ひとりぼっちの夏
「夏休みの日記のネタでも作ってやらんとな」と父さんが言って、家の庭にビニールプールを用意してくれた。
二回目を迎えた、小学校の夏休み。絵日記の題材に困っていたおれは、せっかくだからと、隣の家に住まう幼馴染みも呼ぶ事にした。親が忙しいあいつの事だから、出掛ける事が出来ず、おれみたいに日記のネタに困っているに違いない。いつだったか、あいつの家のビニールプールで遊んだ事もあるので、そのお返しみたいな気持ちもある。
お日さまが、空の頂点を過ぎる前にあいつを迎えに行くと、事前にプールの事を聞いていたあいつは、水着と水鉄砲を準備して待ち構えていた。
「準備がいいな」
「お家プールで水鉄砲は常識でしょう?」
「聞いたことないって」
そう言いつつも、水鉄砲を前にしておれの方も楽しくなって来た。水鉄砲なら、我が家にも幾つかあるし、種類も多い。活動的な姉と兄を持った特権だ。
真っ青な空が広がる下で、きらきらと水が飛ぶ。
二人で水鉄砲を取り替えながら「試し撃ちだ」と言って水を掛け合い、お庭に水をばら蒔き、プールに入ってばしゃばしゃと泳ぐ振りをする。ビニールプールは浅いから、ばた足が出来れば上々だ。
「今度、いつプール行く?」
「プール入ってるのに、もう次の話かよ」
「ビニールじゃなくて、市民プールの話だよ」
「それは、親たちが休みの時だよ、きっと。子どもだけじゃ行けないもん」
「じゃあ大分先だなあ。大阪のお父さんが帰って来てから行こう」
「楽しみだね」と笑うあいつは、プールよりも、離れて暮らすお父さんとどこかに行けるのを楽しみにしているのだろうと、小学生のおれでも察した。この幼馴染みは、お父さんっ子だから。
プールの準備がしっかりがっつりしてたのも、どこかに行くのを楽しみにしていた結果だ。
寂しがりやな幼馴染みを、これ以上ひとりぼっちにするのはやめようと決意した。