クリスマスファンタジー
クリスマスが近づくと、サンタクロースのプレゼント工場は、一年で一番忙しい季節を迎えます。
サンタクロースの工場はどこにあるのでしょうか。それは、雪深い山の中です。山奥の奥にある秘密の工場。世界中の子どもたちのプレゼントを作る工場は大きく、サンタクロース一人では動かしきれない大きさです。それが、サンタクロースのプレゼント工場です。秘密の工場なので、ただの人間は雇われていません。ただの人間はいませんがお手伝いさんはいます。
では、誰がプレゼント工場を手伝っているのか。そう思いましたか? それはですね。サンタクロースが作ったロボットと、おもちゃ達です。
おもちゃがどうやって手伝うんだ。またそんな声が聞こえました。
それはですね、ここにいるおもちゃは普通のおもちゃとはちょっと…………。いいえ、かなり違うんです。
何が違うのか、サンタクロースに話してもらいましょう。
設計用の机の椅子に座る青年が、サンタクロースです。
忙しい季節ですが、彼は今日も子供たちの笑顔の為に、新しいおもちゃを開発しています。
そして今、新しいおもちゃに息を吹きかけたところです。
◆ ◆ ◆
新しく開発した車のおもちゃを、両手で優しく包み込み、息を吹きかける。
おもちゃの車はピクリと体を動かすと、両手から机に飛びおりて、びゅんびゅんと走り始めた。
青年こと私、サンタクロースは満足そうにうなずき、走り回るおもちゃの車を、頬を緩めて見つめる。
「よし、よく出来てる。名前は何にしようかな? 格好いい名前がいいよね」
そう車のおもちゃに言うと、おもちゃは名前をもらえるのが嬉しくて、またびゅんびゅんと走り回った。
背後にある扉ががちゃりと開いたのは、ちょうどその時。
ここで働くおもちゃたちが、顔を覗かせている。
ジンジャークッキーの形をしたぬいぐるみ、以前作った車のおもちゃ、兵隊の形をしたロボット達、うさぎのパペット人形。大きなくまのぬいぐるみ。
全て私が作った、ここで働くおもちゃたちだ。他のおもちゃと違うのは、命が宿り、自由気ままに動く所。命を宿らせる方法は、私が息を吹きかけるだけ。その様子を見たおもちゃ達は、作った私を魔法使いだと言う。
私は、自分ではそう思った事はないのだが、彼らが言うならそうなのだろうと、最近思い始めた。
「クロース、入っていいかい?」
「ああ、いいよ。今しがた生まれたところだ」
新しい仲間の誕生を祝して、長年工場で暮らすおもちゃ達がきゃっきゃとはしゃぎながら室内へ入った。みんなで車のおもちゃを取り囲み、どんな子かと興味津々な様子で眺める。車は恥ずかしそうにしつつも、みんなの前でぴたりと止まり、お辞儀のかわりに前後に車体を動かした。
私はおもちゃたちの反応を眺めつつ、少しだけ固まってきた身体を解すように背伸びをした。
さて、次は何をしようか。サンタクロースの仕事は多い。おもちゃたちを作るのはもちろんだが、プレゼントの梱包に、梱包に使う材料の仕入れに、トナカイたちのお世話に、ソリのメンテナンスにと色々ある。工場のメンテナンスも重要だ。雪が深くなるこの山奥では、雪かきもせねばならない。
やることは山盛りだが、その前に休憩もしたい。
コーヒーでも飲もうかなと腰を上げようとしたところで、ブロンド髪が美しい、妻のマダム・クロースがお茶と焼き菓子を差し入れに来てくれた。
「お仕事はどう?」
「今、終わった所だよ。ほら、新しいおもちゃだ。名前はまだ考え中だよ」
新しい仲間の車のおもちゃを見せると、妻は呆れたような、困ったような顔を浮かべた。
「十五台目ね、車作ったの。たまには飛行機とか作ったらどう?」
「飛行機も良いけど、私は車が好きなんだよ」
妻の持って来た焼き菓子を食べながら返すと、妻の表情が更に呆れた表情になった。
「あなたの好みで作ってたら、飛行機好きの子が泣きますよ」
「それは困る。私の魔法は子供達の笑顔で出来てるからね」
「なら、早くおもちゃを作って、子供達に届けましょう。クリスマスは直ぐそこよあなた。さあ、みんな手伝ってちょうだい」
妻がそう言うと、おもちゃ達は元気良く返事をして、工場に向かう。
「あなたもすぐに来てくださいね」
「わかってるよ」
お茶を飲み干してから、椅子から腰を上げた。
クリスマスはもうすぐそこに。りんりんと鈴の音を鳴らしながら近づいてきている。
◆ ◆ ◆
サンタクロースのおもちゃたち、ほかのおもちゃと違うところはみつけられましたか?
そう、喋ったり、動いたりするところですね。命が宿ったおもちゃ達ですから、言葉も当たり前のように喋れます。
魔法使いとおもちゃ達に呼ばれるサンタクロース。
彼が言うには、自分のこの力は世界中の子供達の笑顔で出来てるそうです。世界中の子供達の幸せはサンタクロースの幸せ。その幸せをおもちゃに込めて、子供達に届ける。子供達は、更に幸せになる。おもちゃだけでなく、マダムのお菓子を届ける事もあるけど。マダムのお菓子にも、幸せな気持ちが沢山詰まっています。
幸せな気持ちが巡る事で、サンタクロースの魔法の力は維持される。
彼は後に「私は世界で一番幸せ者だ」と語りました。
サンタクロースは今も、世界中の子供達にプレゼントを届ける為に、トナカイの引くソリに乗って、おもちゃ達と世界中をまわっています。
「Merry Christmas」と、眠る子にささやきながら。
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