second stage 疾風炎嵐


#バズリンアイドル
#ヴァンド

「エナガの頭良し」

「あたまよし」

「胴体良し」

「どうたいよし」

「羽根良し」

「はねよし」

「脚良し」

「あしよーし!」

 直哉が、病院にお願いして用意してもらった控え室で、光希と共に指差し確認をする。
 それに「ちょっと待った」をかけたのは、中に入る準備をしていた大だ。

「お子様に分解してるエナガみせていいのか?」

「麻希はともかく、光希はこういうの見慣れてるから」

「ねー?」と直哉が同意を求めると、光希は胸を張って「うん」と答える。ちょっと前まで、サンタは居ると信じていた幼子も、いつの間にか現実が何で出来ているのか理解してきたようだ。
 確認していたのは、Bsのごうえんスタッフに頼んで搬入してもらったエナガの着ぐるみだ。
 大きな大福に似た身体が、今は頭と胴体、脚に分けられ、袋から出された状態で床に転がっている。今日これを着るのはいつもアヌビスに扮している大だ。エナガに入ることが多い樹は、「今日は先輩の家にいるようなものだから」といって、中に入るのを辞退した。
 では、エナガの声を担当している直哉が入れば良いのではという話も出たが、「妹が来ているから目を光らせなければならない」と言って、こちらもあっさりと辞退した。
 子どもたちにもみくちゃにされるのが嫌だったわけではない。決して、そうではない。

「大ちゃん、もう中入る?」

「室内とはいえ、始まるまでまだ四十分くらいあるんだが、熱中症になれってか?」

「熱中症になっても直ぐ処置してくれるよ」

 なんせ、ここは総合病院である。
 祝日で外来は休みだが、救急は動いているはずだ。

「そんで治療費をとられるんだろう。しかも初診だから、初診料上乗せじゃねえか。やってられっか、まだ入らねえ」

 言いながら、手近にあったパイプ椅子に腰をかける。

「二十分前になったら羽毛着るわ。それまでここでだらだらしてる」

「じゃあ俺は、フリールーム行ってお絵描き大会の準備手伝ってくるかな。樹に麻希を任せたままだし。光希も行く? 大ちゃんとゆっくりしててもいいよ?」

「いく! おえかきする!」

「もうするの?」と、直哉と大が同時に問うと、「たっちゃんがさきにやってていいよっていってた」と返ってきた。

「うちのリーダーは子どもに甘いんだから」

 腰に手を置いて嘆息する直哉に、大が間髪入れずに口を挟む。

「兄バカが言うな、兄バカが」


「直ちゃんお帰りー。エナガの確認終わった?」

 樹が、パジャマ姿の子どもたちに囲まれた中から言葉を発する。
 樹の声で兄の登場に気づいた麻希(まき)が、お絵描き帳から顔を上げた。
 慈善事業が始まる前。この時間、子どもたちは昼食の時間だと聞いて、その間にフリールームでお絵描き大会の準備を進めようということになっていたのだが、早食いの子たちは早々に食べ終えて、集まって来ているらしい。保護者や身内以外からの訪問が物珍しいのだろう。
 樹を囲んでいた一部の子どもたちが、きゃあきゃあと声を上げて直哉にも寄ってくる。
 麻希も立ち上がって直哉に近づこうとしたが、子どもたちに阻まれた。
 子どもたちの年齢は、光希と同じくらいか少し上だ。今年四歳になる麻希よりも、一回りか二回り身体が大きいし、力も強い。
 麻希の空気が、重たいものに変わり、見えない炎がメラメラと燃え盛る。
 樹が麻希の変化に気づき、よしよしと頭を撫でるが「今はそんな気分ではない」とばかりに振り払われてしまった。

「みんな、もうお昼食べたの? 早いねえ」

 直哉が子どもたちと会話を交わせば交わすほど、放置された状態の麻希の機嫌が降下していく。
「うぅー」と、麻希の喉が鳴り始めた。
 唸り声は、直哉と一緒に部屋に来た光希(みき)にも届いたらしく、自分のお絵描き帳とクーピーを脇に抱えつつ、兄のTシャツの裾を引っ張った。

「にいちゃん、にいちゃん」

「どうした? 光希」

 子どもたちに向けられていた顔が、光希の方へ向く。
 光希は空いてる方の手で、「あれあれ」と麻希の方を指差した。
 直哉は視線を動かして光希の指差す方を辿り、ようやく麻希の機嫌が急降下している事に気づく。
 幼い身体から、真っ黒な嫉妬に満ちた炎がずおっと噴き出している。
 直哉は息を一つ吐き出してから、柏手を二度打った。

「よいこのみなさん、そろそろエナガが来る時間になりますよ。病室に戻って迎え撃つ準備をしましょう」

「迎え撃ってどうする」

 樹の突っ込みを直哉は黙殺する。

「ドアノブに赤いリボンを結ぶのを忘れないでくださいね。自力で結べない子は、その辺にいる格好いいお兄さんかヌタウナギに結んでもらってください」

「ヌタウナギー?」

「ヌタウナギってなにー?」

「危険を察すると、ネバネバとした粘液を出すウナギです。今は人間に化けてこの病院に忍び込んでますよ」

「妖怪みたいな伝説を作らない」という樹の突っ込みは、またしても黙殺される。
 直哉が「さあ、行った行った」と近くに居た子どもの背をとんと押した。
 子どもたちはまだ遊びたそうにしていたが、「準備をしない悪い子の所には木刀を持った鬼が行きます」と言われてしまい、渋々といった様子で部屋から廊下へと出ていく。
 賑やかだったフリールームが、一転してしんと静まりかえった。
 からからと動くエアコンの音と、室内の冷たい空気を循環させる為につけた扇風機の音が子どもたちが居た時よりも大きく聞こえる。
 子どもたちを、近くに居たおにいさんたちに引き渡し、病棟方面へ戻ったのを確認してから、直哉はフリールームへと戻ってきた。
 室内が静かになっても麻希はむすりと頬を膨らませている。
 幼い妹の前でぺたりと膝を折り、光希にも直哉にも似た顔を覗き見た。

「どうしたんですか? お嬢さん。ほっぺたが怒った時のハリセンボンみたいになってますね?」

 ヴァンドの鬼は、つんっと、膨らんだほっぺたを人差し指で突っつく。
 妹は頬を膨らませたままだ。ぎゅっと着ている半袖の裾を握って、直哉を見ようとしていない。麻希の傍らで、彼女のシマエナガマペットが寂しそうに転がっている。
 直哉はそれを拾い上げると、自分の右手にはめ込んだ。

「〈どうして麻希ちゃんは、お兄ちゃんを無視するのかなあー? 無視する悪い子は、骨の髄まで食べちゃうぞーーーー?〉」

 直哉の甲高い裏声が、室内に響く。
 シマエナガマペットで、再び彼女の頬を突っつく。
 麻希の目がようやく直哉を見たが、むすっとした顔はそのままだ。
 が、少しだけ目が潤み出している。
 泣く一歩手前だなあと、兄は気づかれないように嘆息しつつも、声音の力は緩めない。
 直哉は、彼女が不機嫌になっている理由も、彼女がして欲しいことも察している。
 彼女の事は大変可愛いと思っているのだが、思っているからこそ、ここで甘やかしてはいけない気がするのだ。
 どんな事でもいいから、自分の気持ちは口に出して伝えるという事を学ばせなければならない。
 直哉はマペットを下げて、麻希の目を真っ直ぐ見ながら口を開いた。

「あのねえ、麻希。兄ちゃんは心が読めるエスパーじゃないから、ちゃんと言ってくれないとわかんないよ」

「…………」

 黙ったまま、麻希は力に任せて直哉の腕を引っ張る。

「わかりません。麻希は喋れない子じゃないでしょう? どう言えばいいかもわかってるでしょう?」

「うーうー」と、言葉にならない声を出して、麻希は腕を引っ張り続ける。

「いつもみたいに言ってごらんよ? 兄ちゃん怒らないから」

「…………だっ…………こ…………」

 小さな口から、小さな言葉がこぼれる。
「ほら、ちゃんと言えるじゃない」と微笑んで、小さな身体を抱き上げた。

「よくできました」

 よしよしと、直哉が形の良い小さな頭を撫でていると、「おい」と樹と直哉を呼ぶ鬼頭の声が耳に届いた。
 樹はウェルカムボードを描いていたホワイトボードから視線を外し、直哉も身体の正面を声の方に向ける。
 クールビズ姿の鬼頭と共に、もう一人クールビズ姿の男が立っている。
 鬼頭と似た背丈に灰色の髪、細い銀縁の眼鏡を持ったその男を、直哉はBtHのステージが終わった後で会っていた。鬼頭昴の元相方、日向橘(ひゅうが たちばな)だ。
「やあ」と朗らかに笑って橘が手を振る。
 橘と初対面の樹は控えめに、会ったことがある直哉と橘に気づいた光希は明るい声音で挨拶を返す。橘は、光希の親友である日向南(ひゅうが みなみ)の父親でもあるのだ。
 樹はそろそろと直哉に歩み寄って「誰?」と問いかける。

「南ちゃんのパパ。…………橘さんがなんでここに?」

 直哉の問いに鬼頭が手短に答えた。

「取材だ、取材」

「本業は人事なんだけど、編集部の人たちが忙しくてねえ。八月は夏フェスも控えてるし、昨日のミルフェスもまとめないといけないし」

 橘が勤務してる会社は、アイドル雑誌を多く手掛けている出版社だ。
 今日は、来月号に載せる豪華炎乱の春ツアー総まとめと一緒にヴァンドの結成一周年も一緒に特集してくれるらしい。それにともない、ヴァンドの主な活動内容も載せるということで、急遽取材が組まれたそうだ。
 本来であればBsの担当記者が来るのだが、今回の慈善事業はヴァンドの公式ツイッターやインスタグラムでの告知は一切せず、病院の中も小児科以外には非公表という徹底振りだ。知っている人間は小児科を出入りしている者とその責任者だけである。そんな中で知らない大人がうろついていたら、高校生も子どもたちもやりにくいだろうということで、鬼頭の知り合いで直哉とも面識のある日向橘が選ばれた。という事情だと、大人二人は話す。
 今は人事担当だが、昔は編集の方にいたという。「記事を書いたこともあるので内容も安心していいよ」と、橘は笑った。
 直哉が麻希を抱え直しながら、口を開く。

「パパの友達とはいえ、こんな軽いノリの記者で大丈夫?」

「直ちゃん、こら」

 ぱしんと、樹が直哉の背中を叩いて窘める。
 呆れる鬼頭の傍らで、橘は気分を害するどころかケラケラと笑い飛ばした。


 お昼の病院食が終わり少しの休憩を挟んでから、慈善事業一番最初の催しであるエナガちゃんご一行による病室訪問が始まった。
 大きな大福に似た身体が、練習中に着ているTシャツを着たお供を二人従えて、えっちらおっちらと廊下を進み、赤いりぼんが結ばれている病室の前で立ち止まる。そして樹か直哉が扉をノックして、中入って良いか確認してからエナガも入室する流れだ。
 病室訪問は順調に進み、今は中庭に面した小児科病棟へと移っている。
 ここまで子どもたちの反応は概ね良好だ。
 エナガの大きさに驚いて泣きかけた子どももいたが、そこは幼い妹をもつ直哉がフォローして、涙を流すまでには至らなかった。他に、エナガを待ちかねてドアを開けて待っていたり、廊下に仁王立ちして迎え撃つ子もいたりと、見ている側は愉快な訪問が続いている。
「子どもの反応って面白いねえ」と、獄卒(なおや)と菩薩(たつき)が会話を交わしながら、この病棟最後の大部屋へと向かう。この部屋が終われば、残りは個室の子どもたちだけだ。

「機嫌の良い子たちが多くて助かったね」

「子どもたちはご機嫌だけど、うちの麻希はまーーーーた不機嫌になってるよ……」

 病室訪問へ出発する時に、院長の息子に預けた末の妹の姿を思い出す。
 預かる方も渋々であったが、預けられる方も「なぜわたしがあずけられるのか」と言わんばかりの目をして、直哉を睨んでいた。

「最近、すぅーーぐ機嫌が斜めるんだよなあ」

「お兄ちゃんの愛情が足りないんじゃないの?」

「えぇーー?」

「愛情注いでますけどーーーー?」と、預けた妹と同じ表情をして、言葉を続ける獄卒に、菩薩は短く息を吐き出してから口を開く。

「家に居ないからだよ、きっと。生まれてからずっと家に居た人が急に居なくなったから、戸惑ってる部分がまだあるんじゃないの?」

 樹の言い分に、ふーむと顎に指を置く。

「そうなのかなあ」

「寂しいんだよ、きっと」

 言いながら、樹はドアノブに結ばれていたりぼんをしゅるりと解く。
 手に提げていた回収用の紙袋にりぼんを入れて、ノブを掴んだ時に気づいた。
 この扉、閉じきっていない。僅かだが開いている。
 直哉も気づいたようで、樹と顔を見合わせた後に、扉の上へと視線を向けた。
 海やプールで使うビニールのボールが、黒板消しの如く扉に挟まっている。
 耳をすませて室内の音を拾うと、くすくすと忍び笑いをする子どもたちの声が聞こえた。

「やってくれたね」

「やってくれたな」

 さてどうしたものか。
 このまま扉を開ければビーチボールが頭にどぼん。
 ボールを無視して隙間を潜り抜ける手もあるが、人は通れてもエナガの巨体は通れないし、面白味がない。
 菩薩がどうしたものかと考えている間に、獄卒が「ちょっと待ってて」と言って、歩んできた廊下を引き返し、フリールームの方へと消えていく。
「なにする気?」という樹の声が廊下にむなしく響いた数分後、獄卒の着物に鬼の面を着けた直哉が戻ってきた。
 颯爽と歩く姿は、衣装のまま見舞いに来たお化け屋敷のスタッフか、患者をお迎えに来たあの世の者だ。
 再び樹の隣に立った獄卒は、鬼の面を外して曇りのない目でリーダーを見る。

「やっぱお仕置きするならこの姿だよね。今時、黒板消し落とし設置するなんて、元気があってよろしいけど、やる相手はちゃんと選ばないと。ねえ、菩薩様」

「……大声を出したり、無理やり高い高いをするのは無しだぞ。この部屋にはエナガちゃんファンの子もいるんだから」

「わかってるってー」

 お面を被り直し、首筋にかかる己の髪を一度払ってから、獄卒は扉の前に進み出た。
 数分後。悪戯っ子たちから「オンギャアアアア!」という叫び声が上がったのは言うまでもない。

「だから言ったでしょう。悪い子のところには鬼が来るって。俺は嘘は吐きません」

 直哉は鬼の面を側頭部に追いやり、腕組みをして仁王立ちする。
 彼の正面には、今回の悪戯を仕掛けた悪戯っ子たちがベッドの端に並んで腰を下ろしていた。
 つい先程、直哉から悪戯の仕返しをされて、怯えきっている。
 直哉渾身の即興怪談を聞いたばかりだから無理もないかと、樹は肩をすくめた。ただ怪談を語るだけならともかく、場面にあった音楽も用意して流し、仕掛けられていたプールや海で使うあのボールも小道具にしてしまうのだから手が込んでいる。

「いいですか、子どもたち。こういう悪戯は俺ではなく、ヌタウナギさんに仕掛けなさい。俺は罠にかかるヌタウナギを撮影して、後日ゲラゲラ笑いながら映像を確認しつつ寝落ちします」

「直ちゃんって朱雀先輩のこと大好きだよね。言われる度に否定してるけど」

「大好きじゃない」

 素っ気なく答えている獄卒だが、彼の推しユニットはティアゼと霹靂神で、その中でも特にお気に入りなのがティアゼの種田朱雀だということは、周囲も周知の事実である。
 本人は秒で否定しているけど、嫌いなものは徹底的に排除するこの男の性格を考えると、嫌いでないのは確かだ。どうでも良い存在であればとっくに縁を切っているだろうし、「また?」と保護者(パパ)から呆れられるほど連絡もとらないだろう。
 むすっと不服そうに返答した直哉の言葉を「はいはい」と聞き流しながら、樹はエナガを連れて部屋の奥にいる女の子のところへ足を進める。
 女の子のベッドサイドにある棚に、七月の頭に発売されたばかりのお手玉風夏エナガが置かれている。彼女の手には春限定で発売された桜エナガがあり、ぽかんとした表情でエナガと樹を見つめていた。
 この子が、直哉が言っていたエナガファンの女の子だ。
 フリールームや待合室のモニターに流してほしい動画や作品のアンケートでエナガの動画と書いてくれたと聞いている。
 樹は女の子と目線を合わせるように、膝を折る。

「こんにちは、お嬢さん」

 柔らかい口調で挨拶をすると、女の子はこくこくと首を縦に動かした。

「エナガちゃんを好きになってくれてありがとう。今日はそのお礼に来たよ。いっぱいもふもふしていいからね」

 もふんと、エナガが大きな身体を揺らす。
 女の子の表情がぱあっと明るくなり、幼さのある手を伸ばしてエナガのもふもふとした羽毛撫でる一方で、悪戯っ子たちが直哉のデコピンをおでこで受け止めていた。


「病室訪問はこの部屋が最後かな」

 樹が、手にある紙に印刷された訪問希望の部屋番号と目前にある病室の番号を照らし合わせる。
 ドアノブにきつく結ばれた赤いりぼんを外した時に、病室の名札が目に入る。

「【水沢(みずさわ)】…………?」

 聞き覚えのある名字である。
 クラスにはない名字だが、つい最近話題に上がった気がする。
 どこでだっけなと樹が首を傾げると同時に、直哉が口を開いた。

「そこ、トール先輩の弟の部屋」

 直哉が、エナガの羽毛に除菌スプレーを吹きかける。
 色々な子どもたちがエナガに触れる為、一室一室訪問を終えてからエナガの除菌をして次の部屋へと移動するのだ。気休め程度の感染対策だが、やらないよりは良い。
 除菌を終えたエナガの羽根をぽんと叩いてから、言葉を続けた。

「随分前から入院してるんだって」

「……なんで知ってるの?」

「地獄ネットワーク」

 明確な答えを避けたのは、個人情報を守ったからか。それとも本当に真っ黒なところから情報を得たからか。
 事情に詳しそうな直哉は、獄卒姿のまましゃんと背筋を伸ばして、扉を開けるよう促す。
 首を突っ込んだら、首を斬り落とされそうだな。
 樹は深く突っ込みに行くのをやめて、扉と向き直り手の甲で軽く叩く。

「こんにちはー、エナガちゃんの病室訪問でーす」

 室内に声かけをしながら、扉を開ける。
 樹が先に入り、続いてエナガの大きな巨体。殿は獄卒の直哉だ。
 ベッドを見れば、小学校高学年くらいの男の子が背筋を伸ばし、緊張した面持ちで部屋に入室した一行に視線を向けている。
 喧しい声音が部屋に響いたのは、樹がベッドに歩み寄り口を開こうとした時であった。
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