BL 恋人みたいなふりをして
Day17 流星群 元気になぁれ!
「ねえねえ、お地蔵様!」
「課長さん、元気?」
「熱いお風呂に落ちちゃったって本当?」
寺子屋を訪ねて来たお地蔵様に、子どもたちがわらわらと集まってくる。
獄卒の課長が、大釜に落ちたという事故は、現世に近い三途の川にも届いていたようだ。
心配そうな表情(かお)、不安げな表情(かお)、痛いという表情(かお)が、お地蔵様の視界に入る。
子どもたちと接する機会はお地蔵様の方が多いのだが、あの美しい顔立ちの課長も、子どもたちに心配されるほどの信頼関係を結んでいたようだ。
「(紙飛行機も、一緒に作っていたものなあ)」
子どもたちにまざって紙飛行機を折っていた獄卒の姿を思い出し、懐かしむ。
彼は真面目な顔をしているが、あれでいて根っこの部分は結構子どもなのだ。
一番近くにいた子どもの頭を撫でてから、皆を安心させる微笑みを見せた。
「大丈夫。課長さんは元気ですよ。早く良くなるように、みんなでお祈りしましょう。今夜は現世で流れ星がたくさん見れる日ですから、お願い事をするにはちょうど良い日です」
お地蔵様の言葉に、子どもたちの多くはぱあっと表情を明るくさせる。
が、一部の子どもたちは「流れ星」と聞いて、しゅんと肩を落としていた。
気づいたお地蔵様は、瞬きを繰り返す。
「どうしたんだい?」
お地蔵様の問いかけに、落ち込む子どもたちは顔を見合わせた後で口を開いた。
「あのねえ」
「課長さんと、今日流れ星見る約束してたの……」
怪我をする前に寺子屋へ来たとき、課長は流星群の話を子どもたちに聞かせていたらしい。
話の流れで「近いうちに流星群が見れる日があるので、実際に見てみましょうね」となったそうだ。
でも、課長は大きな怪我をしてしまったので、寺子屋へは来れない。
歩くどころか、今は寝台から起き上がるのも難しい。
お地蔵様はここへ来る前に課長の様子を見てきたが、皮膚がある箇所は呪符が貼られ、その上に包帯が巻かれていた。見えてる部分は口元と指先くらいなものだ。目の方も瞼が開けられず、今は包帯で隠されていて、綺麗な赤紫色は成りを潜めている。
大釜の湯は、亡者をぐつぐつに煮る為の熱湯だ。課長は鬼だから、全身の肌が赤く腫れる程度の火傷ですんだ。ただの人間だったら、肌だけでなく肉まで爛れていただろう。
「課長さん、楽しみにしてたのに……」
「金曜日には、ほとんど皆既月食もあるのにね……」
「丹桂(たんけい)ちゃんも、落ち込んでないといいけど」
子どもたちはしょんぼりとうなだれて、それ以上言葉が続かない。
どんよりとした空気が、子どもたちを包み始める。
お地蔵様は一人一人の顔を確認してから、「うん」と何か閃いた様子を見せた。
「任せて。課長さんも、ちゃんと見れるよ」
「本当に?」
落ち込む子どもたちの中で、「あのねえ」と一番最初に切り出した子が問い返す。
その子の肩にぽんと手を置いて「任せて」と笑ってみせた。
「お地蔵様は、子どもたちのヒーローだからね。サプライズは御手の物だよ」
子どもの姿はもちろん、大人になっても、年老いた姿になっても、その子が誰かの子どもである限り、お地蔵様は子どもたちのヒーローだ。
口を開きながら、懐から赤と白の玉が交互に並んだ数珠を取り出す。
「今からこの数珠を順番に回すから、受け取ったらぎゅっと握って、【元気になぁれ】と願いを込めてね」
お地蔵様から見て一番近い子に数珠を渡す。
お地蔵様が寺子屋を訪ねると、真っ先に駆け寄ってくる女の子だ。
女の子は言われた通り、受け取った数珠をぎゅっと握って、「元気になぁれ!」と願いを込める。
赤と白の数珠が、願いを込めた時間の分だけ、青白い色の光を放った。
「ねえねえ、お地蔵様!」
「課長さん、元気?」
「熱いお風呂に落ちちゃったって本当?」
寺子屋を訪ねて来たお地蔵様に、子どもたちがわらわらと集まってくる。
獄卒の課長が、大釜に落ちたという事故は、現世に近い三途の川にも届いていたようだ。
心配そうな表情(かお)、不安げな表情(かお)、痛いという表情(かお)が、お地蔵様の視界に入る。
子どもたちと接する機会はお地蔵様の方が多いのだが、あの美しい顔立ちの課長も、子どもたちに心配されるほどの信頼関係を結んでいたようだ。
「(紙飛行機も、一緒に作っていたものなあ)」
子どもたちにまざって紙飛行機を折っていた獄卒の姿を思い出し、懐かしむ。
彼は真面目な顔をしているが、あれでいて根っこの部分は結構子どもなのだ。
一番近くにいた子どもの頭を撫でてから、皆を安心させる微笑みを見せた。
「大丈夫。課長さんは元気ですよ。早く良くなるように、みんなでお祈りしましょう。今夜は現世で流れ星がたくさん見れる日ですから、お願い事をするにはちょうど良い日です」
お地蔵様の言葉に、子どもたちの多くはぱあっと表情を明るくさせる。
が、一部の子どもたちは「流れ星」と聞いて、しゅんと肩を落としていた。
気づいたお地蔵様は、瞬きを繰り返す。
「どうしたんだい?」
お地蔵様の問いかけに、落ち込む子どもたちは顔を見合わせた後で口を開いた。
「あのねえ」
「課長さんと、今日流れ星見る約束してたの……」
怪我をする前に寺子屋へ来たとき、課長は流星群の話を子どもたちに聞かせていたらしい。
話の流れで「近いうちに流星群が見れる日があるので、実際に見てみましょうね」となったそうだ。
でも、課長は大きな怪我をしてしまったので、寺子屋へは来れない。
歩くどころか、今は寝台から起き上がるのも難しい。
お地蔵様はここへ来る前に課長の様子を見てきたが、皮膚がある箇所は呪符が貼られ、その上に包帯が巻かれていた。見えてる部分は口元と指先くらいなものだ。目の方も瞼が開けられず、今は包帯で隠されていて、綺麗な赤紫色は成りを潜めている。
大釜の湯は、亡者をぐつぐつに煮る為の熱湯だ。課長は鬼だから、全身の肌が赤く腫れる程度の火傷ですんだ。ただの人間だったら、肌だけでなく肉まで爛れていただろう。
「課長さん、楽しみにしてたのに……」
「金曜日には、ほとんど皆既月食もあるのにね……」
「丹桂(たんけい)ちゃんも、落ち込んでないといいけど」
子どもたちはしょんぼりとうなだれて、それ以上言葉が続かない。
どんよりとした空気が、子どもたちを包み始める。
お地蔵様は一人一人の顔を確認してから、「うん」と何か閃いた様子を見せた。
「任せて。課長さんも、ちゃんと見れるよ」
「本当に?」
落ち込む子どもたちの中で、「あのねえ」と一番最初に切り出した子が問い返す。
その子の肩にぽんと手を置いて「任せて」と笑ってみせた。
「お地蔵様は、子どもたちのヒーローだからね。サプライズは御手の物だよ」
子どもの姿はもちろん、大人になっても、年老いた姿になっても、その子が誰かの子どもである限り、お地蔵様は子どもたちのヒーローだ。
口を開きながら、懐から赤と白の玉が交互に並んだ数珠を取り出す。
「今からこの数珠を順番に回すから、受け取ったらぎゅっと握って、【元気になぁれ】と願いを込めてね」
お地蔵様から見て一番近い子に数珠を渡す。
お地蔵様が寺子屋を訪ねると、真っ先に駆け寄ってくる女の子だ。
女の子は言われた通り、受け取った数珠をぎゅっと握って、「元気になぁれ!」と願いを込める。
赤と白の数珠が、願いを込めた時間の分だけ、青白い色の光を放った。