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走る茄子

走る茄子

 その夜。真金(まがね)という名の獄卒は、己の目を疑った。
 時刻は丑三つ時。妖怪などと呼ばれる妖しいものたちが出歩く時間帯。百鬼夜行が開かれる刻。
 人の子が昔から畏れ怖がる時間帯だが、真金が住まうこの冥府において、丑三つ時などは時刻の一つでしかなく、なんなら今も働き者の鬼たちは湯を沸かし、山を崩し、金棒などを振るって亡者たちに呵責を与え、亡者の苦しみ呻く声が地獄の底から響いている。
 真金はこの春から獄卒になった鬼だ。平成の半ばに生まれたまだ若い鬼だが、現世と比べ冥府がいかに異常で異様な国かは理解している、つもりだった。
 真金は足を止めて、目をごしごしと擦る。
 今日は遅番の仕事で、これから社宅に戻ろうとしていたところだ。
 疲れは確かにある。が、目眩があるとか、今にも倒れそうだという疲れではない。現代っ子特有の、液晶画面の見すぎで目がしぱしぱするとかそういうことではない。
 目を擦っていた手を下げて、今一度、視線を道の先へ向ける。
 紫色の茄子が走っていた。
 茄子の側面から、異様に筋肉の付きが良い人間の腕が二本と足が二本生えている。走っている時の型も、陸上選手のそれかと思うほど綺麗な型だ。身体が茄子ではなく、腕と足に合った胴体であれば、称賛していただろうなと思う。
 なぜ茄子から手足が。
 そもそも、なぜ走っているのか。
 真金の心情などお構い無しで、茄子は冥府の夜道を行ったり来たりと走っている。
 何度目を擦っても、茄子が消えることは無い。
 真金は一度深呼吸をしてから「よし」と腹を括った。
「何も見なかったことにしよう」
 関わると面倒なことになりそうなので、来た道を引き返し、違う道から帰ることにした。
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