌ったり、踊ったりしているようだ。 「あ・い・ど・る・はーーーー! ひとりじゃできないのーーーー!」 「イエイッ!」とアイドルと同じ動きと合いの手を入れる姿は、無邪気な子どもそのものだ。こんなんでも、一応京の都にある稲荷の総本山で働く狐神から生まれた、子狐神である。 まだまだ半人前の子狐神を育てているのが、お世話係の弥(あまね)だ。二十代に差し掛かったか、それよりも少し下の男性の姿をしているが、地獄で生まれ育った鬼である。 「楽しそうだなあ」 買い出しから戻ってきたら、この狐神ライブが耳に入ってきた。 「今のうちに」と、弥は早足でキッチンへ移動し、買ってきた物を冷蔵庫や冷凍庫、もしくは野菜室へ押し込んでいく。 この季節は食中毒が怖いと聞く。暑くなってきたら、冷蔵商品でなくても冷蔵庫に入れておいた方が無難だと、地獄から現世へ引っ越す時に大家さんから聞いた。粉物もだ。常温で放置するとダニが出るそうだ。 狐神の歌は二曲目に入っている。 その間に、お世話係はてきぱきとお夕飯の準備を進めた。 今日は冷たいうどんにしよう。冷凍のうどんはレンジで温めてから水でしめて。おかずは、お総菜の野菜かき揚げを買ってきた。 デザートは、出掛ける前に仕込んでおいたりんごのゼリー。星形の寒天も乗せてある。 七夕のゼリーを前にした子狐神は、どんな反応をみせるだろうか。
ひとりぼっちの夏
「夏休みの日記のネタでも作ってやらんとな」と父さんが言って、家の庭にビニールプールを用意してくれた。 二回目を迎えた、小学校の夏休み。絵日記の題材に困っていたおれは、せっかくだからと、隣の家に住まう幼馴染みも呼ぶ事にした。親が忙しいあいつの事だから、出掛ける事が出来ず、おれみたいに日記のネタに困っているに違いない。いつだったか、あいつの家のビニールプールで遊んだ事もあるので、そのお返しみたいな気持ちもある。 お日さまが、空の頂点を過ぎる前にあいつを迎えに行くと、事前にプールの事を聞いていたあいつは、水着と水鉄砲を準備して待ち構えていた。 「準備がいいな」 「お家プールで水鉄砲は常識でしょう?」 「聞いたことないって」 そう言いつつも、水鉄砲を前にしておれの方も楽しくなって来た。水鉄砲なら、我が家にも幾つかあるし、種類も多い。活動的な姉と兄を持った特権だ。 真っ青な空が広がる下で、きらきらと水が飛ぶ。 二人で水鉄砲を取り替えながら「試し撃ちだ」と言って水を掛け合い、お庭に水をばら蒔き、プールに入ってばしゃばしゃと泳ぐ振りをする。ビニールプールは浅いから、ばた足が出来れば上々だ。 「今度、いつプール行く?」 「プール入ってるのに、もう次の話かよ」 「ビニールじゃなくて、市民プールの話だよ」 「それは、親たちが休みの時だよ、きっと。子どもだけじゃ行けないもん」 「じゃあ大分先だなあ。大阪のお父さんが帰って来てから行こう」 「楽しみだね」と笑うあいつは、プールよりも、離れて暮らすお父さんとどこかに行けるのを楽しみにしているのだろうと、小学生のおれでも察した。この幼馴染みは、お父さんっ子だから。 プールの準備がしっかりがっつりしてたのも、どこかに行くのを楽しみにしていた結果だ。 寂しがりやな幼馴染みを、これ以上ひとりぼっちにするのはやめようと決意した。