大人になるにはほど遠い
自販機の前で一度躊躇いを入れてから、微糖のコーヒーを選んだ。
子どもは、苦いものよりも甘いものの方が好き。いつもコーヒーを飲む時は、砂糖もミルクもたっぷりと入った物を選ぶ。
でも、最近はそうしないように頑張っている。
先日。父親代わりのマネージャーとプロデューサーの自宅へお邪魔した時に、マネージャーには温かいブラックのコーヒーが。子どもの方には砂糖とミルクをこれでもかと添えられたアイスティーが出された。
苦いものは苦手だと言う前に、当然のように甘いものを出されて、なんだかちょっとだけ悔しくて、情けなくなったのである。
せめて砂糖とミルクの量を減らそうと、大人には内緒で決意した。
一緒に仕事をしているユニットメンバーに「ブラックのコーヒーを呑めるようにする」と告げたら、寺の孫から「性格が既にブラックなのに?」と突っ込みを受けた。そいつは、正拳一発腹に入れて黙らせといた。
ごとんと落ちてきた缶コーヒーをじっと見つめてから、かちんとプルタブを開けて、おそるおそる中身を口に流し込んだ。
舌にほんの僅か液体が触れただけで、「あ、これ無理だ」と悟る。
マネージャー(パパ)は何でこんな苦い物が飲めるんだ?
苦さに顔をしかめていると、二つ年上のアイドルの先輩が缶コーヒーの表面に映り込んでいることに気づいた。
クスクスと笑いを噛み殺して、肩を震わせている。
とりあえず、こいつにも正拳突きしておこう。
缶コーヒーのイメージキャラクターをしているオジサンもニヤリと笑った気がしたが、きっと気のせいだ。