クリスマスファンタジー
魔法に満ちた国。
ぽろん、ぽろん。と、クリスマスツリー型のオルゴールが、曲を奏でる。
机の椅子に座り、オルゴールの音を楽しんでいたユリアは、オルゴールをくれた人物を思い出していた。
◇ ◇ ◇
クリスマスイブの夜。
日没前に、両親を結婚20周年の旅行へと送り出したユリアは、お昼のパーティーで余った料理を一人で堪能した後、いつものように就寝の支度をしてベッドに入った。
日付が変わる頃には、ツリーのそばに吊り下げてある靴下にサンタクロースからプレゼントが届くはずだ。
プレゼントのお礼にと、ミルク粥とクッキーも用意してある。
準備は万端だ。あとは、朝まで寝るだけ。
足元にある湯たんぽの温もりにつられて、うとうとと船を漕いでいると、カチャリと窓の鍵が開く音が聞こえた。
サンタクロースだろうか。それにしては、来るのが少し早い気がする。
布団の中で耳を澄ませていると、「いてて」とか「まいったなー」と呟く少年の声が聞こえた。
布団を少しだけ上げて、少年の方を見る。
左腕をしきりに気にしながら、窓の桟に座って、辺りをキョロキョロと見回している。
外にあるライトに照らされた金髪が、キラキラと光ながら揺れた。
「うーん、包帯ないかなー。包帯………………おや?」
見回していた彼の目とユリアの目が交差した。
「まさか、家の人が起きていたとは驚いたなー」
電気も点いてなかったし、人の気配もほとんどなかったから油断しちゃった。
照れながら頭を掻く少年と膝をつき合わせるように座り、ユリアは「はあ」と曖昧な言葉を返す。
少年はユリアと同じ年頃で、ふわふわとした赤い生地に首のつく部位に白いファーが縫いつけられた上下の服を着ていた。
なんだか、ヒゲのついていないサンタクロースのような姿。
「あ、あの、君は何者……?」
「僕?僕は、ルイ。サンタクロースの助手」
「助手……へー凄い」
「君はユリアだよね?」
「うん」
「じゃあ、これあげる」
傍らにある白い袋から、可愛らしいクリスマスの包装紙に包まれたプレゼントを取り出す。
それをユリアに渡しながら「メリークリスマス」と言った。
「ありがとう。……ん?」
笑みを浮かべながら礼を言ったとき、ルイの左腕がおかしい事に気付く。
赤い生地の一部分が、他と比べると濃い気がする。
ユリアの視線が腕に向けられている事に気付いたルイは、慌てて腕を隠した。
「その腕、」
「なんでもない、なんでもないよ」
首を振るルイに、ユリアは目を三角の形にして声を荒げた。
「なんでもなくない!さっき痛いとか言ってたでしょ。見せて」
手を伸ばし、ルイの隠した左腕を引っ張り出す。
痛そうに顔を顰めた彼の様子から、やはり怪我をしているのだと確信した。
よく見れば、袖も破れている。まくって見ると、一本筋の傷が腕の肘から手首に渡って出来ていた。
服を着た腕なのに、どうしたらこんな傷ができるのか。
ルイを見ると、傷から顔を背けていた。
「ちょっと、枝にひっかけただけだよ」
「理由はなんでもいいけど、手当てしなくちゃ。私、治癒魔法習ってるから直ぐ終わる」
「どーも」
指で傷をなぞりながら、呪文を唱える。
じゅわじゅわと音を立てながら、傷口が塞がっていき、痛々しい傷は僅か数秒で姿を消す。
完全に治った事を確認するように、ルイは傷口のあった場所を指で撫でた。
「凄いね、君。僕、治癒魔法だけは苦手でさ」
「ありがとう」と礼を言って、ルイは袖を直し立ち上がる。
もう行かなければ、プレゼントを配る時間がなくなってしまう。
侵入して来た窓に移動し、桟に足をかけた所で、ユリアを振り返る。
「どうしたの?」
「これ、治してくれたお礼」
指をくるくると回して、空中から一つの箱を呼び出す。
先ほど渡したプレゼントとはまた違った包装紙に包まれた箱だった。
箱を取り、ユリアに渡す。
両手に収まる小さな箱だが、ずっしりと重い。
「これ、なぁに?」
「秘密」
悪戯っぽく笑って返す。
「また会おう、ユリア。じゃあね」
そう言い残し、ルイはユリアの部屋から去って行った。
◇ ◇ ◇
あれから5回目のクリスマスイブ。
今年もこの時期がやってきた。
ルイと会って2回目のクリスマスは、一回目と同じようにベッドの中から出迎えた。
3回目の時は、びっくりさせようと靴下の前で待機していた。
4回目は風邪をこじらせてぐっすりと寝てしまい、会うことは出来なかった。
そして、5回目の今日は。
コツコツと、窓を叩く音が響く。
オルゴールからそちらに視線を向けると、サンタクロースの格好をしたルイがプレゼントの入った袋を担いで部屋を覗いていた。
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