口は災いのもと
「まあ、祓い方教えてくれたんだし、良い人じゃないか。……ちょっと怖いけど」
「良い人だあ!?お前はいいように、こき使われてんだぞ!良い奴なもんか!」
「二度とうちの神社に来れないように塩撒いてやる!」と、白真は息巻く。
逆立った背中の毛を撫でながら、神也は苦笑した。
◆ ◆ ◆
『ずっと一緒に居るって約束、俺だけじゃなくて、他の男(やつ)ともしてたんだな』
冷めた目つきでみどりを見下ろしながら、武は呟く。
みどりは武が見えていないのでそっぽを向いたままだが、武は構わず言葉を続けた。
『何人の男と同時に付き合うかは君の勝手だ。心から好きになってくれてるなら。でも……アクセサリー扱いで付き合うのはごめんだよ。俺たち人だし、物じゃないし。飽きたらポイ捨てなんて、やめてくれ』
みどりが武の居る方を見る。
偶然だけれど、死んでから初めて、彼女と視線が交わった。
◆ ◆ ◆
「生き霊は祓ったから。あと、背後の幽霊も『成仏します』だってさ」
除霊の報告を、廊下で待っていたみどりに伝える。
みどりは「ありがと」とだけ返し、神也達と入れ替わるように病室へ入って行った。
誠次と話をする為だ。
生き霊を祓った誠次は衰弱していたものの、直ぐ目を覚ました。
二人の間に何があったのかは知らないが、彼女の行動から大体察せられる。
とにかく今はちゃんと話し合って、第二、第三の生き霊を生まないようにしてもらいたい。
「あの子、自分のせいで生き霊が作られたって自覚あるのかしら」
みどりの背中を見送った鈴那が言う。
隣に居る神也が、首を傾げてしばらく考えてから言葉を返した。
「あるかどうかは、この先の生き方で分かるんじゃないか」
それにしても、人と付き合うのは難しいと、今回の件で改めて感じた。
否、難しいのは付き合いではなくて、別れ方か。
別れ方を間違えれば、人はわだかまりを抱えて、下手をすれば恨み憎しみが増幅し生き霊になる。
みどりが生き霊に狙われても無事で居たのは、武が篁から御守りを譲り受けていたからだろう。
御守りを持っている武に、生き霊は近付けない。
武はそれに気付いて、みどりの側に居たのだ。
その武は神也達にお礼を言ってから、この世を後にした。
「俺も、恋人作った時は気をつけないとなー。まずは思いやりから」
「怒らせると、魂取られるからな!」
「確かに」
一瞬間を置き、ふっと二人同時に吹き出して声を上げて笑う。
それを黙らせるように、鈴那がわざとらしく咳払いした。
「それどういう意味?」
冷たい笑顔を浮かべて、鈴那は問う。
彼女の背後に、南極のブリザードが見えるのは気のせいだろうか。
白真は真っ先に危機を察して、駆け出した。
「オイラ先帰るっ!」
「あっ!こら!」
追いかけようとした矢先、神也の首根っこを鈴那が捕まえる。
「説明してね?」
今日、一番の笑顔である。
好きな人の笑顔なのに、こんなに嬉しくないのは何故だろう。
一人の男が、言いたいことを言い切って、すっきりして帰った空の下。一組の男女が、また騒動を起こそうとしていたのであった。
(『口は災いのもと』って、よく出来た言葉だよな!)
(お前が言うな!)