second stage 疾風炎嵐
#バズリンアイドル
#ヴァンド
#豪華炎乱
《移り気な気持ちを取られて》
《束ねられてく この劣情》
薄暗い会場で、唐紅色のペンライトと青緑色のペンライトと色とりどりの扇子が躍り振られる。
流れる音楽は激しく、そこに熱のこもった歌声が丁寧かつ正確に乗せられていく。
歌い踊る為にステージに立つのは、その名に恥じない豪華な衣装を身に着けた大人二人と、三人組の少年。
豪華炎乱の榊雅臣と、聖春高。ヴァン・ド・ラファールの兵藤樹、鬼直哉、萩原大。
大人二人は古代中国の皇帝を思い出させる装いで、どっしりとした着物の重さが見ているだけで伝わってくる。色は雅臣は身ごろに黒地を襟は赤の生地を使い、春高は身ごろに白地を襟に青い生地を使っている。右肩から右の袖にかけて流れるように刺繍された花は、華やかなダリアの花だ。前身ごろの裾近くにもダリアの花が重なるように刺繍されている。帯も豪奢な印象の金色で、二人の腰にきつく巻き付いていた。
豪華な大人たちに負けず劣らず、少年たちも男物の着物を身につけている。樹と大が白、直哉が黒。肩から袖にかけての柄の入れ方は大人と一緒だ。
豪華炎乱の全国ツアー最終日。豪華炎乱の怪盗騎士から始まったステージは滞りなく進み、今は第一部の最終曲【dahlia】が今は会場に流れている。
ここまで、途中でMCを挟みつつもノンスットプで歌い踊ってきた大人たちは、熱いライトに照らされてるのと会場の熱気にやられて、モニターからでも汗をかいているのがよく見えた。バックを任されている子どもたちも一緒だ。
《華麗な花と見せかけて》
《艶麗に誘う ボクのダリア》
曲は順調に進み最後のサビに入ったところで、銀色のテープが放たれた。
ゲストが銀テープに気を取られても、ステージでは動きを止めない。
最後の一音が鳴り止むまで、ひらひらと袂と裾をはためかせて、一部最後のパフォーマンスを届けた。
《高飛車な君に囚われて》
《沸き上がる 迂愚な熱情》
《移り気な気持ち見抜かれて》
《笑う 蛇蝎なこのダリア》
「ちょっと給水してくるね!」と言って、ステージを降りていた大人二人が、二部が始まる十分前に二部の衣装を着て、突然姿を現した。
全公演の中でも、初めての演出である。
火種たちは、歓声で会場の空気を再び震わせた。
二人がお喋りをしている間に、銀テープで作られたダリアの花を配ってたヴァンドが秘密の通路を使って袖へと引っ込んでいく。
袖へと戻った三人は、スタッフにわらわらと囲まれて着物を脱がされ、汗を拭かれ、給水をさせられ、気づけば籠目の星の衣装に着替えさせられていた。
しっかりとした生地で出来た詰め襟の白い半袖の上着と、黒い色のタンクトップ。タンクトップと同じ色のパンツ。襟や袖口には蔦模様の刺繍が青白い色の糸で施され、パンツにもポケットの縁から太ももにかけて、流れ落ちるように蔦模様が刺繍されている。襟と黒のハーフブーツには、キラキラとしたラメが散りばめられていた。黒いタンクトップも、無地ではなくきらきらとした柄が入れられている。
近くで見ると、ふらぐめんつ社に作ってもらったアクセサリーと似た柄をしていた。
舞台袖からステージの様子を伺いながら、樹は深呼吸を繰り返し、大はぶつぶつと真言を唱え始める。
「……大ちゃん真言じゃなきゃだめ?」
直哉が目を半眼にして問う。
「これが一番落ち着くってことに気づいたんだよ」
「目指してるの神職なのに?」
「どっちの知識ももってて損はない」
うんうんと、大が頷いていると、そろそろステージに行きなさいと促される。
大人たちはセンターステージでお喋りに興じている。
観客がそちらに意識を向けているうちに、ヴァンドは明かりが灯されていない真っ暗なステージを進んでいき、スタンドマイクが置かれた自分の立ち位置で止まる。
真ん中に直哉、直哉の右手に樹、左手に大。
メインステージに近い客がヴァンドの存在に気づいたが、大が人差し指を立てて「静かに」と口を動かした。
「〈さあさあ、亡者と……現世のみんなでいいのかな? 大変ながらくお待たせしたね!〉」
「〈千秋楽はまだまだこれから。今からが本番だよ〉」
「〈ほんの少しの時間だけど、獣たちの声に耳を傾けようじゃないか!〉」
七月十九日。ヴァン・ド・ラファールが正式結成した日。
正式結成したのは昨年の夏。今日で、一周年だ。
暗いステージの中で、樹がもう一度深呼吸する。
「樹、大丈夫?」
「大丈夫、慣れた」
大きなステージも、ステージから見える限りの客席を埋め尽くす火種の姿も、一心不乱に振られるペンライトと扇子も。
「あと、大人たちの無茶ぶりにも慣れた」
リーダーの言葉に、大が口の端をつり上げた。
「オッケー。じゃあ、突風巻き起こして行こうぜ」
「出だし大事、気をつけて」
直哉が自分のマイクの高さを確認しながら言う。
「了解」
「よーうかーい」
話が終わると同時に、大人たちのMCも佳境に入る。
「〈さあ、火種の諸君も一緒にご唱和ください。なんて言うかは、わかってるよね?〉」
「〈間違えるなよー。扇子の方じゃない方だぞー!〉」
「〈ヴァン・ド・ラファール、正式結成一周年〉」
「〈黒き豹(ジャガー)よ、その咆哮を〉」
「〈過去から現在へ現在から未来へ繋いで行くといい!〉」
「〈〈頂きにて────!〉〉」
【咆哮せよ!】
センターステージにいる二人が、メインステージを指し示すと同時に、暗いステージが煌々とした強いライトで照らされる。
満月の夜の森を表した衣装に身を包んだ三人が、現世と亡者、火種の前に姿を見せた。
前奏が流れると同時に大きな破裂音が炸裂して、青緑と海の色をした紙吹雪が舞う。
前奏が終わるまでの短い時間の中で、まず樹から口を開いた。
「現世のみなさん、そして亡者のみなさん、こんにちはー! ヴァン・ド・ラファールです! おかげさまで、結成一周年を迎えることができましたー!」
「この世には、好きな人に会いに行きたくても行けない人がいるから、どんなに有名になっても、どれだけ忙しくなっても、会いたいと願う人がいる限り、会いに行く。そんなユニットになれればいいなって思います」
樹の言葉に直哉が続け、直哉が大に目配せをする。
「さあ、現世と亡者のみなさーん! 獣の歌が始まるぞー!」
直哉が会場に向けて、手を差し出した。
「扇子を振る準備はよろしいですか──?」
豪華炎乱の地獄と地獄の業火をイメージして作られたステージが、一転して星空を装ったステージへと切り替わる。
炎の映像が多く流れていたモニターには星空の映像が流され、時おり流れ星が流れていた。
きらきらと舞う紙吹雪の中、三人の獣たちが鬼頭昴の籠目の星を歌う。
初代ヴァン・ド・ラファールの為に二人用に作られたデビュー用の曲だったけど、結局二人でのデビューは叶わず、鬼頭昴一人で歌ってデビューした。
その歌が、三人用に編曲されて、披露されている。
舞台袖にいた初代ヴァンドで鬼頭昴の元相方、日向橘(ひゅうが たちばな)は、ステージで踊る獣たちに一足早く拍手を送った。
「やっぱいい出来じゃん」
傍らに立つ鬼頭に囁く。
鬼頭はステージを見ながら「当たり前だろう」と返した。
《六連星に呼ばれて 進んだ先には》
《物事がうまく廻る世界ではないけど》
《あげ続けろ咆哮 燃やして行け魂》
《途切れさせるな この意志を》